第38章−1 異世界の兄弟喧嘩は手加減なしです(1)

 オレを運んできた馬車は、見覚えのある場所で止まっていた。


 城の東門だ。


 一週間前に行われたダブルデートのスタート地点だ。


 いわゆるフリダシに戻るというやつなのか?


 ドリアが蹴破った扉は、無事に修理……いや、妙に新しいから、新品と交換されたのだろうね。


 馬車から降りるときは、フレドリックくんの差し出された手をとり、オレはゆっくりと踏み台を降りていく。


 ふわりと載せただけのオレの手を、きゅっと握られてしまい、オレの心臓が口から飛び出そうになる。


(あ――っ。びっくりした)


 ドキドキしながら馬車を降りると、目の前には、数十名の近衛騎士がずらりと整列しており、オレに頭を下げている。


 いつもながら、この一糸乱れぬ姿は見ていて気持ちいいね。


「勇者様、お帰りなさいませ」

「お帰りなさいませ」

「あ、ああ……。出迎えご苦労」


 しかし……。


 大勢で……こんな……お帰りなさい、大歓迎! という演出をされても、身の置き場に困るよ。


 というか、オレを見つめる近衛騎士たちの目が、なんだか「待ってました救世主登場!」みたいな、キラキラしているのは、いかがなものかな……。


 妙に熱のこもった、期待に満ちた目線にどう対応してよいのかわからず、オレは鷹揚に頷きながら、近衛騎士たちが並ぶ前に立った。


 立ちたかったのではなく、ルート上にずらりと並ばれていたら、強制的にそうなってしまうだろう。


 その集団の中から、ひとりの近衛騎士がキビキビとした動作で進みでてきた。


 他の騎士と比べて衣装デザインが立派なので、この中では一番エライヒトなんだろう。


 長髪のすらりとした男性だ。容姿端麗。髪と瞳の色は赤。


 フレドリックくんの赤よりは少し濃くて鈍い色だ。


 初めて見るヒトなんだけど、何故か見覚えがあるよ。

 見覚えというか、誰かに似ているなあ……と思いながら、首を傾ける。


「勇者様。あのときは突然、お倒れになって心配しました。ご無事でなによりです」


 赤髪の近衛騎士は左手を胸に当て、優雅にお辞儀をする。


 礼儀的なのだが、妙に馴れ馴れしい。

 初対面ではないのだろうか?


(はて……? どちらさま?)


 オレの疑問が顔にでたのだろう。


 赤髪の近衛騎士は「しまった」という顔になった。


「失礼いたします」


 そう言うと、近衛騎士は両手を首の後ろに回し、髪をひとつまとめにして、頭上にくいと持ち上げた。


 ポニーテール?


「あ、あ、あ、あっ――!」


 ごめんなさい。


 あまりの驚きに、指さしてしまいました。


「え、エリーさん?」


 オレのすっとんきょうな声に、目の前の近衛騎士はニッコリと笑った。


 そうだね。そうだね。エリーさんも、こんな風に笑ってたよね。


「この姿では、お初にお目にかかります。フレディア・ラーカスの第二子エリディア・ラーカスと申します。近衛騎士隊長を務めさせていただいております」


 優雅なエリディア……さんのお辞儀をオレは呆然と眺めていた。




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