【短編】灯は真っすぐな碧の意志

さんがつ

【短編】灯は真っすぐな碧の意志

*別話、「【短編】灯は風に舞う薔薇の花唇」の別視点のお話です。

先にあちらの方を読んで頂いた方が楽しめると思います。




******


「貴方は本当に、本物のバカですわ!!」


婚約者に打たれた頬がジンジンと熱を持つ。

涙と鼻水でぐずぐずになった彼女の熱に当てられ、自然と零れ落ちた。


「…すまない…」


俺は本当に、本物のバカだ。

目の前にある大切なものがずっと見えていなかったんだな。


目の前で俺をバカだと罵った彼女との出会いは、いつの間にか…気が付けば傍に居たという感じ。

同じ年。

親の決めた婚約者。

少し暗めの金髪に碧眼。

気が強い、小賢しい。

小言が多い、面倒くせぇやつ。

…だけどすげぇ美人で、俺の事が大好きな女だ。




*****




「それはどうも、ありがとうございます」


クラスメイトに婚約者が美人だと揶揄された俺は、作った笑みでぶっきらぼうに答えた。


はぁ、と俺は心の中でため息をつく。

正直な所、俺は婚約者のアイツより従妹のアビーの方が好きだ。


柔らかそうな赤毛がフワフワと揺れるアビーの方が可愛い。

お従兄様~と何かと頼ってくるアビーも可愛い。

釣り目がちの瞳が笑った時、キュッとなる癖も可愛い。

嬉しそうな時に、にまっと笑うも可愛い。

そばかすが目立ってやだなぁと悩んでるアビーも可愛い。


因みに俺にはアビーと同じ年の妹がいるが妹は可愛くない。

あいつはどちらかと言うとミニ婚約者みたいな感じで気が強いのだ。


「はぁぁ」

「良いなぁ美人だし。羨ましい」

「一度でいいからデートしたい」


あいつら、離れた席でまだ言ってる…。

まったくこいつらはバカだな、女を見る目が無い。

少しくらい見目が良く立って、小言の多い小賢しい女が毎日家に居るんだぞ。

うんざりとすると思わないのか?

と、今になって思えば、当時の俺はバカだった。



俺の住む場所は国の南にある辺境の地。

年頃になると家から離れて王都の学校へ通う事となった。

嫡男なので人脈作り?とか何と言われたっけ。

べつに自分よりバカな奴とツルむつもりはないがな。


そう言えば、俺と同じ学年に第一王子が居るらしいので、そいつとは仲良くしてやろうと思っていた。

それに王子とやらと一緒にいれば、小賢しい婚約者の小言を聞かずに済みそうだ…なんてな。


で、その王子様とは、気が付けば仲良くなっていた。

割に気が合うというか、似たような環境で育ったのかも知れない。

それでも大きく違う所がある。

それは婚約者だ。こっちは小言の多い婚約者で、あっちは控えめな婚約者。

まぁ、王子様は真面目そうなんで、丁度良いのかな?

