第4話 風に乗って
砦の残骸にはありえないほど強度の高い木が使われていたようで、加工には苦労したが強度の高い着陸脚や翼桁を作る事が出来た。骨や操縦系は機体の残骸を使う事が出来たので、本当に1日でグライダーに作り替えることができた。
エンジンがなくなった分軽くて体積もあるので二人乗りにできる。最もエンジン部を流用した客席は窓も何もなくて本当にただの席になってはいるが、機位を崩さない限り問題ないだろう。
「...竜と比べて軽いわね。本当にこんなので飛べるの?」
「竜も持ち上げたことがあるのか...」
「一応ね。」
雑談しながら山頂までグライダーを運んでもらう。一応俺もベガさんの荷物を運んでいるので公平だ。多分。
「着いたわ。ここが山頂よ。」
「なるほどここが山頂か。そして寒くないなんか周り雪積もってるよ?」
残雪のように所々枯れた草の上に雪が積もっていて、実際景色と見合うくらいに寒い。中国製の服のお陰で多少ましだがそれでも寒い。
「?私は寒くないわ。そして、飛ばすんでしょう?...本当に飛ぶのならね。」
「あぁうん、飛ばそうか。」
ベガさんが担ぎやすいようにしまっていた着陸脚を展開し、地面に接地してもらう。
ブレーキをかけたままにして搭乗し、ちゃんとシートベルトも締めてブレーキを解除しさぁ離陸するぞというタイミングで問題が発生した。
「...ねぇ、これって誰かが押し出さなきゃいけないんじゃないの?」
「...そうだね、その通りだ。本当にその通りだ。」
これはまずい。作るのは車くらいにした方がよかっただろうか?とにかく、誰かが押さなければならないが押す人はいない。
「...魔法的なアレで風を作ったりできないの?どうせここ異世界でしょ?」
「一応できるわ。それっ。」
ベガさんが突然手を機体の後ろに向けて何かをごにょごにょ言うと突然強風が機体に吹き付けた。
当然のように動き出して自転車くらいの速度になると崖までかなり余裕のある距離で浮かび上がった。
「うおおおおお上手くいったぁぁぁぁぁあああ!!!」
「...本当に浮くのねこれ。」
ゴオゴオと機体に吹き付けていた風はそのうち吹かなくなったが、それでも機体の位置エネルギーが順次運動エネルギーに変換されて速度を維持している。対地高度は崖から降りてしばらく飛んだから200mはあるだろう。
「ねぇ、景色を見てもいい?ここだと何も見えないわ。」
「いいけど...近くない?」
ベガさんが窓のある操縦席に乗り上げて窓からの景色を見ている。が、その身体は俺に当たっている。甲冑を着ていない彼女の体はあまりにも柔らかく、俺の精神にとって危険だった。
あまりにも動揺して少し機体がぐらつく。
「キャッ...ちょっと、気を付けて操縦しなさいよ。」
なにキャッって?????かわいさにも限度あり。だがその高い声、誉れ高い。
ベガさんの身体に動揺しながらも乱気流にも巻き込まれず安定して滑空し、そのうち開けた土地が広がる山麓とその先には小さく城壁に囲まれた大都市が見えた。と思っておこう。目がそんなに良くなくのもあるし街は視程から少し離れていてぼんやりとしか見えない。
「ねぇ、低くなってきたけど大丈夫なの?」
「あぁ、そろそろ着陸しないとね。この先は徒歩になるけど大丈夫?」
「あなたの方が心配よ、いくら開けているとはいえやっぱりそんな貧相な体格で何キロも歩けるとは思えないわ。」
「キロ?今ベガさんキロって...」
「あ、あそこなら街道に近いし開けてると思うわ。」
「...ほんとだ。じゃあそこに着陸しようか。じゃあ席に座ってシートベルトも締めてね。」
「分かったわ。」
高度を落としながらゆっくりと自然の滑走路にアプローチする。高度計も何もないが、そこは勘でなんとかし「あと50mよ。」ベガさんが魔法で教えてくれました...
