第27話 コソボロさん
朝日が登るころ、私はキルキスの外へと脱出し、アリシアを拾ってキルキスから逃げ出した。
今は森の中をえっちらおっちら歩いている。
行き先は、奴隷解放戦線のアジトだ。
「……早く説明してくれない? コソボロさん」
斜め後ろからアリシアの声が響く。
私はチラりとアリシアを見た。顔が怖い。アリシアが私をこんな風に呼ぶ日は100%機嫌が悪い日だ。いや、そもそも機嫌がいい日なんて見たことがないけれど。
「どうしてあなたが帰ってくるや、キルキスからボロボロと色々人が逃げていくことになったの?」
「アリシアって割とボロ使ったダジャレ好きだよね?」
「…………」
「いや、だから、もう一回奴隷を逃がしたら結構な騒ぎになって、んで、朝になったら今度は色んな人がキルキスから逃げ出しはじめて……。でもこれでいいんだよ、お陰で私らがキルキスから逃げ出したってのに説得力が出るよ?」
「それって後付けで言ってない?」
「後付けだろうがなんだろうが、結果が大事だよ」
「やっぱり後付けじゃない」
アリシアはどうやらとっても怒っているみたいだ。事前に何も言わなかった事や、アリシア置いていった事、何から何まで気に入らないらしい。
でも仕方ないよね、一緒にやるわけにもいかないんだから。
おかげで私たちも急いでキルキスから逃げ出すことになった。
そんな中でも私は、道すがら多くの果実を実らせて歩く。
気分はヘンゼルとグレーテルだ。同じルートを使って逃げる奴隷たちに、少しでも物資を届けるためにやっている。
「バカじゃない? こんな時期に直線状にラムが実ってたら怪しすぎるわ」
歩きながらラムの実を育てている私に、フルスイングの暴言をぶつけてくるアリシア。
「大丈夫だって、こんな広い森の中じゃ誰も気付いたりしないって」
「誰も気付いたりしないなら何のためにやってるの?」
「…………」
とにかく私は、アリシアの進言を装った暴言を素直に受け入れ、果実のバリエーションを増やして悪目立ちしないようにした。
使う呪文はもちろんアリシアの悪口だ。アリシアからは途中で「私の名前を変な呪文に入れないでくれる?」と苦情が入ったが、そこは無視して気を晴らす。
キルキスから出て半日。
日が暮れ、野営の準備のために穴を掘る。
穴掘りというものは、掘れば掘るほど上達するものなのだろう。
少し前だと1LDKほどの穴を掘るのにはそれなりの集中力と発声が必要だったのに、もはや無言で作れるようになっていた。そろそろ穴掘り名人を名乗ってもいいかもしれない。
……夜半に雨が降り、土が崩れて二人とも流される前まではそう思っていた。
土は私の味方だとずっと思っていたけれど、こりゃ違うね。あいつら、機会があったら土葬してやろうと虎視眈々と狙ってきてるよ……。
翌日も、ただひたすらに歩き続ける。
キルキスの警備兵には、周辺をくまなく捜索するほどの余裕はないのだろう。丸一日ほど歩けば警備兵を見かける事はほとんどなくなった。だから後半は比較的のんびりとした行程だった。ただ、夜も監視だけは続けていたから、睡眠不足ではあったけれど。
そんなこんなで四日の日程をかけ、私たちは奴隷解放戦線の近くまで戻ってきた。
茂みに隠れながら、お久しぶりな洞窟の入り口を観察する。
「帰ってきました、仲間に入れてください」と言うなら知った顔の方がいい。だから出入りする人間の中から知った顔を探していた。
数時間が経過し、さすがに眠くなってきた頃。
近くに人の気配を察知したので、アリシアの顔を地面へと押し付けた。
ついでに私自身も茂みに身体を隠し、息を殺しつつ視線を向けた。
あの長身のフォルム。あいつは……エイスだ。
狩りでもしていたのだろうか、弓を携えながら音もたてずに洞窟へと戻るエイス。
ただ、観察しすぎたのがダメだったのだろうか。ふとエイスが振り返った瞬間に、灰色の瞳と目が合った。
間髪空けずに弓矢を向けられる。これは色々とダメだ。
私はアリシアの上に覆いかぶさりながら手と顔をあげる。
「えっ、ルーッ!?」
呼ばれた名前に、自分がルーと名乗っていた事を思い出した。
「あ……はい、ルーです」
茂みの中から身体を起こす。
同時に、私の下敷きになっていたアリシア……いや、アリシャも顔をあげた。ここで魔法を使う訳にもいかなかったから危ない所だった。
「へへっ、こんにちは。お元気ですか?」
なんて言っていいか分からず、とにかく必死に笑みを浮かべる。
灰色の瞳を大きく見開いていたエイスが、ゆっくりと弓を降ろし、その口元を緩めた。
「……ルー、アリシャ。心配していたよ」
うーん、一言目でこれが出るって、こいつ本当にお人好しだね。
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