或る家族の災禍

羽弦トリス

第1話テスト前に

僕は高校1年生の橋口健太。弟は中学2年生。名前は芳雄と言う。

今日は日曜日で、明日からは中間テストがあるというのに、稲刈りの手伝いに駆り出された。うちのコンバインで父の秋弘はどんどん黄金色の穂を垂れた稲を刈り取っていく。15分おきに、米が袋にたまり40キロはある米袋を土手に運び、コンバイン袋をセットする。

田んぼの四つ角は、コンバインじゃ刈れないので、鎌で母の美代子と芳雄は稲を刈り取り土手に積む。

この一連の作業を僕らは小学生時代から手伝っているので、16歳の少年である僕は農業歴は8年になる。

10月の青空の下、どんどんコンバインは稲を刈り取り、最後は土手に並べた、四つ角の稲を手でコンバインの歯に噛ませて、終了となる。田んぼはここの他に8箇所ある。

朝の8時から夕方の5時までに、2箇所田んぼの稲刈りをした。

10時と3時の茶休憩と昼めしは、母が握ったおにぎりと漬け物だった。

昼めし時に、母にひそりと、

「お母さん、明日からテストなんだけど、メガネが壊れて1万円貸して!バイト代で返すから」

と、言うと母は、

「分かったわ」

と、言って軽トラックに米俵を3つ乗せて温泉旅館に運んだ。

普通は一俵八千円で売るのだが、こちらが押し売りしている感じなので、我々親子の足元を見られ、一俵五千円だと言う。その場で、一万五千円を手に入れた母は、軽トラックの中で僕に一万円渡し、五千円は母の財布の中に入れた。

僕は、ここまでしてお金を作らなければいけない家庭で、大学進学を目的とした高校に通う事に不安を覚えた。

僕は農業高校に進学した方が良かったのではないか?と。


稲刈りは5時までであったが、収穫した米袋を乾燥機のある精米所に運ばなくてはならなかった。実に田んぼと精米所の往復が3時間もかかった。家族が自宅に戻ったのは夜の8時を過ぎていた。

あれだけ、肉体労働をさせられたのだが、夕めしは簡素なものだった。

卵焼きと即席ラーメン。

父は卵焼きで芋焼酎を飲んでいた。僕は将来、親になったら子供には腹一杯飯を食わせてあげたい!と、いつも思っていた。

この頃、おじいちゃんは自分で家の中では歩けたので、稲刈り間は母のおにぎりとお茶で家族を待っていた。

そして、父と一緒に焼酎を飲んでいる。

僕は風呂を済ませた後なので、めしを食ったら机のに向かった。中間テストの勉強である。

それは、深夜の2時まで続いた。

そして、朝の6時まで寝ると言うより仮眠をとり、7時には学校に向かってバイクを走らせた。NS1にまたがって。僕のバイト代で買ったバイクである。

テスト帰りにメガネ屋に寄る。また、度数がキツくなっていた。右目が0.4で左目が0.2である。

テストはまずまずであった。翌日もテスト。

だが、この貧しい家庭は僕を大学に行かせるだけの財力はないと知っている。十分に理解しているのだが、進学校を選択したのだから、頑張る他は無い。

ただ、自分のアイデンティティを保つには勉強以外手段は無かったのだ。

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