歯車
安形 陸和
第1話
息をするのも苦しい。
食事をしても吐き気が付き纏う。
身体が動かない。
伸び切った髪と髭は酷く滑稽に映る。
目の前の自分に向かってお前は誰だと問いかける。
答えは無い。
宛もなく街を彷徨っては何もせず家に帰る。こんな生活が1年程続いている。1年前の僕はこんな物ではなかった。過去に縋るほど落ちぶれちゃいない。今の僕が僕である以上は。
もう何も得るモノは無いと思っていた街には得るモノがあった。家電量販店に置いてあるテレビから。世間を賑わせている表現家から。僕は帰路に着いた。
男には夢があった。邪な夢であった。男が憧れた小説家のように、死後に評価されるようなそんな存在になりたい。ただそれだけだった。男は文字通り必死に書いた。売れない。売れなくてもいいと思っていた男は書くのを辞めた。
街を彷徨うのを辞めた。行く必要が無くなったから。未来に希望が持てた。今の僕は未来の僕では無いのだから。
彷徨っていた街は酷く滑稽に映る。今の私には必要の無い事であるから。世間を賑わせている方には頭があがらない。私はずっと家にいる。
街へ行こう。髭と髪を整えるために。
歯車 安形 陸和 @yudouhu79
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