第3話祖父の死
翌日に修学旅行を控えていた。中学二年生の僕はカバンに下着や着替えの制服を詰めて、準備していた。
中学校の修学旅行は九州旅行だ。鹿児島から博多まで。
考えるだけで楽しい。
翌日の為に早く寝た。すると、トラック運転手の父親も、介護の夜勤をしている母親もいないのだが、玄関から「健太!健太!」と僕の名前を呼ぶ声が聴こえた。僕はベッドから抜け出し、玄関に向うと隣の家のオジサンだった。
「健太、今から老人ホームに行くぞ」
「何かあったんですか?」
「残念ながら、利行さんが亡くなったらしい」
「……おじちゃんが」
僕は着替えて、オジサンが運転席するスズキの軽トラで施設に向かった。
老人ホームは病院と併設された介護施設なので、僕が着いた時は職員が忙しなく動いていた。その中には母親の姿もあった。
そう、母親はこの施設で介護福祉士の資格を持ち、勤務していたのだ。
すると、僕らの姿を見た母親はオジサンと僕に気付き、
「正則さん、すいませんねぇ。こんな夜中に」
「美代子さんも大変でしたね」
「今から、葬儀の方が来て自宅に運んでもらいます」
「僕は明日からの修学旅行はダメだね」
「ごめんね、健太。こんな状態だから。明日の朝、学校に電話しとくから」
「うん」
着替えたおじちゃんの姿を見た。
まだ、生きているような気がした。オジサンは僕に缶コーヒーを買ってくれた。
11月なので、朝晩は冷えるのだ。朝の6時頃帰宅した。
トラック運転手の父親が家にいた。
僕は周りに散々迷惑をかけたおじちゃんを憎んだ。修学旅行と言う、僕にとって初めての旅行を台無ししたおじちゃんが憎い。
親戚な絵里も、修学旅行をキャンセルした。
ひ孫だからだ。
ずっと学生服で、通夜の晩は正座して弔問客への挨拶をした。
夜の23時まで起きて、シャワーを浴びその晩はぐっすり寝た。
朝、怒鳴り声で目が覚めた。僕は耳をすませて、会話を聴いていた。
どうやら、財産の話しをしているようだった。
財産分与で不満を持つ、父方の親戚が言い合いをしている。
貧乏な家庭の家は、山、畑、田んぼしか財産は無い。しかも、おじちゃんは一銭もお金を持っていない。
父親もそうだが、父親の親戚も性格が悪い。意地汚いのだ。
僕ら兄弟は、寝室から出るに出られなかった。
話しが静まると、歯磨きして朝ごはんを食べた。
ご飯とたく庵だけの、質素なご飯。こんな、経験をしたから、大人になったら食べ物の美味しい店で飲むのを楽しむ事になるのだ。
葬式が始まった。
弓道で鍛えらたので、長時間の正座は気にならなかった。
いよいよ、出棺の時。
おじちゃんが眠る、棺桶に花を一杯いれた。
そして、僕は霊柩車に乗りおじいちゃんの遺影を持った。後の家族、親族は葬儀屋が手配したバスに乗って火葬場に向かった。
霊柩車が最期のクラクションを鳴らす。
たまらず僕はボロボロと涙を流した。さっきまでは、憎たらしいおじいちゃんだったが、小さな頃のおじいちゃんの思い出が一気に浮かび、悲しんだ。
火葬場で最期の対面。
父方の長男がボタンを押した。
数時間後、骨壷に足の骨から箸で掴み、橋渡しして入れて行く。
職員が、
「これが、喉仏です」
と、説明した。
自宅に帰ると大人は酒を飲み、僕らはジュースを飲みながら、修学旅行に行けなかった、絵里と喋っていた。
絵里も楽しみにしていたらしい。
僕もそうだとぼやく。
結局、財産分与は山と畑を分ける事で話しが付いた。
コイツはおじいちゃんのオムツ交換さえしたこと無いのに、財産、財産とうるさかった。
僕らは、それや入浴介助、食事介助していたが、僕らには何のお礼も無かった。
兎に角、高校卒業したらこの家を早く出たいと思っていた。それが、中学二年生の秋の深まった季節だった。
或る家族の災禍 羽弦トリス @September-0919
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