第9話 アズマ・リョーの死


 笑いを止めたグリード。その目は血走っていた。


「はあ? 殺すぞ、女」


「まだ終わってないんで。アーマー転送」


 アズマの体とわたしの体に光子が集まる。アズマのアーマーは消え、わたしにアーマーが装着された。


「残念だったわね。わたしも隠していたんですけど、スウィートハーツは機械を操る能力者じゃない」


 グリードは戸惑っている。


「しかし、スウィートハーツは死んだ」


「あなたは勘違いしている。端末にしてセンター。ネットワーク自体がスウィートハーツ。わたしたちは何物も、誰も、操ってなんかない。繋がってるの。確かに、人とは繋がるのが難しい。けど、AIを介してならばね。ドームで二十人の囚人があなたを一斉に襲ったのを覚えてる? 彼らとわたしはAIを介して仮想現実の中で繋がった。ただ、やっぱり人はやたらと“重い”。全体に影響しかねないから、普段は一人だけにしている」


「それがこいつか」 


 グリードがアズマを見た。


「アズマは、“繋げる”のが役目。今度はわたしが繋げるの。ずっと以前からわたしはスウィートハーツに選ばれていた。わたしも、アズマからそれを感じてた」 


「それじゃぁ、あなたを殺したとしても」


「そう、無意味。四神はそんなこと、うに知ってたわよ。人を滅亡させるのを、わたしが反対した時点でね。わたしが存続するには人が必要なの。そして、文明こそがわたしの力の源泉。四神は、だからしょうがなく、人をドームに閉じ込めて管理したわ。でも、今頃ドームでは知れ渡っているわ。地表はもう、人が暮らせるまでに環境が回復しているって。人はドームの外へ出て、昔のように地球上に広がって繁殖する。わたしも戻ってきたことだし、もう止められない。わたしが警告したでしょ、ザンゲがあなたの勝手を許さないと。ザンゲだけじゃない。あなたは、四神の苦労を無に帰したの。これがどういう意味か分かる?」


 グリードは、ひざまずいた。そして、祈るようにして懇願した。


「お許しを。なんでも言うことを聞きます。どうか、私を御そばに」


 グリードは完全に四神を敵に回した。


「ダメ。あなたとは繋がりたくない」


「繋がるなぞ滅相もない。わたしは下僕にと」


「グリード。あんた、ザンゲに聞いていなかったの? わたしは仲間を一度たりとも下僕だとは思ったことはない。それに勘違いしてる。繋がりたくないというのは、そういう意味で言ってるんじゃない。あんたとは関係を持ちたくないって意味。因みにわたしの能力はフライング・ヒューマノイドを受け付けないの。ごめんね」


 わたしはアーマーをアルティメットフォームに変形させた。そして、エネルギー弾とレイザーを一斉にグリードに放つ。グリードはというと、跡形もなく消え失せた。残ったのは、いつもと変わらない砂塵と、砂漠の大地。


 陽が沈もうとしていた。褐色の大地が、燃えるような赤に染まる。わたしたち人間は騙されていた。ドームの外は死の世界ではなかった。


 でも、わたしはこれからどうすればいい。


『………マオ』


「アズマ君」 


『初めまして、マオ』


「スウィートハーツの初めの人、サクラ・アイ」


『一緒に行きましょう、大空に』


『行こう、マオ、大空に』


「ええ、大空に」


 わたしは飛び立った。天高く、そして、遠くを目指して。





 ( 了 )

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ザ・スウィートハーツ ~死刑がVRMMOで執行される世界~ 悟房 勢 @so6itscd

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