第25話 日本の底力
私はギリギリの闘いを続けていた。
私がいま動かしているのは、二階建ての家に匹敵するほどの巨大なガンダ……岩のゴーレムだ。大量の物資を運ぶために、操作できる限界まで巨大な機体にした。
ちなみにその中に大量の旅行バッグ(麻袋)を詰め込んだせいで、私たちは袋の中に埋まっている。
このゴーレム、一歩歩くたびに身体が麻袋と一緒に跳ね上がる。そのたびにアリシアがギャーギャーと叫ぶもんだから耳が痛くてたまらない。
「ちょっと、ルビ、ほんとに大丈夫なの!?」
「いや、知らん」
「知らんじゃないわよっ! あなたが作ったモノでしょう!?」
「うるさい、生きる騒音! こっちは倒れそうなのを必死でなんとかしてんだ! 黙っててくれ!」
「倒れる!? 倒れるですって!? 冗談じゃないわっ!」
ただでさえキンキン声がうるさいのに、岩の室内で叫ばれたら本当にうるさい。私まで発狂しそうだ。
何度か危ない局面を迎えながらも進むこと一時間。
暗い夜道の先に小さな明かりが見えてきた。あそこがカザル鉱山だ。
ここまで近づくと足音も向こうに届くのだろう、一歩進むたびに明かりの数が増え、次第にいくつかの明かりがこちらに向かってきた。
「なっ!?」
「な、なんだあれはっ!?」
警備兵らしき奴らの声が聞こえてくる。
本当なら堂々と「モビル・バッグマン、参上!」とか名乗ってやりたいけど、身バレ厳禁で大声は出せないので黙ってく。
「……ねぇルビ、人がだんだん近づいてくるわよ、どうするのよ?」
「ノープラン、ノーアイデアで、ノーケアだ!」
「はぁ! 意味わかんない!」
「ああ、とにかくもう黙ってくれっ!」
どちらにしろ、今できることは転ばないように進むしかない。だから向こうから一方的に攻撃されることは覚悟していたが……。
「ば、化け物だっ! 逃げろっ!」
「お、おまえらっ、逃げるな……いや、に……逃げろ!!」
近づけば近づくほど、人が逃げていく。
そんな調子で、カザル鉱山のふもとまでたどり着いた時には、誰もいなくなっていた。正確に言えば、警備兵らしき者は全ていなくなっていた。
カザル鉱山は尖った峰を持つ巨大な鉱山だ。入り口は大きく切り開かれ、無数の穴があけられている。
その周囲には宿舎が五つ存在していて、警備兵が過ごす立派な宿舎がひとつと、奴隷が過ごすボロい宿舎が四つある。奴隷はこのボロい宿舎の中に留まっているはずだ。
私は、ボロい宿舎まで岩のゴーレムを進ませ、屋根を力づくで引っぺがした。
大きな音をたてながら屋根がはがれると、宿舎の中身が露わになった。
宿舎の中は、奴隷たちがみっちりと詰まっていた。彼らは口々に悲鳴をあげながら、身体を縮こませて視線を投げてくる。そして予想通り、足かせがはめられていた。この足かせを外すのが最初のミッションだ。
とりあえず私はゴーレムを使って、五つある宿舎の屋根と壁を全て壊す。
そして内側に積まれた麻袋をよじ登り、ゴーレムの首元から外に飛び出した。
鍵を探すためだった。
もちろん身バレは厳禁。
だから、私自身も麻袋をかぶって麻袋星人スタイルを取っている。
岩のゴーレムから飛び出してきた麻袋星人を見て、恐怖でパニックになる奴隷たち。それが面白くなってしまったので、遊び半分で奴隷達に向かってシャーと威嚇したら、まるで世界が終わるみたいに奴隷たちが泣き出した。
うーん、やりすぎた。麻袋星人は怖くないよー。
そんな風に一通り遊んだ後、立派な宿舎に入り、鍵を探し出した。
続いて、奴隷たちが繋がれているボロい宿舎へと戻り、手前にいた奴隷の足かせに差し込んだ。
カシャリと音をたてて外れる足かせ……どうやら解除できたようだ。
しかし、足かせを外した途端、私が何か言う間もなく脱兎のように逃げて行った。
旅行バッグを渡す暇すらない。
どちらにしろ、こんな風に一人ずつ鍵を外していくのは面倒だ。だから私は、隣で繋がれている奴隷に鍵を見せ、他の奴隷を指さしてからオッケーマークを手で作る。
その奴隷はブンブンと首を縦に振った。理解してくれたようだから鍵を渡すと、自らの鍵を解いた後に、次から次へと奴隷たちの鍵を解いていく。
よかった、ちゃんと話が分かる奴で。オッケーマークも通じたみたいだ。
足かせが外れた奴隷たちに向かって、ついてこいとジェスチャーをし、壊れた宿舎の外へと連れ出す。
眼前に立ちはだかるのは巨大な岩のゴーレム。その姿におびえる奴隷たち。
気にせず私は、ゴーレムの胴体にあるドアを開ける。
ゴーレムの内部からゴロゴロと麻袋が流れ出始めた。旅行バッグを渡すのだ。
ただ、予想外な事にアリシアも荷物と一緒になって排出されてきた。アリシアは驚いた顔でこちらを見つめながら、勢いよく地面に転がった。
やべっ! と焦った私は転がったアリシアを急いで土に埋める。
アリシアは麻袋なんてかぶってないから、顔がバレたかもしれないと思いつつ、恐る恐る後ろを振り返る。奴隷たちはただ呆然とこちらの方を見ているだけだった。訳が分からないのだろうか。うん、忘れよう。
気を取り直して、袋を手に取って、奴隷へと手渡した。そして逃げろと北の森を指を指す。
他の奴隷に対して同じこと繰り返すも、困ったことに奴隷たちは動こうとしなかった。ただの麻袋である私を恐々と見つめながら、荷物を手に立ち尽くす奴隷たち。
飼いならされているのだろうか、それとも訳が分からないのだろうか。
なるべく声は発したくなかったけれど、もはや口で説明するしかない。
私は、おっさんの声をイメージしながら低く呻く。
「さぁ、君達は自由だ。ここから逃げたまえ。ちなみに逃げるなら北東方向がお勧めだ」
ざわめく奴隷たち。それでもこの場から動こうとしない。
こうなったら仕方ない。
「さっさとここから逃げないと……シャイニング・フィンガーでひねり潰すぞ?」
言いながら、眼前のゴーレムの拳を振り上げる。その瞬間、黒い野鳥の群れが飛び立った。とたんに散り散りに走り去る奴隷たち。
さよならみんな、頑張って生き延びるんだよー。
そんな奴隷たちにも、色々な奴がいるのが分かった。一人で逃げていく奴もいれば、集団で逃げていく奴もいる。警備兵達の宿舎に入って武器を奪って逃げていく奴までいた。こういう奴が生き残るんだろうなーと思いつつ、援護射撃として立派な方の宿舎の中にあった物資を外に出しておいた。
奴隷を全て見送った後、一息ついた私は、岩のゴーレムの首元まで昇り、高い位置から彼らの行き先を見守った。
「ミッション、見事な完遂だ」
私はぽつりとつぶやいた。
「……まだ残っているわよ」
地面に半分埋まっているアリシアが、般若のような笑顔で私の方を見ていた。
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