貴方と〇〇と僕の物語

弓引奏汰

貴方と〇〇と僕の物語

その時僕は本当に死のうと思っていた

貴方を失うことが、どれほど辛いか知っていたから

でもその時が来るなんて想像していなかったから


三年間いつも幸せだった

貴方だけは〇〇と普通に呼んでくれた

その時だけは何も考えなくて済んだ

その時だけは周りが輝いて見えていた

だけど現実はそれを許してはくれなかった

それはあまりに突然で唐突で、考えてもいない状況に僕を叩き落した


記念日の数日後の何の変哲もない夜のはずだった

通知欄に取り消された送信履歴が並んでいた

「間違ったの?」それだけで返した

それが素直な感情の全てだった

そして返信が来た

「終わろう」だった

僕は意味が分からなかった

貴方とは数日前まで素直に喜び笑い共に時間を分かち合っていた

愛し合っていると思っていた

でも僕は貴方が決めたことだからと、泣きながら「わかったよ、でも理由は知りたい」とだけ返した


その数時間後呂律の回らぬような支離滅裂な文章でまるで読めない部分も多い、よくわからない理由のようなもの、だけど僕への愛情がなんとなく綴られているのだけはわかるメッセージ

そして最後に数回のそこだけハッキリと「ごめんね○○愛してるから」と繰り返されるとてつもなく長いメッセージが送られてきた

僕は酔っているのかな?それともやっぱり考え直してくれたのかなと思いながらも素直に「愛してるからやり直そう」と素直に自分の気持ちを伝えた

しかし既読も返信も来ることはなかった


数日後貴方の家族から連絡が来た あのメッセージの直後自殺しようとしたと聞いた

正確には極度のオーバードーズだったこと、そして今入院していると、命に関わるかもしれないと

それは余りに衝撃的で絶望的で僕もパニックになり発作的にしてはいけないことをした


僕には全て足りていなくて、特に勇気が足りなかった

だから残ったのは恐ろしい程の反動だった

僕も動けなくなった。

その時から世界が「モノクロ」に見えるようになった、美しいものなんてない

「どうでもいい」「生きていたくない」「苦しい」

「辛い」そんな様なネガティブな考えばかりが脳内を駆け巡る

皮肉にも薬のおかげか分からないが立て続けに死のうとすることだけは避けることができた


そして連絡は途絶えた 

思えばお互いに依存していた 共依存というやつだった

だからこそ共に地獄に落ちようとしていた

だけど少なくとも僕は失敗した

そんな僕に残ったものはモノクロの世界と色褪せぬ思い出と底知れぬ後悔だった


悪いことは重なる 更に病気が悪化する出来事が起きる 人間は裏切る生き物で皆仮面を被っていた

それが降りかかった後全てを信じられなくなった

食も取れなくなり動けなくなった


幸せとは一瞬で崩れ去るものだった

甘えていた、当たり前だと思っていたことは何も当たり前ではなかった

この世に絶対なんてものは存在しない

精神的な病持ち同士は強烈に依存し合う

わかっていた…はずだった

だけど刹那の幸せを求め、互いの心の安寧を求め 肉体的な快楽を求め、僕らは泥沼のような依存になっていた

何も阻むものがなければ、それは永遠だったかもしれない

だけど僕らには距離が大きな壁として立ちはだかった


距離が離れても依存し合う、そしてそれは徐々に見えないすれ違いを生み出す

そして互いが平等であろうとするはずが互いの為に無理をし始める

だから心のズレが生まれていたんだろう

少しずつ…本当に少しずつ…


そして一年でそれは決壊した

残されたものは沢山の思い出と酷く辛い傷だった


僕は絶望の中何もせずに日々を過ごしていた

見上げるのは天井だけ

スマホも触らずに食もとらずに何もしない、思考も回らない

時折辛うじて水分をとる

だけど不思議なもので、あれだけ失えば死のうと思っていたのに一度失敗すると怖くて次を実行することができなかった

