反逆の英雄譚~愛する幼馴染が処刑されそうだったので国を捨てることにする~

おとら

一章 白き虎

第1話 白き虎

 俺の耳に爆音と、叫び声が響き渡る。


 味方と敵の血が舞い、死体の山ができる。


それでも俺は、ひたすらに剣を振るい続けた。


「ナイル!」


 俺は剣に魔力を纏い、部下に迫っていた火の玉を斬る。


「隊長!あ、ありがとうございます!」


「気にするな。それよりよそ見をするなよ? まだ、戦いは終わっていない」


「は、はい!」


その後、戦闘を続けるが……こちらの分が悪い。

上官の無茶な作戦により、次々と部下達が倒れていく。

そして、一人の部下が命を散らそうとしていた。


「た、隊長……」


「しっかりしろマルコ! まだ死ぬんじゃない! 誰かこいつを下がらせろ!」


「で、でも俺が下がったら……」


「俺がなんとかする!」


 くそったれ! 上の連中は何を考えてやがる!

 自分の手柄のために、兵士を使い捨てやがって!

 その後も戦闘は続き、日が暮れる頃ようやく今日の戦いが終わった。

 そして、部隊の皆と食事をとる。


「隊長……さっき、マルコが死にました」


「そうか……あいつは確か、故郷に婚約者がいたな……すまない、俺の力不足だ」


「何を言ってるんですか!? 隊長がいなかったら、俺らなんてとっくに死んでます! あいつは、あのクソ上官の無茶な命令で死んだ!」


「大きな声で言うな。あいつの取り巻きに聞かれたら面倒だ」


「そもそもおかしいですよ!? なんで、何もしないで偉そうにしてた奴らが昇進したり、帝都へ移動とかになるんですか!? 英雄と呼ばれる隊長なら納得がいくのに!」


「仕方あるまい、貴族の階級がモノをいう。平民や下級貴族は、そう簡単には上にいけない仕組みだ」


「なんなんですかこの国は!? 中央政府の奴らは優雅な生活をしてる! 国を守っている俺らには食料すら渋るのに! ……俺、隣の国に逃げ出す人達の気持ちがわかります」


「本当に上層部は腐っているらしい。自分達さえ良ければそれでいいと。街の人々にも情報統制を行なっているのか知らされてないと思う」


「どうして、命がけで国境を守っている俺らがこんな目にあうんですか? 俺らがいなかったら、自分達だって危ないのに……」


「お偉いさん方には、それが理解できないのだろう。市民の人達も現実味がないのだろう。どこか別の世界の話とでも思っているんじゃないか?」


「もう嫌ですよ……こんな国……」


 俺も本当なら、こんな腐った国は捨てたい。

 だが、この国を捨てられない理由が俺にはある。

 幼馴染で俺の命の恩人にして、愛する女性がこの国の皇太子の婚約者だからだ。


 「カグヤは元気でやっているだろうか……」


 俺の黒髪は、戦場にいるうちに真っ白になってしまった。


 そしていつの間にか、英雄白き虎と呼ばれるように。


 それでも君との思い出を胸に抱き、俺は戦場を生き抜いている。


 俺は焚き火の炎を見つめながら、昔を思い出していた……。

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