45 ごめん

 他に用事があるという高谷と航一とは昇降口で別れた。駅までの道を高森と並んで歩く。

 これまで何度も二人で出かけてはいるが、学校からの帰りが一緒になるのははじめてだった。普段とは違う状況に少しだけ緊張する。加えて、気まずさに口数がどうしても少なくなってしまう。高森への疑いが晴れたと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 俺はこれまで、彼女のなにを見ていたんだろう。

 出会いこそなかなかに衝撃的だったが、それ以外には高森はごく普通の女の子だ。そんな高森を例え一時とはいえ疑ってしまった。しかも、自分に隠し事をしているかもしれないからという幼稚な理由で。

 恥ずかしさに叫び出したいのをぐっと堪える。

 できれば正直に謝ってすっきりさせてもらいたいが、噂のことを知らない高森に詳しい事情を説明するわけにもいかない。

 でも。

「高森さん、ごめん」

 隣で見上げてきた高森と目が合う。

「なんでしょうか?」

「今日は、いや、今日だけじゃなくて、ごめん」

 高森がくすりと笑った。

「よくわかりませんが、わかりました。許してあげます」

 ふふと笑いながら前を向いて歩みを進める。少し前を歩く背中にセーラー服の襟が揺れていた。

 そうだ、高森は賢い。

 普段はふわふわと笑ってばかりいるので忘れてしまいがちだが、彼女はよくまわりを見ているし、他人の話をよく聞いている。俺が高森を疑ったことも、今の「ごめん」の理由も、きっと全てわかっているんだろう。だからこそ、自分に向けられている得体の知れない悪意にも薄々気付いているはずだ。クラスの盗難品が高森の私物に入っていたことも、切り裂かれた応援旗が掲げられた舞台上に高森の鉢巻が落ちていたことも。おそらくは何者かの悪意の手によるものだということに。

 全てわかった上で、不安の中でも笑うんだ、君は。

 落ち葉が舞う並木通りをいつもよりゆっくりと歩く。

 知らず知らずのうちにポケットの中の右手を握りしめていた。

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