第38章−3 異世界の兄弟喧嘩は手加減なしです(3)
「これで扉を開ける手間が省けましたね」
「え? いや、フレドリックくん? そういう問題じゃないよ?」
(キミはなんてことを……やっちゃうんだよ……)
「このままここに留まれば、勇者様のお耳が汚れてしまいます。早々に立ち去りましょう」
と言ってなにごともなかったかのような顔で、オレの方にすっと左手を差しだす。
そのとても自然で流れるような動作に引き寄せられるように、オレは反射的にエスコートの手を握ってしまったけど……ちょっと、これは……このまま立ち去るのは、まずいのではないかい?
だれかなんとかしてほしい……。
助けを求めるように、整列している騎士たちへと視線を向けるが、全員が正面を向いたまま、つつっと視線だけを反らせる。
(あ、みなかったフリ。なかったコトか)
このままずっとここで立ち話というわけにもいかない。
騎士さんたちも非常に困惑しているようだ。フレドリックくんの言う通り、早々に立ち去った方が、みんなのためにはいいだろう。
エスコートされるがままに、オレは歩き始めた。
フレドリックくんは、城の中へと入ろうとする。
当然、向かう先は城内へと通ずる入り口の扉……があった場所であり、そこにはフレドリックくんの拳でぶっとんだエリディアさんと不幸な三名の騎士がいる。
地面を見れば、粉々に砕けた木が散乱しており、それを破壊した三名の騎士たちがうめき声をあげながら立ち上がろうとしている。
「もう……フレッド! カオはダメって言ってるでしょ! カオはダメよ! ボディにしなさいな」
身体についた埃をパタパタと払い落としながら、エリディアさんはすくっと立ち上がる。
「エリディアさん……」
「エリー、とお呼びください」
マイペースなヒトらしく、優雅にお辞儀もされてしまった。
「エリーさん、大丈夫でしたか?」
「え? あ? これくらい大丈夫ですよ」
なんてことありません。と、にっこり笑うエリーさん。
強がっているわけではなさそうだ。
本当に、ノーダメージっぽい。
髪や服にはまだ埃や木くずがついているが、意外にもピンピンしているし、フレドリックくんの拳がめりこんだ右頬も無事だ。
回復魔法をつかったのだろう。
あれだけの威力のぐーパンが、頬にめりこんだのに、無傷なんてありえない。
「勇者様、ご心配していただきありがとうございます。これくらいのコトは兄弟喧嘩で慣れておりますので、たいしたことではございません」
「あ、ああ……?」
たぶん、オレの顔はどうしようもないくらいにひきつっていただろう。
ラーカス家の兄弟喧嘩って、どんなんだよ!
それとも、こっちの世界の兄弟喧嘩って、扉が壊れるくらいの殴り合いがあるってことか!
怖いよ……。
異世界の兄弟喧嘩。
オレの膝がガクガク震えたが、エリーさんもフレドリックくんもそれには気づかなかったようである。
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魔王様が異世界に召喚されてしまった後、生き残った部下たちの奮闘記の連載をはじめました。
コメディで、BLシーンはない……はずです。
『お住まいの閑散日対策委員会〜そんなの勝手にやってイインカイ?〜』
https://kakuyomu.jp/works/16818093073247414764/episodes/16818093073247506449
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