第5話 城行脚

空想時代小説


 成実の城行脚は大和の高取城から始め、各地の城めぐりを始めた。

 大和 信貴山城 松永弾正が信長軍に攻められ、爆死した城である。急ながけの上に建てられた城で守りやすいが、統治はしにくい。今は寺院となっている。

 近江 坂本城 明智光秀の城である。今は太閤に廃城とされ、石垣しか残っていない。琵琶湖沿いに建てられた城で、水運を活かした城だというのがわかる。守りよりも統治のための城と感じた。

 近江 八幡山城 羽柴秀次の城である。天守は閉鎖されていて入れなかったが、本丸近くまで行けた。城下町は安土から連れてこられた人々が造った町ということで、よく整備されているのがわかった。

 近江 安土城 信長の城である。天守や館は焼けて残っていないが曲輪跡が残っている。大階段の脇に家臣の館跡があり、曲がりくねった道を登る山城とはだいぶ様相が違う。信長は金子をとって、家臣たちに城内を見せたというが、まさに見せつける城というのがわかる。

 近江 佐和山城 石田三成の城である。琵琶湖の東岸にある小高い山の上にある。太閤の最側近の城だが、とても地味な城である。太閤の派手好みとはだいぶ違う。

 近江 小谷城 浅井長政の城である。山全体にいくつもの曲輪があるが、点としての存在で個々に攻められれば弱かったのかもしれないと思った。

 越前 一乗谷城 朝倉義景の城である。谷の両側に曲輪が立ち並び、全盛期にはにぎやかだったと察せられた。しかし、騎馬軍団に攻められればひとたまりもない。

 加賀 金沢城 前田利長の城である。と言っても、利家は大坂に長く逗留し、太閤の補佐をしている。実質の城主は利長であった。高山右近が客将として招かれて城普請を行った。城の規模や石垣の組み方など、とても見応えがあった。

 それ以上に、成実が興味を示したのは城下町の整備である。堀をめぐらした広大な城のまわりに武家町・商人町・職人町・旅籠町・寺町など効果的に配置されているのである。成実は、ここ金沢にこれからの城造りの手本を見ていた。路銀も尽き欠けていたので、ふとしたきっかけで街のならず者をこらしめたところを見た置屋のおかみが用心棒として雇ってくれた。置屋の用心棒になり下がるとは、成実は初めためらったが、背に腹は代えられず、おかみの誘いにのることにした。その置屋だけでなく、その界隈をぶらぶら歩くだけで、ならず者たちが近寄らなくなったので、置屋街全体に喜ばれた。

 出奔して3年がたち、太閤の死をここで知った。

「太閤め、やっとくたばったか。今まで人々を苦しめた罰じゃ。地獄へ行け」

と憎まれ口をたたいていた時に、前田の家臣という者が会いにきた。相手は成実のことを知っていた。

「われは、前田家家臣高城丈之助と申す。貴殿とは朝鮮の晋州城(チンジュソン)攻めの際に、共に戦い、戦勝祝いで盃を交わした仲でござる」

「あの時のお侍か。わしも覚えてござる」

「天下の豪傑に覚えておいていただき光栄でござる。さて、太閤が亡くなり、実質の天下人はわが主君前田利家公となり申した。だが、病弱ゆえ先が見えませぬ。家康公の力が強くなり、天下は混とんとしてまいりました。そこで嫡男利長公は、成実殿ほどの豪傑が下野しているのはもったいない。ぜひ、仕官をすすめてまいれ。と申されました」

「仕官とな?」

「仕官していただければ、それなりの領地と屋敷を用意させていただきます。少なくとも3000石は間違いないかと」

「仙台にいた時は、1万石だったがな」

「さすがに、現在浪人の方にそこまでは。しかし、働き次第ではそこまでいくかと」

「もっともなこと。2・3日考えさせていただきたい」

「わかり申した。また参ります」

と言い残して丈之助は去っていった。

(世は混とんとしてきたか。太閤の世も亡くなれば崩れるか。また戦が起きるの)

成実は、その日のうちに置屋のおかみに暇を申し出、加賀をでた。越後から会津を抜け、上杉の城をいくつか見聞して歩いた。故郷の大森城にも寄ったが、上杉家の本庄繁長の末城となっていた。以前と変わった様子はなく、大森城を攻めるのは容易と思えた。ただ、(これからの時代は、もう山城ではないな。水堀を活かした平城と城下町の融合が肝要)そう思う成実だった。後日、成実は亘理城主となるが、この城めぐりで得た知識が大いに役立つのである。

 

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