第8話 降伏
「マザー、核の使用を許可する。砕いてくれ、大気圏に入る前に」
『………』
瞬時に、マザーは計算した。ミサイルの速度を加味し、地球を撃ち抜こうかとする天体の軌道とミサイルの交差点を割り出す。マザーの描いた図がアーマーのディスプレイに映し出される。接触時間も表示された。カウントダウンが始まっている。
「パーティーピーポー、聞こえるか」
『………』
空を高速で飛ぶグリードとマオの姿が遠目で、ディスプレイに映っている。隕石が落ちてくるのを見たいに違いない。グリードはまるで背泳ぎするように飛んでいた。空を見上げ、天体ショーを楽しもうってわけだ。
「男の方をアップにしてくれ」
『………』
グリードの顔に向けて映像はズームされていく。何か喋っているようだった。
「なんて言ってる? 教えてくれ」
『………』
グリードは、ずっと思い描いていた妄想が現実になった、と喜んでいた。隕石が落ちたのを確認したらマオは用無し、ここから落とすとも言っていた。だがもし、マザーが隕石を破壊したとしたら。
考えられるのはやはり、グリードはマオを離して身を軽くし、遠くへ逃げる。僕と戦おうという選択肢は、おそらくない。
だがそれでも、まだ人質として価値であるならば、グリードはマオを殺すことはない。
「マザー。忙しいところ申し訳ないが、デルタを三機、飛ばしてくれないか。グリードって男にメッセージを送りたいんだ。僕からは逃れられないと。やつの場所はパーティーピーポーが知っている」
『………』
「パーティーピーポー、聞いていただろ。マザーに例のフライング・ヒューマノイドの位置を教えてやってくれないか」
『………』
「さて、そろそろ時間か」
果たしてカウントダウンの数字はゼロとなる。空の一点がぱっと明るくなったと思うと、無数の火球が天を大きく横切って行く。マザーが上手くやってくれた。
「マザー、被害は?」
爆発に巻き込まれたんじゃないかと、それが心配だった。
『………』
ないか。流石はマザー。だが、喜んでばかりはいられない。ディスプレイに映し出されたグリードは、相当悔しいのであろう、吠えたようだった。
「パーティーピーポー、デルタは到着したか?」
『………』
引いた映像には、翼を広げて飛ぶ三機のデルタが映っている。等間隔で距離を取り、グリードのさらに上空を並走飛行していた。メッセージはちゃんと届いたようだった。グリードはまた、何やら叫んでいた。
「良かった。マザー、重ね重ねありがとう。デルタを離脱させてくれ。パーティーピーポー、今度は僕を案内してくれ」
僕はアーマーをアルティメットフォームに変形させた。背中からの触手がレイザーを放ち、アクリル壁を丸くカットする。
僕は背中のバーニアを噴射させ、アクリル壁を押した。丸く繰り抜かれたアクリル片は落下し、僕はドームを抜け、空に飛び立った。
それからはパーティーピーポーの案内に従い、グリードを追った。グリードはというと、すでに砂漠に着地していて僕を待っているようだった。マオも無事、傍にいる。
パーティーピーポーから送られてくる映像を見ながら僕は、バーニアを最大出力し、先を急いだ。
グリードは大人しくしていた。今度こそ、諦めたようだった。僕としてもマオさえ帰ってくれば文句はない。果たして、到着するとグリードは言った。
「悪かった。おれは考え違いをしていた。この通り、謝る。今後一切あなたには手を出さない」
そして、マオを手放した。マオが僕の方へ駆け寄って来る。受け止めようとした次の瞬間、気が遠のいた。
体にも力が入らない。どうしたというのか。僕は砂漠にうつぶせに倒れていた。
「奥の手は隠して置くものだよ、スウィートハーツ」
そう言ったグリードは能力を使って、僕を引き寄せた。
「驚いただろ。あなたの脳だけを引っ張ったんだ。で、脳が揺れた。これは簡単そうにみえて高難度でね。驚異的な集中力と繊細な精神力が求められるんだよ。下手すると頭ごと引っ張ってしまう。かなり練習したよ。これまでも多くの下等動物を犠牲にしたが、それでもまだまだだ。潰すまでは至らない。これからもちゃんと出来るようになるまでもっと練習するよ、新しいドームに移ってもね」
僕は、足で仰向けに返された。さらには、その足で胸を抑えつけられる。
「脳を引っ張ることが出来るならば当然、心臓もだ。潰すまでは至らないが圧迫することなら出来る。いや、待てよ。あなたを倒したら、おれはもう使いっぱしりの管理人じゃなくなる。じゃぁどうやって練習すればいい。四神らにドームを幾つか分けてもらうか」
ニヤついているグリードは大きく息を吸って吐いた。
先ほど地表に降りて大人しく僕を待っていたのは諦めたわけじゃぁなかったんだ。集中力を高め、精神を研ぎ澄ますためのもの。
アーマーのディスプレイが警告表示を出す。心拍数に変化が起こったようだ。心電図波形も映し出され、瞬く間にその波は凪となった。
アズマ・リョーは、死んでしまった。
グリードは狂わんばかりに喜んでいた。天を仰ぎ、高笑いする。
その名の通り、グリードの欲望には際限がない。それが満たされた瞬間だった。快感もあったのだろう、体も打ち震わせていた。
「あのー、喜んでいるところ悪いんですけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます