第32話 寝ずの番で朝まで
ネクターをお腹いっぱい食べた私たちは、日の出までの短い間に仮眠を取る事にした。
ここから拠点に戻るには三日はかかる。不眠不休のままではいられない。
戦闘での体力消耗が激しかったからか、みんな速攻眠りこけた。そんな中、寝ずの番を買って出たのはエイスだ。こういう時はリーダーって損だよね。
私も寝ていいと言われたけれど、なんとなく目が冴えて眠れない。寝づらいだろうからと腕の縄は外してもらったけれど、至近距離で監視されているのがどうしても気になる。
手持ち無沙汰な私は、倒木に身体を預けながら自分の足元にラムの種を撒き、実を育てた。
とりあえず気晴らしに自分で食べる分だ。
「……ほんとすごいな、その魔法」
エイスが小声で話しかけてきた。
「でしょ? エイスも食べる?」
「……いや、俺はいい」
「毒は入ってないよ」
「そこは疑ってないけどな」
「じゃあどこを疑ってんの」
「…………」
しまった。やぶへびな話題を振ってしまった。
「まぁ、そりゃルーの……ルーとアリシャの目的だな」
まぁ、めちゃくちゃ怪しいよね。自覚はありまくる。
「だから、本当に手伝うつもりなんだってば。だからキルキスから戻ってきたんだよ」
「……全然説得力がないな」
「えー、まじで? 私が手伝っていたの、エイスも見てたでしょ」
「……手伝うことが目的なら、なんで今の今まで魔法を使えることを隠してたんだ?」
「それも言ったじゃん、一回目にあった時は協力する気はなかったんだよ。そのあと、キルキスの現状見て、協力しなきゃって思ったわけで……」
第二弾の必殺技、おおよそ嘘ではないが、真実全ては言わない作戦。まあ、通じるとは思えないけど。
そんな私の言葉に、無言のまま焚火に木をくべるエイス。無言は怖い、なんか言えよ。
私はラムの実を手の中で転がしながら続けた。
「……本当に協力しようとしてるんだって。いままで芋とか沢山むいてきたでしょ? 人を見るには言葉より行動を見ろってロジとか偉い人とかが言ってたし」
私は、援護してくれたロジの寝顔に視線を向けた。
「誰だよその偉い人って……」
「私も知らないけど……」
「知らないのかよ……」
「いや、知らないのは名前だけで、偉い人がそんなことを言ってたのは知ってる……」
なんだかグダグダになってきた流れに、エイスが大きくため息をついた。
「はぁ……まぁ、ルーの言う通り、行動だけ見れば助かったのは確かだけどな。言ってることは滅茶苦茶だとしても」
「でしょ? でしょ?」
エイスの「助かった」の言葉に、期待を込めて視線を返す。
「それに、ルーのように魔法を使える人間が協力してくれるなら、心強いのは確かだ。たとえ言っていることは無茶苦茶だとしても」
「だよねー! だったら協力するにかぎるよねー」
エイスの言葉に、私は笑顔を浮かべる。
「いや、言ってる事が無茶苦茶だから信用できないって言ってるんだが」
「…………」
そうかよ、だったら最初からそう言えよ。
「じゃあ、どうしたら信用してもらえるんですか、お代官様?」
「……全部正直に話す、それが一番だ。そもそも最初からおかしいだろ、ルーはクルーシャの農園から逃げてきたと言ったな。ただ、ルーみたいに魔法が使える人間が逃げてくるのは不自然だ」
「……えー、そこから疑ってんの? 酷いな。本当に奴隷農園から逃げてきたのに」
疑いポイントは正しい。私はクルーシャから逃げてきてなんていない。ただ、奴隷農園から逃げてきた事自体は本当だ。盗賊になる前のことだから、三年以上前だけど。
「……じゃあ、逃げてきた理由はなんだ?」
「それも前に言ったじゃん。あんなところ嫌にきまってるって。あそこじゃ食べ物もろくに貰えなかったし、鞭打ちもしょっちゅうされてた」
言いながら、私は右手首に巻いている布をほどいた。
布の下から現れたのは、奴隷農園にいたころに受けた鞭打ちの傷だ。数年前のものだからだいぶ薄くはなってるが、見れば分かるだろう。
「他にもあるけど」
そう言った瞬間、エイスは、自分自身が傷ついたかのような顔をした。
いや、そんな顔をされても困るんですが。
「……そうだな、悪かった」
エイスの表情に、なんだか悪いことをしたような気持ちになる。いや、実際嘘つくって悪いことはしてるんだけど。
「じ、じゃあこれで無罪放免って事で……」
なんとか話を終わらせようとした私の言葉に、エイスが大きく息をついた。
「……そうだな、とりあえず今はルーの言葉を聞いておくことにするよ。ただ、ルー、一つだけ言っておく。仲間に手を出したり、裏切ったりしたら許さないからその点は覚悟しておいてくれ」
エイスの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
「……といっても、魔法を使えるルーを俺たちでどうにかできるとは思わないけどな」
それは、私の興味のある話題だった。以前から考えていた事でもある。
「うーん、どうにかできないって訳でもないんじゃないかな」
「……そうなのか?」
「うん、ちょっと試してみたいんだけど、その銃、私の土壁で完全に防げるか分からないんだよね」
「……銃、か」
「弓と比べると威力がダンチだしね。何発かで崩せるんじゃないかな。だから何人かで組んで連射でもされたら死亡エンドよ」
「連射か……」
私は、ここぞとばかりに銃を観察する。
私は銃に詳しくない。だからこの戦線で使う銃も、前世と比較してどの程度のものなのか分からない。
銃の初期といったら火縄銃だが、彼らの銃には縄のようなものはついてない。だから、火縄銃ではないのかもしれない。ただ、そもそも火縄銃がどんな姿をしているのか知らないから、私には判断がつかなかった。
「ちなみにその銃ってどうやって火をつけるの? 連射とかできるの?」
「……体験してみるか?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、肩にかけた銃に手を添えるエイス。
「見てみるか?」ではなく「体験してみるか?」と言うあたりがいやらしい。あからさまに「被弾してみる」という意味だった。
「……エイス、ちょっと怒ってるんでしょ、私に」
エイスのこれみよがしな表情に、ちょっとは反論もしたくなる。
「……いや、もう怒ってないよ」
「そのセリフを言って怒ってなかった人を見た事ないし」
「なら怒ろうか?」
「いや、いいや。ていうか、エイスが怒ってないなら、私ももうさっさと寝ようと思う」
旗色がこれ以上悪くなる前に寝るに限る。
私は改めて枯れ木に身体を預け、エイスに背を向けて瞳を閉じる。
寝る意志の表明だ。
「どうせもうすぐ夜明けだぞ」
「……秒速で寝れるから大丈夫」
「秒速……まぁあまりゆっくりはできないだろうけどおやすみ、ルー」
背後から再び銃の金属音が響いた。
……ていうか、寝てる間に始末されるってことはないよね?
若干ビクビクながら、私は目を閉じた。
そのあと金属音が聞こえてくることはなかった。
それから二日。帰りは行きよりも短時間で戻ることができた。
少し遅れて帰ってきたレド隊に比べて、食べ物で苦労していなかったから、お肌だってピチピチしているしね。
やっぱり土魔法って最高だわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます