第2話 なぞなぞ
自然な流れだったのかもしれない。
彼らと共に肉を焼くうちに、肉の在庫がなくなった。
「そりゃ、嬢ちゃんがそんだけ食えばなくなるに決まってるだろ!!」
非難がましく言われたので、仕方なく私は彼らの「仕事」についていくことにした。ついでに、アウトローとは何かについても学べるだろう、そう思ったからだ。
「うーん……これは確かにアウトローだ」
命からがら逃げてゆく商人の背中、地面に散乱する荷物、そして見知った男たちが手にする血にぬれた剣。
彼らは、夜営をしている商隊を襲い、人を斬りつけ、荷物を奪ったのだ。
そこには血と悲鳴と罵声があった。
……これが、アウトローの道だ。この風景は、私の望むもののはずだ。
それに、血と悲鳴なんて奴隷時代になれっこだ。
だから、私は彼らに言う。
「あんたらって……下手くそすぎ。私が手本を見せてあげるよ」
それから私は、まるで彼ら自身にしたように、商隊を穴に落として荷物だけ奪ってみせた。
他にも雨のような石を降らせてビビらせて逃げ出させたりした。
わざわざ武器で人を襲うよりも、派手な魔法を見せて逃げさせる方が圧倒的に効率がよかったのだ。
そんな事を繰り返す日々が続いた。
常に彼らと一緒にいた訳ではない。性格的に私は一人の方が性に合っていたから、彼らと一緒に行動するのは月に数日しかなかった。
それでも。
そんなことを繰り返すうちに、いつの間にか私は彼らからいろんな二つ名で呼ばれるようになっていた。
最初は「土魔法の使い手」「肉マスター」など、そして最後は「女頭」と。
◇
雪の降るある日。
私は、目の前のイカツイ男たちに向かって問いかける。
「さて、諸君。なぞなぞです! 今日のターゲットはどこでしょう?」
「あの村!」
「あの村でしょ!」
男たちの返事が山間に響き渡るのを聞きながら、私はくるりと振り返り、崖下の小さな村へと目を向けた。
「正解者に、私の暗黒土魔法をお見せしよう!」
風が黒髪をなびかせる中、私はわざとらしく左手を掲げる。
「見て、感じて、震えろ! これが暗黒土魔法の秘儀、石弾の雨!」
金色の光が湧き上がり、空中に大量の石弾が生まれた。
石弾は、私の腕の一振りで村へと降り注ぐ。そして狙い定めた通り、小屋や農具を次々と破壊していった。
これは単なる威嚇攻撃だ。魔法に目覚めてからおおよそ二年。私は魔法のコントロールがうまくなっていた。
だから魔法の操作も正確で、うまく道具だけに絞ることができる。
「何だ!?」「襲撃だ! 襲撃だっ!」
悲鳴が村に響き渡る中、私は宣言する。
「お前らの村は、この私が支配する! これからこの村は火の海に沈むだろう!」
「と、盗賊だ!」
「助けてっ!」
パニックに陥る村人たちを見ながら、これこそがアウトローよと言わんばかりにニヤリと笑い、言葉を続ける。
「聞けっ! ただし、肉と金目の物をもってきたら助けてやろう! 特に肉は多めにな! さすれば我々は肉を焼く。我々に肉を焼かせるか、村を焼かせるか、選ばせてやろう!」
「くぅぅ、さすが女頭! 肉マスター! 焼き肉焼いても家焼くなっ!」
子分が、私の口癖のマネをした。
この「焼き肉焼いても家焼くな」は、私が前世の動画サイトでみたフレーズだ。こういうシーンで大変な脅しになるので使っている。
脅しが効いたのか、すぐに村長らしき男性が飛び出してきた。そして物資を差し出すと申し出てくる。
私は満足げに笑って、その提案を受け入れた。
重い物資はイカツイ子分たちに任せることにした。彼らに比べたら私は小柄で力がないからだ。
「では、皆のもの、帰還せよ!」
踵を返した私に、子分たちが続く。
「へい、女頭、よろこんでっ!」
「さすがルビ様、これぞ暗黒土魔法の使い手! 大悪党!」
こいつら子分たちは、こうやって私を褒めそやしてくるのだ。
だから私は、気持ちよくなっちゃって、彼らの女頭になることをなんとなく受け入れていた。
私は子分たちの褒め言葉を聞きながら、悠然と足を前に出す。
「……そういえば女頭、暗黒土魔法の暗黒って、どの部分が暗黒なんすか?」
背中から掛けられた声に、私は足を止めた。
私が使っているのは土魔法だ。だから本当は「暗黒」でもなんでもない。けれども「暗黒」とした方がカッコいい。
単にそれだけの理由だった。
だから私は、
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている。世の中には、知らない方がよいことがあるということだ」
と言い、その場を立ち去ることにした。
後ろで子分たちは「女頭、カッコいいけど何言ってるか分かんないよ!」と言っていた。
◇
この世界の肉はマズイ。
せいぜい前世のスーパーで売っている100グラム200円ほどの肉だ。
ただ、この世界においては肉自体が貴重なご馳走なのだ。
お陰で野営地での焼肉パーティーも大いに盛り上がり、お腹いっぱいになった子分たちは、次々と眠りに落ちていった。
その周囲には、器や調理器具が散乱している。
それを見た私は、土魔法で大きな葉っぱの植物を育成し、その葉を布団がわりに子分たちの上にかける。ついでに周囲に散らばった調理器具を片付けた。
……まるで園児を世話する保母さんだ。
そんな風に働いていると、ふと頭の中に疑問が湧いた。
……あれ? なんか、子分のほうが楽してない?
私がこんな風に盗賊になった理由。
それは、この世界に反発したかったからだ。せめて奴隷として搾取されてきた分くらいは反撃をしたいと思ったからだ。
……なのになんだか、子分たちより一生懸命働いている気がする……。
別に片づけだけのことではない。村を襲った時もそうだ。
村を襲う時、子分たちは突っ立って見ているだけなのだ。今日だけではない。いつも。
子分たちは私を誉めまくる。
だから褒められた私はなんだか気持ちよくなって、ついつい次の仕事もやってしまう。
……もしかして私、子分たちに乗せられてる?
だとしたら、由々しい問題だ。
子分たちは魔法を使えない。だから、遠隔攻撃ができる魔法をただ眺めていたい気持ちはよく分かる。
でもだとしたら、子分たちのイカツイ身体は一体何のためにあるのか。
だから私は考えた。
そうだ、新しい武器を作ろう。遠隔から攻撃できる武器を。
それがあれば子分たちも遠隔地から攻撃できる。つまり、働かざるを得なくなるのだ。
思い立ったが吉日、私は野営地をこっそりと抜け出し、次に襲う予定の村へと先回りすることにした。
先回りして、子分たちを働かせるための新しい武器を作っておくのだ。
私は、このアイデアのことは素晴らしいと思っていた。
ただこの選択は、人生における大きな間違いでしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます