03

「さてさて、まぁまぁ色々とあったがよ、とりあえず全員生きて依頼成功ってわけでだ、ひとまずはおつかれさんっつーことでいいんだよな?クロイツ?」


 キサラギ本社から【桜花】へと戻った一行は休憩スペースたる居間へと集合していた。

 因みに、祝杯モードでいいよな?と問い掛けた本人はすでに祝杯モードで、早くも帰りがけに買ってきたスコッチの栓を抜こうとしている。


「あぁ、そうだな。とりあえずはそれでいい…が、【風牙】もD.F.C.Sの強制起動でOS側に不具合出てきてるようだし、俺の【伏虎】は大破でスクラップと、あんまいい状況じゃないけどな」

「もー、カズ兄は細かい事気にしすぎさね!【風牙】の修理はアタシとそこの毛玉で何とかなるし、【伏虎】は丁度いい買い替え時期だったと思うのさ!」


 ユンファはユンファでアフロが栓を開けようとしているのに合わせて、どこからともかくグラスを取り出し氷の準備までOKだ。

 こういったところではウィルとユンファは似たもの同士である。

 仲が悪いのは所謂同族嫌悪というやつだろうか。


「……」


 唯一、騒ぎの輪から少し離れた場所で玲はうつむき加減で座っていた。ギャーギャーと騒ぐ二人を尻目に、ゆっくりとした歩調で一真が近づくと、ポンと彼女の肩を叩く。


「気にするな」


 普段はあまり表情を表に出さない玲だが、ゆっくりと顔を上げた彼女は殊の外疲れているのか、ひと目で憔悴していることが見て取れた。


「カズマは、それでいいの?」


 大きく顔を向けること無く、視線のみで一真を見る。

 その一言には色々な意味が込められていただろう。

 生きていることがわかった【鋼の子供達】の事。

 植物状態になってしまったディオの事。

 それを行った村岡の事。

 決別に近い形で別れてしまった風華の事。

 一真とてそれを考えていないわけではないだろう。だがしかし、自分が、そして玲が、幾つものことを同時に考えて居られるほど器用な人間ではないということも理解している。

 だからこそ、彼はこういうのだ。


「今は、それでいいさ」


 それでも納得が言ってないのか、視線を落とした玲。彼女の心情のほどを理解することはできないが、彼女が考えている事を想像することは出来る。

 故に、一真はこう口にするのだ。


「ディオは【僕ら】と言っていたのを覚えているよな?」

「え……ん」


 パチパチと瞬きをしながらも、玲は小さく頷く。


「つまりは、まだ生きてる奴はいる。そして多分、村岡のところにいる」


 2年前のあの日、ディオがキサラギ本社に門前払いをされた時、その時に村岡に声を掛けられたのだろう。そうなれば、おそらくディオと行動をともにしていた者も同じく村岡に連れられて行ったと考えるのが自然だろう。


「俺たちはこれから村岡の足取りを追う。玲にも、手伝って貰うぞ」

「……ん、わかった」


 少し考えるように視線を逸らした玲だったが、先ほどよりも強く頷く。

 完全には納得していないだろう。

 そう、予測するのは容易い事であったが、今は前を向くことが重要。この先やるべきことがはっきりしていれば、それだけで前に進む要因にできる。


「おーい、何してるんさね!早くしないとバカアフロが全部飲んじゃうさ!」

「あ、おい、結構高かったんだぞそれ!」

「うっせぇよ!嫌なら早くこっち来やがれってんだ」


 顔を赤くしつつグラス片手に騒ぐウィルと、それに混じって騒ぎ出したユンファを苦笑交じりで眺めながら、一真が玲へと手をのばす。


「行くか」

「……ん」

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鋼のフレスベルグ 黒蛙 @kurokawazu

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