接地した瞬間振動が機体を揺さぶり、シートベルトに感謝しながらブレーキを作動させる。機体はゆるやかに減速し始めた。
しばらくして完全に停止し、ようやく水筒の中の水を一口飲めた。
「お疲れ様。」
「あぁ、ベガさんこそありがとうね。」
「何にありがとうって?」
「運んだりしてくれて。ありがとうね」
「そう...いいわよ。」
さて、ここからは地獄のような徒歩だった。日光はそこまできつくなかったし風が吹いていたのでコンディションは悪くなかったがいかんせん10kmちょっとも歩くのには慣れていなかった。しかも、街道は当然アスファルトではなく石なのでデコボコしていて何度も転びかけた。というか、転んだ。
「大丈夫?これで3回目よ?」
「たぶん大丈夫...」
「...仕方ないわね。」
「えっ?...ちょ、うわぁ?!」
重力が横向きになり、視界には地面とベガさんの背中が映る。いわゆるお米様抱っこのように担がれていた。
「ちょ、これはまずいでしょ?!」
「そうね。だから、町の近くまで来たら歩いてもらうわ。」
「...まぁ仕方ない。転ぶわけにもいかないしなぁ...」
「そうね。転ばれたら困るわ。」
そんな調子でしばらく担がれていると景色は少しずつ森に近くなってきた。
「そろそろ降りて。あと1kmくらいなら歩けるでしょう?」
「うん、ありがとうね。」
下ろされて街道の先を見ると、そこには森の中に広がる伐採された切り株だらけの丘とその先に農地が広がる平地、そしてさらにその奥には城壁と中心に聳え立つ城塞らしきものが見えた。大きさは前の砦とは大違いだ。
「...ここが、モリノの町よ。さぁ歩いて。」
しばらく歩けば城門まで着いた。大きな門の横の小さなドアに数人程度の列ができているからきっとここが入口なのだろう。
その列の中にベガさんと一緒に並んで列が進むのを待っていた。その時だった。
「おい、お前獣人か?横の奴がご主人様か?」
身なりからして明らかに犯罪者というか、この世界で言うなら賊風の男がナイフを持って話しかけてきた。
「...私は帝国軍人よ。この人は...そうね、保護した民間人とでも言ったところかしら。」
「知らねぇのか?獣人は帝国で市民権はねぇんだぜ?つまり、捕まえたもん勝ちだ。傷をつけられたくねぇなら抵抗しないことだな。」
気づけば数人程度の賊が俺たちを囲んでいた。
「...ここで騒ぎは起こしたくないわね。あの!衛兵さん!...?」
ベガさんが呼んでいるにもかかわらず衛兵と思しきはそっぽを向いていた。
「...本当に、帝国軍の腐敗は見過ごせない領域に至っているわね。仕方ないわ。少しあなたは離れていて。」
「大丈夫なの?」
「いいから、さもないと巻き込まれるわよ。」
言われた通りに10m程度離れると、言葉一つ発さずにベガさんは手を賊たちにかざした。
「?おい、何するつもりだ?」
ベガさんはまたごにょごにょ言うと、グライダーの時よりもかなり強い暴風が賊たちを包み込んだ。
「行くわよ!捕まって!!」
「また担がれるのかうわぁぁぁぁぁぁっぁぁ?!?!」
こんどはすさまじい加速度と風をケツから感じる。加速度で血が頭に上って少し痛い。
賊たちは何か言っていたが、彼らは追いかけられずにそのうち遠く離れてしまった。
「...ここまで来たら大丈夫ね。下りて。別の門から入るわよ。」
「あんな風にも使えるのか。風は、いや、ベガさんは偉大なんだなぁ...」
「え?...そんな事ないわよ...」
照れるベガさんもとてもかわいい。
別の門から入ると、列こそ長かったが簡単に入国審査を受けることができた。
「書類を。」
「帝国軍人よ。」
「なるほど、ご苦労様です。...横の方は?」
「保護した民間人。通っていいわよね?」
「なるほど。どうぞ。」
ほとんど顔パスで通ってしまった。
町に入れば馬車が太い道のそこら中を行き来していて、店が並ぶ通りの前を数えきれない人々が行き来していた。
「はえー作画コスト高そうな町だなぁ。」
「町どころか、ここは城塞都市よ。私の所属していた部隊の、第334空中騎兵大隊の司令部があるわ。」
「なんでや阪神関係ないやろ」
「...それよく聞くけど、阪神って何なの?」
「なんでそんなのをよく聞くんだよ...」
単位系や言語などの謎を抱えながらベガさんについて行って都心にある城塞へと向かった。
異世界で自作戦闘機を駆る話 @ME_SSR
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