エピソード10 強風

『聞こえているか、魔法少女。あぁしの名前はフーコ、戦闘型エネミーだ。侵略をする前に決闘を申し込む‼︎』


 司令からの贈り物で渡されたボイスメッセージを聞き、呆気にとられる晃と美咲。


「随分と好戦的だね。よっぽど自信あるみたい」


「それでも、私が勝ちますけどね」


 外に出ると、天気は良いが強風吹き荒れる厄介な状況。少しでも油断すると姿勢を崩しかねない。

 慎重に歩いていくと、役場前の交差点にエネミーの姿が。強風をものともせずに仁王立ちで魔法少女達の到着を待っていた。


「待っていたぞ、魔法少女‼︎」


 白髪のツインテールをなびかせる、幼女のような見た目のフーコ。魔法少女は既に臨戦態勢で身構える。


「あなた、随分と人語を綺麗に話せるみたいですね。ここには長い期間いるんですか?」


「全然、まだ二週間しか来てないけど?」


「ちょっと待って。エネミーって二週間で人語を話せるものなの、晃ちゃん?」


「二週間じゃ、せいぜい五十音を話せる程度ですよ。会話がちゃんと出来るには二年もかかるはず……」


「とにかくっ、お前を倒してこの地球を侵略するための第一歩を踏み出すっ‼︎ そうすればこのあぁしがエネミー最強として君臨出来るっ‼︎」


 どうやらこのエネミーは、少し単純な性格なようで。

 それでも晃達は姿勢を崩さず出方を伺う。


「さぁ、始めるよっ‼︎」


 フーコが右手で銃の形を作り、それを晃に向ける。


「ばぁーん」


 その瞬間、晃達に空気弾が襲い掛かる。あまりにも突然の出来事に一瞬だけ身体が浮き上がりそうになり、何とか踏ん張るものの吹き飛ばされてしまう。


「これは……」


 今の攻撃で、おおよその能力が判明した。


「どうだどうだ魔法少女よっ。あぁしの能力は“風を操る能力”だっ‼︎ どんな物でも吹き飛ばす、まさに最強の能力ってモンよっ‼︎」


 実際にフーコの能力は、晃ですら吹き飛ばす風圧だった。しかしそれだけで晃の身体は受け身の時に出来た、擦り傷程度しかダメージがない。

 一方で美咲も同じく吹き飛ばされたが晃と大差ない怪我しかなく、これを強力な能力とハッキリ言い張るには、いささか残念としか思えない。


「たったこれだけですか。なら突っ走れば‼︎」


「そうは、させないよっ‼︎」


 フーコは両手で銃のポーズをとり、狙いを定めて一気に息を吸い込む。


「ばばばばばばばばーん‼︎」


 晃の前に無数の空気弾のようなものが迫り、身体中にぶつかっては持って行かれそうになる勢いで深く突き刺さる。


「一発しか撃てないなんてバカな事しないからね。それにしても魔法少女って、見えない攻撃が弱点だったとはねぇー」


「バカに、しないでくださいッ‼︎」


 魔法少女ならではの脅威的な身体能力で一気に詰め寄り、フーコの目の前に立つ。


「ちょっ⁉︎」


「油断しすぎですッ‼︎」


「ばんっ‼︎」


 しかしフーコは焦りながらも自分に空気弾を撃ち込み、晃から一瞬で距離をとる。


「あっぶなー……」


 意外にも頭の回転は良いみたいで、ほんの一瞬で魔法少女から距離を離された事で、向こうに考える時間を与えてしまう。


「さぁーて、そろそろ本気でいくよー‼︎」


 フーコは両手を空に掲げる。すると風向きがガラリと変わって晃達に対して向かい風になっていく。


「あぁしはね、風を操れるんだ。だから竜巻だって作れるし台風も作れる。それにこうやって風向きを変えちゃえば‼︎」


 まるで台風の真下にいるような強風が晃達を襲う。もう立つ事は出来ず這いつくばっているのが限界だ。

 ほんの少しでも口を開けば、一瞬で口内が冷えて乾いていく程に強烈な風が吹き付ける。


「ほらほらぁ、こうすれば誰も立てない‼︎」


 吹き飛ばされないよう、しがみつくのが精一杯。

 これほどの強風に立ち向かう力は、晃には持ち合わせてあない。


「さぁて、コレでおしまいだぁ‼︎」


 その時、突風で吹き飛ばされた車がフーコの後頭部に激突して下敷きにする。それと同時にフーコが発動させていた能力は解除され、風が止んでいく。


「……さて、これで」


 フーコの首をへし折り、駆除を終える。


「司令、フーコの駆除を完了しました」


『お疲れ様、晃。早く身体を暖めた方が良いわ』


「了解。帰りますよ美咲さん」


「うん、晃ちゃん」


 これにて、今日も平和が守られた。

 2人の戦いは、これからも続いていく。

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魔法少女は護らない 華永夢倶楽部 @geimu_kurabu

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