自ら終わらせることが出来なかった


「僕に生きる意味があるのだろうか?」

そんなことを一週間位たった時思い始め

それと同時に少しずつ食事をとるようになりはじめた

「どうやら死ぬ気はないみたいだな」

と少し呆れた

当たり前な話ではある

一度失敗した時あれだけ苦しんだのだから

もっと楽な方法は沢山あるのは知っている

でも「やらない」そう「やれない」のだ

絶望の淵で一度味わった地獄をもう一度味わいたくない、勇気がなかった

だけど違う方法を試す度胸も持ち合わせていなかった


そんな無とも言える時間を過ごしながらも本当に少しずつ正気に戻り始めていた

絶望から徐々に這い上がる中何故か不意にスマホを久々に持ち電源を入れた、今思えば正気じゃない

そして恐る恐るメッセージアプリを開くと既読が付いていた

正直に驚いた、家族の誰かなのかもしれない、そう思った。だから

「生きていますか?それだけが知りたいです」

とだけ送ってスマホをそっと置いた。

自分が「追いかけようとした」ことは言わずに


当たり前な話だが当然返信は来ない、でも"ただ無事であってほしい"感情と途切れることのない愛情だけでその一行を送信した

そして今度は電源を切らなかった。


それでも時間は流れていく

時間は残酷でもあり優しくもあった

少しずつ本当に少しずつだけれど貴方が居ない日常を受け入れていく自分に戸惑いつつも

定期的に襲ってくる愛情からの涙と思い出の繰り返される悪夢と全てに裏切られた人間不信と戦いながら無を過ごしていた

酷い日もあれば楽な日もあった

それはいつ来るか自分でも分からないし恐怖すら感じる瞬間でもあった


薬が合わなかった時は貴方の声が聞こえた時もあった幻聴なのは解っていたので悲しさと沈むことしか出来ない

目の前に貴方が笑顔で手を広げている錯覚をおこすこともあった

幻覚なので抱きしめられない

ぬくもりを思い出し、また苦しんだ


そんな日々を過ごしている時に思い出したかのように夢を見た


僕を選んでくれた理由を知りたくて二人で雪の降りしきる露天風呂に入りながら聞いたことがあった「沢山他にも声かけられてたのに、どうして僕を選んでくれたの?」と

だけど貴方は答えなかった

満面の笑みで言われたのは「〇〇には、そのままで居て欲しいから言わない」だった

その後もはぐらかされ「雪がキレイだね、雪のお陰で、のぼせないし永遠にここに居たいね」と屈託のない笑顔で笑う貴方を見ている僕がいた

そんな夢 


その夢を見たとき

思い出の中の夢が初めて悪夢じゃないって思えた


そしてその朝

「そっか…どこかで変わっていたのか僕は」

そう思えた

そして何かが変わった気がして、あの日から初めてスマホのカメラロールの中の思い出達を見返した


とめどなく溢れる涙

場面場面で話したことや笑い合ったり喧嘩したり愛し合ったりしたこと

デートした場所、喧嘩した場所、初めて愛し合った日、全て鮮やかに思い出せた

離れて時間的すれ違いが増えてから会えないかわりにって送ってくれたムービーも沢山あった

全て見返した

泣きながら、でも不思議と苦しくはなかった、溢れるばかりの愛は変わらないのに


何時間かかっただろう…?

スマホ2つとビデオカメラ

貴方と過ごしたことを記録した全てを見返し終わった時ほんの少し心が軽くなった気がした

それは切っ掛けに過ぎないことは今ならわかる

だけどその時の僕はまだ意味が分からなかった


「やっぱり生きてみようもう一度失敗するまでは」

何故かそう思った

そしてスマホを持ち既読がついてないことを確認して、改めてあの時の長文を読み直した

貴方は苦しみ意識を失う直前まで僕のことを考えていてくれていたのか…

都合がいいかも知れないけれどそう思った、だいぶ支離滅裂で解読の難しい文章だったけど最後の「ごめんね○○愛してるから」だけはしっかりと書いてあったのがその証拠なんじゃないかって勝手に思い込むことにした

