第15話 分かるも何も
運ばれること数分。
私は、森の中の草むらに放り投げられた。
「ひふぁひっふぇ!(いたいって!)」
男たちの視線が一気に集まる。
「大人しくしろよ……」
先頭を歩いていた男が、岩に松明を立てかけた。そして手のひらを開いたり閉じたりしながら、左側から近づいてくる。
後ろにいた男も、アリシアを草むらへと降ろしたあとに、右から距離を詰めてきた。
一方、正面のパンの男は、私の足を縛る縄に短剣を当てた。
「動くなよ」
肩を押えられ、私は草むらへと倒された。
そのまま二人に足を掴まれ、短剣で縄を切られる。けれども彼らは足を離さない。
……これは、こっそり逃がしてくれるパターンは消えたか?
芋虫状態のアリシアが何かを叫んでいるが、何を言っているのか分からない。
ただ、いつまでもこの状態は困る。だからアリシアの口を塞ぐ布をめがけて、フック型の石を飛ばした。
何度も失敗しながら、ようやくアリシアの口の布がずれる。
「ルビさんっ!」
アリシアの叫びに男の視線が集中した。
「あ? なんでしゃべってんだ?」
私から視線がそれた一瞬に、今度は私の口を抑えていた布をずらす。ついでに、口の中に突っ込まれていた布を吐き、口を開く。
「ねーねー、アリシア、こいつらぶっ殺していい?」
今一番聞きたいことだった。
「なんだ、こいつまで……」
私に視線を戻す男たち。
「で、でも……」
アリシアの言いたいことは分かる。こいつらを殺すとトランに悪影響が出るかもしれないと言いたいのだろう。私もそう思ってるからこそ、今の命令のままでは動けない。
「でもじゃねーよ。さっさと命令を変えてくれない? でないと次はアリシアだぞ?」
「でも、そうすると村が……」
そのやりとりを聞いてか、男たちが大きく息をついた。
「……嬢ちゃん、安心しな。俺らは嬢ちゃんには手を出さねーよ。だからこいつが暴れたら止めてくれよな?」
その一言で理解した。
こいつらは保険でアリシアを連れてきただけだ。私とアリシアの関係を理解しての行動だ。心底腹立たしいやつらだ。こいつらを地の底まで打ち込みたい。
ただ、このままでは私が詰むので、とにかくアリシアを説得するのに全力を出す。
「アリシア、馬鹿だな、こんなことをする奴らの言葉を信じるのか? 次は確実にアリシアだぞ?」
「大丈夫大丈夫、俺らは嬢ちゃんの味方だぜ?」
「そうそう。あんたがいい子にしてたら、ついでに村にも便宜をはかってやるよ」
「ていうか、奴隷なんて別にどうなってもいいだろ?」
私は内心で舌打ちをした。
こんな下っ端(しらんけど)に村に便宜をはかる力なんてあるはずない。そうアリシアも分かっているだろう。
「アリシアはこいつらを信じるのか?」
そうは分かってはいても……アリシアはこいつらの言葉に逆らえない。アリシアにとっては、私なんかより村の方が大切なのだから。
証拠と言わんばかりに、アリシアは押し黙ったままで何も言わない。
「……再開といこうぜ」
私は再度、草むらへと押し倒された。
そんな中アリシアに色々言葉を投げてみるも、アリシアは私から視線を反らす事でその意志を示した。
アリシアからの許可は、もう期待できない。
だったら自分でなんとかするしかない。
私は、とにかく自分で出来ることを考える。
今、私は三人の男から抑えつけられていて動けない。魔法を使えれば簡単にこいつらをぶっ殺せるけど、その前に電撃が来る。
……ダメだ、無理な事ばかり考えていても仕方ない。できる事から考えないと。
ただ、自分でも思ったより頭が混乱していて、何をすればいいのか分からない。さっきも、もっと効果的なアリシアの説得方法があったかもしれない。そんな過ぎ去ったことは今はどうでもいいのに、脳内が後悔で戻ってしまう。
とにかくこいつらの手が不快で、足を引っ張ったり、蹴ったりした。その時、
「おい、暴れるんじゃねぇ」
頬に衝撃を受ける。男が私に拳を振り落としたのだ。
視界がチカチカと点灯する。ダメだ、今気を失ったら本当に終わりだ。とにかく命令に収まりそうな範囲でなんとかしないと……。
直後、私の内腿を触る手の感触がした。
――もういい、殺す。とにかくこいつらを殺す。
そう思った瞬間。
爆音が響いた。
「え?」
鼓膜が痛くなるほどの爆音が続けて三回、バン、バン、バンと。
同時に、私の頬に生暖かい何かがぺちょりと掛かった。
――目の前の人間から噴き出した血だ。
パンの男が胸から血を大量に噴き出している。私の足をおさえていたもう一人の男も血を流しながら倒れ込んだ。
「な、なんだっ!?」
唯一無事だった男が、勢い良く立ち上がる。
「お前か!? 何をした!?」
逆上した男が私に向かって蹴りを放つが、私は転がって避けた。
「くそっ!」
男はアリシアの方へと視線を向ける。
「おまえかっ……」
その瞬間だった。先ほどと同じ爆発音が三度響いたのは。
男の頭が四散する。まるでスイカが破裂したかのように、中に入っているものをばら撒いて。
「お、おぅぇぇぇ……」
正直、直視してはいけないモノだった。人の死は何度も見ているが、中身をはっちゃけるのはなかなかない。生暖かい湿気と鉄の臭さが鼻をつき、胃の底から何かがこみあげてくる。
なんとかそれを堪えながらも、私は音の発生源である草むらへと視線を向けた。
「……無事かい?」
草むらをかき分けて現れたのは三人の男。左から浅黒、長身、マッチョ。
こいつらが手にしている物――それは銃だった。
この世界に銃があるなんて。
もし、彼らが銃を向けてきた場合、私の魔法で対抗できるか分からない。
とはいえ、少なくともすぐに土壁くらいは作り出せるようにと、重い身体を堪えて立ち上がる。
「怪我はない?」
柔和な笑みを浮かべる長身の男。
「君は奴隷だよね、あいつらに連れてこられたんだろう?」
「……怖がらなくてもいい。俺たちは君の味方だ」
その言葉で気がついた。彼らは全員胸元を隠している。この時点でもはや答えあわせみたいなものだった。
それを確かめるためにも私は尋ねた。
「あなたたちは……?」
「俺たちは……そう、奴隷解放戦線と言ったら分かるかな?」
いやいや、分かるかなも何も、よく知ってますよ。
あんたらのせいでこうなってるんですから。
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