第2話 幼馴染との思い出
俺の生まれた国の名前は、東一帯を支配するベルモンド帝国。
西には敵対しているザラス王国。
西南は魔物の住む森がある。
南には、ほぼ支配下に置いているマルグリッド王国。
そんな中、俺は伯爵であるゼーネスト家の長男として生を受けた。
母上は男爵であるフェイス家の女性だった。
なんでも先代の伯爵家当主が、母上の父に命を助けられたようだ。
そのために、身分差はあるが結婚という運びになったとか。
だが父は、男爵家の母上が気に食わなかったらしい。
表面上は普通にしていたが、息子である俺も可愛がられた記憶がない。
おそらく、貴族の義務として子供を作っただけなのだろう。
しかし母上は決められた結婚だったが、父のために色々と尽くしていた。
だが、夫婦仲が良いとは言えなかっただろう。
そんな時、俺は辺境伯家の女の子に出会った。
その子の名前はカグヤ-ムーンライト。
俺より、歳が一個下の赤い髪が似合う女の子だ。
辺境伯家当主が若い頃、母方の祖父に世話になった関係で王都に来ると遊んでいた。
「ねえねえ!クロウ!大きくなったら、私をお嫁さんにしなさい!」
「えー、お前お転婆だしなぁ……もう少しお淑やかになったら考える」
「何ですって!?もう一度言ってみなさい!!」
「 肩を揺するなって! そういうところだよ!」
そんな会話がなされるぐらいには仲が良かった。
照れ臭くてそんなことを言った俺だが、既にカグヤに好きだった。
いつかは、彼女と一緒になることを疑っていなかった……あの時までは。
俺が十二歳の時に、両方の祖父がほぼ当時に亡くなった。
そして父が第二夫人を娶り、母上と俺を追放した。
そしてその女との間には、すでに子供がいた。
しかも母上の生家である男爵家に手を回していたようで、母上の兄であるろくでなしで有名だった次男が跡を継いだ。
長男は、おそらく殺されたのだろう……誰も口にしないが。
そして、俺と母上は実家からも追放された。
俺と母上は王都を当てもなく彷徨い、遂には死にかけた。
そんな時だった、カグヤが現れたのは。
カグヤも会うことを止められていたので、会うのは数ヶ月振りだった。
十歳になった彼女は、より可愛い女の子になっていた。
「ようやく見つかった! 良かった……!」
「カグヤ? どうして君が……」
「いいから! もう喋らないで!」
そして泣きながら、俺と母上に抱きつく。
その後俺達は伯爵家の領地に行き、そこで生活をすることになった。
ムーンライト辺境伯家は南の国境の守り手だ。
魔物の住む森が近くにり、更にはマルグリッド王国に目を光らせている。
いわゆる、この国の守護者だ。
俺は、そこで三年間暮らすことになる……母上は来てすぐに死んでしまう。
あの親父のせいだ……あんなに尽くした母上を、ボロ雑巾のように捨てやがった。
俺は怒りと悲しみでどうにかなりそうだったがそんな時もカグヤはそばに居てくれた。
もしカグヤがいなければ、俺は自暴自棄になっていただろう。
何とか持ち直した俺は、恩を返すべく鍛錬に励んだ。
ここは魔物との戦いや、隣国との小競り合いが発生する。
俺は世話になった恩返しがしたかった。
俺には剣の才能もあり、攻撃魔法こそ使えないが身体強化の魔法が使えた。
だが俺が十四歳の時、カグヤとの別れが訪れた。
カグヤが皇太子の婚約者に選ばれたのだ。
皇太子の祖父が決めたらしい。
辺境伯が裏切らないようになのか、辺境伯との絆を深めるためだったのか。
真相は闇の中だ……その一年後に先帝陛下が死んでしまうから。
何はともあれ、カグヤは王都へ行ってしまった。
そこで婚約者として学校に通い、皇太子と親交を深めるそうだ。
ただの平民になった俺には、それを止める術はない。
残された俺にできることは、ただ一つだけだった。
強くなり、カグヤが王妃となるこの国を守ることだ。
西の国境はより厳しいというので、そこを守ろうと心に誓った。
なので、一年後に辺境伯当主であるヨゼフ様に願い出た。
とても有り難いことに、武器や防具までくれて送り出してくれた。
その後、今いるこの場所で戦い続けた。
そしていつの間にか、英雄白き虎と呼ばれるようになる。
兵士達からは尊敬を込めて、お偉いさんからは嫌味を込めて。
だが所詮はただの百人隊長止まりで、救える命も限られている。
今日も部下を死なせてしまったし、正直もう嫌だと思うことはある。
だが、カグヤが幸せに暮らせるならばと歯をくいしばっている。
「なあ、カグヤ」
君はどんな女性になったのだろう。
俺は二十歳になって、身長も百八十を超えて体格もでかくなった。
カグヤは、もう十八歳か……そろそろ、結婚するのだろうか?
会いたいけど会いたくない……流石に、祝福はできそうにないから。
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