都合のいい話ではあるが


そうしたら、その日から徐々に世界がモノクロじゃなくなる感覚になっていった

あれほど思い出に触れることも見ることも出来ない世界が少しずつ日常に戻っていった


そんなことがあると色々と「もう少し生きてみよう」という思いが強まっていく

そこから元々興味があった世界に足を踏み入れて行くことになる

それはその世界がとても優しく見えたから

そこは生きているだけで「えらい」と言われる世界

泣いても許される場所でとても輝いて見えた 

皆が好きなことを好きなように発信している場所 なのに怒られない、ましてや褒めてもらえる

その時の僕にはそう見えた


まぁそんな優しい世界じゃないのは後にわかるんだけどね


「一度死んだんだ、生まれ変わってみても良いんじゃないか?」そう考えた僕は直ぐに動き始めた

深いことを知らずに挑戦するのは怖かった、でも今より下はない。そう思えたから

逆境が僕に行動する意志を持たせた


何も知らない僕が本当に出来ることなのか、それはわからなかったけど見様見真似で沢山考えたり沢山行動した

そうしたら不思議と周りに仲間が増えていった


顔も知らぬ本名も知らない、そんな本来希薄な存在な筈なのに何故か境遇を話せた

そして温かさを感じることが出来た

久々に「生きていて良かった」

そんな考え方が少しずつ出来るようになっていった

そうやって傷を庇いながら周りの優しさに甘えながら準備をがむしゃらに続けた


そして僕は「〇〇」から「僕」に生まれ変わり活動を始めた

失敗だらけ上手く行かないことだらけ

だけど毎日楽しかった


「次は何をしよう?」「あれをしたら喜ぶ人がいるかな?」「やったことないからやってみよう」

そうやって日々の景色や周りの色がどんどん美しくなっていった


決して順調ではない日々だったけど充実していた

そんなある日突然連絡が来た、通知欄を見たら

それは僕が愛した貴方からだった


正直に驚いた。だけど生きいてくれた、その事実がとても嬉しかった


その日はたくさん話した

あの日何があったのか、どうしてあんな結末になったのか今どうしているの?とか

そして決意を持って僕もしたことを素直に伝えた

それを伝えた時「やっぱり真面目なところは初めから変わってないね」と笑われた

そして「やっと元の〇〇に戻ったね」って言われた

僕は驚いたけど心の何処かで納得していた

やっぱり距離が出来てから徐々に変わっていたんだなって


気がつけばお互い泣いていた

何時間話しただろう涙が笑いに変わり最後に「愛してるからこそ、お互い別々の道を行くしかないね」って笑いながら話した

不思議な気持ちだった、きっと少し前なら駄々をこねたり縋り付いたりしていたかも知れないのに

そんな事はなかった

「たまには連絡してね」「そっちこそ」と締めくくって最後に二人で「愛してるよ心から」と言い合って「バイバイ」した


何故か晴れやかな気持ちだった

愛情に嘘はない、でも僕らは確実に違う方向に歩む決断が出来た

あれだけ依存しあっていたのに

時が解決したなんて馬鹿げたことではなく

お互いに「死」を選ぼうとするほど本気だったが故に苦しんだ

その結果陥った逆境、そしてお互いに苦しみぬいた末たどり着いた場所

その時に僕らは確実に乗り越えた、そう思った


そこから活動で苦しんだりしたこともあった

でも今は平気だ。

あの日のことがあって生まれ変わったから

前を向く大切さを学んだから、一度死んだ人間は強くなれる。

それを知ったから。


その後も僕らは時折忘れたかのような頃に「生きてる?」「そっちこそ」とだけメッセージを送り合ってる、それもほんの時々

それだけの関係に変わった

でもそれで良いんだと思う、お互いが幸せになるための試練だったんだ、と今では思ってる。


〇〇から変わった僕の物語はまだ始まったばかり

切っ掛けはドロドロの依存から共に全てを勝手にお互いで終わらせようとしたこと

褒められた話ではないし、ろくなもんじゃ無い

真似なんてしてはいけないこと

だけど今は仲間がいて話すことが出来て少しずつ回復している


活動をしていなかったら間違いなく「次」を実行していたと思う

もしかしたら活動していてもその時が来るのかもしれない

でも今は少なくとも、そう思わないで済んでいる


一般の大手しか知らない人達から見たら

ここは吹き溜まりの底辺の地獄のような場所に見えるかもしれない

だけど一人一人が輝いている、数字なんて関係ない皆違うし皆個性的で皆が主役

少なくとも僕はそう思っている


そりゃたまには合わない人や嫌いな人も出てきている

それは人間同士なんだから仕方ない

だけど今いるべき場所なのは間違いない


活動途中で目に見えるものや良い子にしようと思いすぎて演じていたことに気が付き、苦しんだり悩んだりしたこともあった。

だけど過去の体験に比べたら些末なことでしかない

それに「約束」したから、別々の道を行くことを

それを思い出すと受け入れることが出来た。


過去の全ての経験が僕を強くした

だから今日も好きなことを好きなようにしている、好きなように出来ている。

体調を崩しがちだけど、それでも待っていてくれる

喜んでくれる人がそこには居る。

だから立ち上がって前を向くことが出来る。


全ては「死」というネガティブな行動から始まった「モノクロ」の世界。

陥った逆境は今思えば地獄そのものだった

自分から終わろうとする程の苦しみしかない世界

貴方がくれたもの全てが苦しみの元だった時もあった


でも今では力になっている。

世界に色は戻った、だから今日も前を見て歩く

この先にまた大きな逆境が訪れるかも知れない

その時はどうなるかなんて分からない

でも少なくとも今の僕は前を向いているよ。

「死」から「生」へ意識が変わり

「モノクロ」から「カラー」へ世界が戻り

「苦しみ」から「喜び」に思い出が変わり

この世界を進んでる。

これを書いている僕は貴方の知る僕じゃないけど

きっと知られても「〇〇は変わってないね」って笑ってくれると信じてるし、そう思える。


さようなら、そして本当にありがとう、全身全霊で愛していた貴方。

貴方とのことを書いたけれど貴方に決して届かなくていい

だけど、いつか書こうと思っていた出来事

稚拙かもしれないし、これのどこが小説なの?と思われるかもしれない

フィクションも交えながら書いた嘘のような本当の話

だけど、これは紛れもなく貴方と〇〇と僕の物語


もし最後まで読んでくれた人が居るなら

同情も感想も何も求めない。

ただ、そんな馬鹿なありきたりな奴がいる世界があるってことだけを知ってほしい。


そこは闇鍋のような地獄のような世界だけど、とても優しくて輝いているから

勇気を出して覗き込めばきっと惹かれるものがあるはず

少なくとも逆境に苦しむなら一度見てみると救われるかもしれない

僕のような存在が許されているのだから…


そんな貴方と〇〇と僕の物語


「僕は今でも元気に歩いているよ、だから貴方も元気でね」













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貴方と〇〇と僕の物語 弓引奏汰 @kanata_yumihiki

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