第77話 友達
「晒か......なんて?」
「サイカの過去、クロノーツ内外での話」
「それ、ただの噂話ではないんだよね?」
まあ、噂話だとしても内容によっては放置するわけにはいかないが。
「いいえ、虚偽の内容では無かったわ。その中にはクロノーツの人間しか知り得ない情報もあった......つまりは内部の人間の仕業の可能性が高い」
「......アルネさんですか?」
蓮華が聞くとナノマさんが首を横に振る。
「わからないわ」
「......それがアルネさんなら面倒な事になるね」
「面倒なことですか、りんママ?」
「外部の犯行であれば、そいつを処して終わりだけど、身内ともなれば単純に処して終了とはならない......その後の活動に大きな影響がでる」
「その後の活動......なるほど。コラボやクロノーツライブでの大型イベントがやりにくくなるんですね」
「そそ。加害者も被害者ももう互いにフツーには接することができなくなるしね」
「ちょっとまってっ!」
えまちゃんが声を荒げる。
「サイカちゃんの心配はわかるけどさ、なんでアルネちゃんの心配をするのっ?」
「あ、いや、そんなつもりは無かったけど......ただ、お互いに本格的に対立してしまう前に事を治められれば溝が出来ずに済むかなとは思ってるが」
そうだ。この対立が本格化する前に終わらせる。その方がサイカさんにとっても絶対に良い。まあ、アルネさんが犯人とは限らないが。
むっすー、として私をじーっと見つめてくるシロネ。
「わたしはアルネちゃんが犯人ならきちんと罰を与えるべきだと思っているよ。......あんなイジメみたいな事しておいて仲直りなんて絶対にできないもんっ」
「いやいや、仲直りすれとは言っとらんぞ。ただ沈静化させたほうが......」
そこでふと気がつく。おそらくはこれがナノマさんがついてきた理由なのだと。
「わたしは、アルネちゃんにちゃんとした罰を下して欲しいっ。逃げられないようにして、ちゃんと......こんなの攻撃してきた方が悪いんだし」
過去のイジメの経験。サイカの話の奥にあるのは自分の過去にあるイジメてきた人間への憎しみか。
「......えまちゃんの気持ちはわかるよ。けどサイカさんがどう思うかにもよるだろ」
「だめだよ、絶対にっ。ああやって陰で人を陥れようとする人間はまた同じことをするに決まってるもの」
「ま、まだ......アルネさんだとは決まってないですよね。お、落ち着いて下さい、えまさん」
蓮華がヒートアップしかけるえまちゃんをなだめる。そして、まだなにか言いたそうにしていた彼女だが、「あ」と言い携帯をみた。
「やばっ、そろそろ配信の時間だ......ごめん、熱くなっちゃってっ」
「ううん、大丈夫だよ」
「私もえまさんの気持ちわかります。大丈夫」
「私、部屋に帰るけど......ナノマさんはどうするのっ?」
「ん。もう少しだけお話してこうかしらね」
「そっか、わかったよ。またねっ!それじゃあ、お邪魔しましたっ」
慌ただしく部屋を出ていくえまちゃん。残された蓮華とナノマさん、私。
「......かなり怒ってるな、えまちゃん。気持ちはわかるが」
「せめぎ合っているのよ。あの子、クロノーツの皆が大好きだから。それは後輩のアルネも例外ではない......だからこそ許せないし、混乱してる」
「......えまちゃん」
「ところで、リン、華蓮」
「「はい?」」
「アリスが配信終わったら、ご飯いかない?」
「え、ああ、良いですけど」
私がそういうと隣の華蓮も頷く。
「それと良ければなんだけど、友達を連れて行っても大丈夫かしら?」
「......それって、もしかして」
私はピンとくる。華蓮も何かを察したのか眉をひそめた。
「察しが良いわね。そう、サイカよ」
「そらさっきの話の後なら、察しもつきますよ。でも、大丈夫なんですか?サイカさん精神的に不安定な状態なのに」
きょとんとするナノマさん。
「まあ、嫌なら来ないわよ。その時は四人での食事になるけど......誘っても良い?」
「私は良いですけど......華蓮は?」
「大丈夫だよ、りんママ。大先輩とお会いできる機会なんてそうそうないし」
逞しいなうちの娘。いいね。
「大丈夫です。あ、アリスにも聞かないと」
「そうね。では配信後に......」
私はナノマさんがえまちゃんに言った言葉を思い出した。
『――けれどリンとサイカは友達ではないのよ』
あれは諦めろと言ってた訳じゃないのか......。
まさか私とサイカさんを直接友達にしようとしてくるなんてな。
どんな人なんだろう。緊張してくるな。
けど、これは華蓮もいっていたように良い機会なのかもしれない。サイカさんと会える事なんて普通は無いからな。
ぶっちゃけ了承した理由には、これがうちの娘二人にとって刺激になれば良いなという打算的な考えも私にはあったりする。
(......悪い癖だな)
それから一時間後、アリスの配信が終わった。
「おわたー!」
扉を開き満面の笑みで現れた我が娘、美心ちゃん。てててて、と私の元へ来て抱きつく。
そして彼女は上目遣いで「......撫でて?」と言い潤む瞳に私を映す。
私は美心の柔らかな髪を撫でながら言った。
「頑張ったね。えらいえらい、よしよし」
「んむー、ふひひぃ〜......すきぃ、ママ大好きぃ」
すりすりとまるで甘えん坊の仔猫のように私の体に頭を擦り付けてくる美心たん。
しかしこのままエスカレートしていったらヤバいと瞬間的に察知した。私は彼女の頭をぽんぽんとして静止する。
「......でもほら、ちょっと」
「?」
私はナノマさんと華蓮をちらちら見た。すると美心は「は!?」と言いびくんと体を震わせた。赤面する美心さん。
「......は......はわっ、あぅ......恥ずかしい」
私しか目に入ってなかったんか......。
そうして、美心にも了承を経た我々はサイカさんとの食事へと向かうのだった。
――そして、私とサイカのこの出会いが、物語を大きく動かす事になるとは私達はまだ知る由もなかった。
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