第38章−4 異世界の兄弟喧嘩は手加減なしです(4)

「エリーさん……その、ダブルデートでは世話になったし、迷惑をかけた」

「迷惑……でございますか?」


 エリーさんは「ハテ、なんのことでしょう?」とでもいいたげに、首を傾ける。


「王太子殿下には迷惑を被っておりますが、勇者様はそのようなことは一切ございません。我々の方こそ、王太子殿下のトンデモ計画に対応しきれず、誠に申し訳ございませんでした」


 ん?


 今、さりげなく王太子殿下の悪口を言ってませんでしたか?


「次のダブルデートでは、ぬかりなく手配いたしますので、よろしくお願いいたします」

「え? 次もあるの?」

「もちろんです!」


 いや、そこで拳を握って、やる気マンマンにならないで?


「勇者様、次のダブルデートでは、わたしのドレスを着てみませんか? 勇者様にぴったりなドレスがあるんですよっ」

「断る!」

「勇者様の女子力を、皆々に見せつけてやりましょうよ」

「そんな必要はない!」


 あのドレス……エリーさんの私物だったのか、ということと、ドレスを最低でも二着以上は所持しているのか、ということにオレは内心で驚いちゃった。


「え――っ? 絶対に、似合いますよ? メイクもわたしにお任せください。バッチリやっちゃいましょうよ」

「必要ない。ドレスを着る必要があるのなら、シングルだろうが、ダブルだろうが、デートはナシだ!」

「間違いなく、似合うのに……」


 オレの断固拒否の宣言に、エリーさんはつまらなさそうに唇を尖らせる。


 ドレスだけでなく、メイク道具も私物なのかよ……と、オレが心のなかで呟いたのは言うまでもないね。


「勇者様、王太子殿下がお待ちです」


 エリーさんからオレを隠すように、フレドリックくんが割り込んでくる。

 どうしようフレドリックくんの機嫌がさらに悪くなっているよ。


「やっぱり、ドリアに会わないといけないのか……」


 あんなことをフレドリックくんとやった後なので、会うのにはちょっと、いやかなり抵抗があるよ。

 フレドリックくんは、オレがドリアに会っても平気なのだろうか?


 それに、今日はいっぱいありすぎて、もう頭がパンクしそうだった。

 明日にすることはできないのだろうか。


 正直なところ、布団に潜り込んで眠りたい……。


 というか、やっぱり、元の世界に帰りたいよ。

 元の世界にある自分のベッドと枕で眠りたい。


「勇者様、お疲れのところ申し訳ございませんが、勇者様のご無事なお姿を王太子殿下に……」


 フレドリックくんに頭を下げられて懇願されてしまった。

 背後でザザッと気配がする。驚いて振り返ると、オレを出迎えた近衛騎士たちも、ひとり残らず頭を下げていた。


 ……っていうか、エリーさんも、エリーさんと一緒に吹っ飛んだ近衛騎士たちも、復活して頭を下げてるよ。



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