第37章−5 異世界の脳内会議はグダグダです(5)

 なぜなんだよ?


 どうしてそういう設定なの?


 単に、女神たちが面白がっているだけなんじゃないか……と思わなくもないね。


 とりあえず、冷静になって、ドリアとやった後のことを克明に思い出してみることにした。


 ドリアと夜を愉しんだときは、魔素を消費してたなんて、これっぽっちも意識しなかったんだが……。ガンガン元の世界から魔素が補充されてたってわけか?


 で、さっきフレドリックくんに抱かれたわけだが……あの短い時間で、オレの魔素はマックスまで補充がなされ、ばっちり回復した。


 う……ん。

 やっぱり、アレに魔素が大量に含まれているんだろうか……。


 それをやるときは、補充ルートがしっかり繋って、太くなっている……。


 なんか、微妙に言語表現の観点から、ひっかかるところがあって納得できないが、まあ、ここがあの出産と豊穣、婚儀と情欲の女神アナスティミアのテリトリーであるのなら、このトンデモ設定は黙って受け入れるしかないのだろうね。


 ミスティアナが言ってたとおり、しばらくはその方法で凌ぐことができるということだ。


 急いで帰還する必要があるとか、オレの後釜をなんとしても探しだす……という必要もなさそうだ。


 至高神アナスティミアに会った後のオレは『そういうこと』に対する感情に敏感になっていた。


 聖女様ほどではないにしろ、恋慕の情が高ぶり、コントロールがうまくできない。


 今まで控えていた分、開放されたら制御できなくて、とんでもなくなる、というアレだろう。


 ドリアはオレの『運命の番たち』のひとりだ。これは間違いない。間違えようがない。めちゃくちゃ自信があるよ。


 そして、聖女様も困ったことにオレの『運命の番たち』のひとりだ。


 なんてことだ……。


 で、フレドリックくんもオレの『運命の番たち』のひとりだ。


 そして……と考えたところで、オレはぶるん、ぶるん、と、思いっきり頭を振る。


 オレが沈黙し、難しい顔で考え込んでいるのを、フレドリックくんが心配そうに眺めている。


 フレドリックくんを苦しませて、後悔させたくて、オレは彼に迫ったんじゃない。


 オレは全く傷ついていないし、むしろ、満たされているよ。


 いや、フレドリックくんのつれない態度にかなり落ち込んでいるが、それとこれは別次元のハナシだからね。


(と、とりあえず、コソだけは、しっかり話しておかないと……)


 真面目なフレドリックくんはなんでも自分の裡に抱え込んでしまおうとするから。


 今日のアレは、なかったことにするとしてもだ、オレとの行為を思い悩んで苦しむことだけはしてほしくないな。


 そう、それを話したくて、伝えたくて、オレはしぶるフレドリックくんを馬車に同乗させたのだ。

 当初の目的を忘れてはいけない。


「フレ……」


 馬が嘶く声が聞こえ、ガタガタと揺れていた馬車がぴたりと停止する。


「ド……」


「勇者様、どうやら到着したようですね」

「ああ……」


 馬車の扉がカチャリと音をたてて開く。

 フッレドリックくんは流れるような動作で席を立つと、さっさと馬車の外へとでていってしまった。


(や、やってしまった――!)


 オレは呆然としながら、馬車から降り立つフレドリックくんを見送ったのである。




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