第38章−2 異世界の兄弟喧嘩は手加減なしです(2)

「フレディア殿のご子息?」

「はい。そうです。あ……フレッド……フレドリックは、わたしの弟でございます」


 フレディア・ラーカスとは、騎士団長サンの名前。


 つまり、フレドリックくん、エリディアさん、聖女様は兄弟だ。

 同母なのか、異母なのかは情報不足でわからないけどな。


 九人兄弟といっていたから、まあ、確率的に遭遇しても不自然じゃないよな。


 確か、以前、フレドリックくんが男兄弟しかいないと言っていたので、目の前のエリディアさんも男なのだろうね。


「……フレドリックくんがおとうと? 恋人とかじゃなくて?」


(しまった! 声にでてしまった!)


 オレの言葉を聞いたエリディアさんの目が大きく見開き、その後、にやりと笑われる。

 ちょっと嫌な笑い方をされてしまったよ。


「んまぁっ。勇者様ったら! おちゃめさんなんだからっ!」


 声音を変えて、エリディアさんがクスクスと笑う。

 市場でみかけるオバちゃんみたいな反応だ。


 少し高めな……一週間前に聞いた馴染みのある声だった。


「隊長! 勇者様に無礼ですよ」


 フレドリックくんが、ぶすっとした顔で注意する。


「あらあらあらあら! あらいやだ! フレッド! この、この、この――っっっっ」


 エリディアさんはニヤニヤ笑いながら、バシバシとフレドリックくんの背中を乱暴に叩いている。


 フレドリックくんは無表情だが、音の大きさからして、アレは痛そうだ……ではなく、絶対に痛いだろうね。


 なんてったって、オレとドリアをまとめてぽーんと、空に放り上げた剛力の持ち主だからな。


 不意に攻撃的なエリディアさんの手が止まった。


「なんですか?」


 渋い顔で、フレドリックくんがエリディアさんを睨みつける。


「あら? え? やだ! まあ! まあ! フレッドったら! え――っっ! いやん!」


 エリディアさんは急に黄色い声をだして、自分の両頬に手をやる。

 くねくねと身体を動かし、顔はちょっと赤らんでる?


 女子っぽいエリディアさんの歓声と反応にオレはめちゃくちゃ驚いたが……騎士たちは平然と立っている。


 訓練されているからか、それとも、エリディアさんのこの反応は日常的なことなのだろうか。


「ちょっと、フレッドったら、お父様もいらしたのに、いつの間にやっちゃったのよっ? 『ボクハ、カンケイアリマセ――ン』みたいな、涼しいカオをしてた子が、色気づいちゃって! どうしたの? どういう方法で、できちゃったのよ? えっ? えっ? それとも、まさか……お父様公認ん……ぐはぁっ」


(えええええ――っっ!)


 フレドリックくんの拳がエリディアさんの右頬にメシっと音をたててめり込み、エリディアさんが……。


 ぶっとんだ!


 エリディアさんが飛んだ先には、不幸にも騎士が立っており、三名の騎士を巻き込んで、さらに後ろへと飛んでいく。


(な、な、なにぃぃぃぃっ!)


 ものすごい勢いで飛んでいったエリディアさんと巻き添えをくらった騎士たちは、新調されたばかりであろう木製の扉にぶつかった。

 そして、大きな音を立てて扉が粉々にぶち壊れる。


(ひぃいいいっ)



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