第6話 成実、帰参
空想時代小説
慶長5年、家康が上杉討伐を命じた。政宗は6月に伏見を出て、7月に千代(せんだい)の北目城に入った。(当時、仙台城はまだない)
7月24日上杉方の城である白石城攻めが始まる。城主甘粕景継が不在との報が入ったからである。その時、成実は小十郎の陣にいた。
「成実殿、よくぞもどられた」
「仙台藩の危機とあれば、来ざるをえまい」
「さすが、仙台藩の柱臣。早速、大殿にお目通りを」
「かたじけない。出戻りを許していただけるかわからぬが、頼みは小十郎殿のみ。よろしく頼み申す」
「成実殿から、そのように頼まれるとはこざばゆい。まあまあ大殿のところへ」
成実と小十郎は、白石城が見える対岸の白石福岡の政宗の陣地に向かった。
「大殿、成実殿がもどってまいりました。白石城攻めに加わりたいとのことです」
小十郎がいつもとちがい早口で政宗に申し出た。
「なに! 成実がもどったと。はよう、ここへ」
成実は、小十郎の案内で陣幕の中へ招き入れられた。
「成実、よくぞもどった。心配しておったぞ」
「今まで留守にしておいて申しわけありませぬ。諸国をめぐっておりました」
「うむ、時折お主の噂は届いておった。金沢では置屋の用心棒をやっていたらしいな。それに前田家に誘われたらしいな」
「そこまでご存じでしたか。大殿の耳は、地獄耳ですな」
「まあな。隻眼ゆえ、耳は発達しておるのじゃ」(笑)
陣幕の家臣団が、みな笑う中、一人だけ笑わぬ武将がいた。屋代景頼である。角田城接収の際、成実の家臣を討ち取ったことで、政宗から叱責を受けていた。角田城接収は命じられたが、家臣団を抹殺したことは景頼の独断だったのである。当然、成実もそのことは承知のはず。禍根になっていると景頼は思っている。
「さて、成実。白石城攻めの先鋒は石川昭光に命じておる。その方も一兵卒として昭光の陣に加わってくれるか?」
成実と小十郎は石川昭光の顔を見た。昭光は当然のことのような顔をしている。かつてのライバルの下につくのは本意ではないが、出奔して帰参したばかりではいた仕方ない。
「わかり申した。先陣のもっとも先で働かせていただきます」
「うむ、期待しておるぞ。これ、あれを持て」
と、政宗は小姓に命じた。小姓が持ってきたのは毛虫が前立ての兜である。毛虫は前進しかしないということで、成実愛用の前立てである。
「こういう時もあろうかと、用意させておった。これを使え」
「ははっ、ありがたき幸せ」
白石城は、正面から石川昭光勢、からめ手から片倉小十郎勢が攻め入り、仙台勢の圧勝となった。指揮官のいない上杉勢はもろく、また先頭で戦う武将が猛将の成実となれば、かかってくる武将は少なかった。翌日には、石川昭光を通じて、降参してきた。この後、仙台勢は福島城をめざすが、本庄繁長の策にはまり、撤退を余儀なくされた。関ヶ原で東軍が勝ち、戦をする必要がなくなったことも撤退の一因であった。
成実はその後、政宗の旗本頭に命じられ、亘理郡に領地を賜った。屋代景頼とは和解をした。
「景頼殿、我ら武人派が争っていては仙台藩は衰退する。お互い協力して大殿を盛り上げようぞ。角田城のことは、わしがお主の立場でもそうしたと思う。水に流そうぞ」
景頼は涙を流して、成実と手を握り合っていた。
成実、出奔す 飛鳥 竜二 @taryuji
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