窮屈そうなカップルだな…それでも国の行方を考えると、これはこれで安心だな…なんて他人事のように思っていた。



そんなある日、自分の婚約者が言い寄られているのを見た。

相手はだれぞ?と言えば、将軍様のご子息だ。

侯爵家の次男で騎士。

真面目な爽やかイケメンとの噂の、女子の間で人気のあいつか…と。


まぁ、実は俺も割とモテるんだぞ。

顔は整っている方だし、辺境の血筋のせいか恵まれた体格だし、頭も良い。

だけど婚約者が圧倒的美人なんで、俺の傍に女は寄ってこない。

そもそも騒がしい女性は好きでは無いから、そのあたりの婚約者様のけん制は助かってはいるが。

とは言え、結局俺はアビーが一番かもな。


さて、話は逸れたが、今は婚約者様だ。

この場はどうしたものか?と考えていたら、彼女と目が合った。

目が合うなりホッとした表情に変わった婚約者を見た俺は、はぁと一息ついて彼女の方へと歩み寄った。


「失礼、彼女が何か?」

「貴方は…?」

「失礼しました。ウォール地方の領主が嫡男、エッジ・ウォールです。ダナン殿、我が婚約者に何か御用ですか?」

「あっ、ウォ…いや…その。すみません。失礼します」


少しばかり睨みつけると、ダナンは慌てて離れて行った。

何が爽やかイケメンだ。あいつ、人の顔も覚えないただの脳筋だろ。


「来るのが遅いっ!」


あいつバカだなーなんて思いながらバカダナンを見ていたら婚約者様に怒られた。

やれやれ。

仕方が無いので彼女の方へ目を向ければ、うっすらと涙を浮かべてプルプルと震えているのが見えた。

ははぁ、こいつもバカだな…。

怖いんだったら、さっさと逃げれば良いのに…。


なんて考えていたら、婚約者様が急に抱き着いて来やがった。

おっ!たまには可愛い事もするんだな…。

まんざらでもない気分に浸っていたら、思いっきり足を踏んできやがった。


「っつ!痛てぇ!なんだよ!」

「バカエッジ!、さっさと助けに来なさいよ!」


さっきまで小さく震えてたくせに、今は怒りでフーフー言ってらぁ。

はぁ…だから小言の多い女は面倒で嫌なんだ。

そういう所だぞ。

って言っても分からないだろうなぁ、我が婚約者様は。



叱られた…じゃなくて、あいつが怒るので、近頃は、婚約者様の様子を注意して見るようになった。

今まで放っていたから気が付かなかったのだが、婚約者様は随分とモテるらしい。

まぁ、あいつ美人だしな…。

しかしな、俺を差し置いて俺よりモテるとは…解せん。

はぁ。

あんまり酷いようなら助けてやるか。

…なんて優しい気持ちの時もありましたよ。




*****




「フローラ嬢は熱心ですね」

「そうでしょうか?」

「ええ、実はうちの妹も詳しいのですよ」

「えっ!ヴィヴィアン様が⁉」

「ふふっ、あんまり大きな声では言えないのですがね」

「そうなんですね、ふふふ、何だか意外ですわ」


放課後、寄宿舎へ向かう帰り道。

中庭の廊下の先でフローラ嬢と呼ばれた我が婚約者様は、まんざらでもない顔で笑っているのを見つけました。


へぇ、そうですか。

フローラ嬢ねぇ。

お相手は…王子様のぉ~婚約者のぉ~お兄様ですか。

…侯爵家の騎士の次は、公爵家のご子息ってね。


そんな二人の仲の睦まじい様子に、面白くない気分がよぎったが、冷静に考えれば、これは良い状況かも知れない…と持ち直した。

あいつがそっちと一緒になるなら、俺はアビーと一緒になれるのでは?

あはは、悪くない、悪くない!俺ってば天才かも。

…なんて当時のバカだった俺は喜んでいましたね。



その翌日、俺はあいつに昨日の話を切り出した。


「あいつ…あ、いや。ハワード公爵んとこの奴と仲が良いのか?」

「は?」


婚約者様、声が怖いって。


「昨日一緒に話してる所、見たから」

「あ~…生徒会が一緒だからですけど?」


婚約者様、眉間にしわを寄せて睨んでくる。


「へぇ」

「…気になるの?」

「別に」

「ふ~ん」


あはは、チラチラと俺の様子を伺ってら。

まぁ傍から見れば、浮気って形になるもんね。

一応俺と言う婚約者が居ますもんね。

でも、まぁ、別に俺は気にしないけどな。


「良いんじゃね」

「は?」

「一緒の仕事してんだろ?仲良くやっとけよ」

「…はぁ?」


婚約者様、ちょっと怖いって。


「じゃあな」


こういう時は、触らぬ神に祟りなし。逃げるが勝ちです。

背中で婚約者様の大きなため息を聞いたような気がしたけど、ため息を吐きたいのはこっちですって。



そんなこんなで、婚約者とちょっぴり距離を置きつつ過ぎしていたら、妹とアビーのデビュタントの日がやって来た。

辺境の地から王都まではかなり遠い。

こっちに来るのは、結構大変だったんじゃないかな?


そう言えば、俺の入学についてきた婚約者も大変だったのだろうか?

あん時はお互いにまだ7つとか8つだったから大変さがよく分かってなかったのかもな。

思い出しても同じ馬車の中で、毎日バカな話ばかりして、大人達にうるさく注意さらていたような気がする。



迎えたデビュタントの日、俺も身なりを整えて王宮に向かう事になった。

華やかな一団の中に、見慣れた二人を見つける。

他の令嬢とは違ってアビーは髪をまとめ上げていた。

うん、何だか大人っぽいな。正直似合ってない。

いつものフワフワスタイルの方が可愛くて良いな…なんて思っていた。


「お兄様!どうですか?」


アビーの方を見て、感想を考えていたら妹が声をかけて来た。


「良いんじゃねぇか?アビーも良い感じだ」

「そう!良かったわ!」

「お従兄様ありがとう!」

「そう言えばお兄様も良いじゃない」

「まぁな」


妹たちと出会えた事で社交用のスイッチを入れた俺は、いつものように作った笑みで返事を返す。

はぁ、これから仕事か。面倒だなぁ…。

なんて、この時は呑気に思っていました。


まさかアビーとあんな事になるなんて。




*****




「王子様とのダンス…楽しかった」

「良かったな」


王子を見つめながら、王子の色気に当てられた妹に呆れながら返事をする。

全く…単純な妹だな。

そうだなぁ。確かに王子の見目は一級だもんな。

それにエスコートも完璧だ。

田舎の令嬢が入れ込むのも仕方ないな。でもな、ほどほどにしとけよ。


そんな事を思いながら、妹の向こうで同じように王子を見るアビーの横顔に気が付いた。


「…っ」


俺は思わず息を止めた。


強い視線。

潤んだ瞳。

ほんのり色づく頬。

少し開いた唇。

可愛い女の子だと思っていたアビーだったのに、何故だか彼女が急に女に見えたのだ。

自分の気持ちに戸惑いを覚えたのは、そんなアビーの横顔を見たからだ。


その後、社交の華やかな熱気の中、俺は妹とアビーを見失った。

会場から出たのか?と思い、外に出て回廊を探していると向こうから妹がやって来た。


「バカか!勝手に出るな!一人なのか?アビーは?」


額に汗を浮かべ焦っている俺を見た妹は、素直に謝ってきた。


「アビーの顔色が悪かったから、休憩室へ連れて行ったの。それでソファで休ませたので、お茶を頼もうかと…」

「はぁ。危ないから勝手に行動するのはもう止めてくれ、頼むから」


近くに居た騎士を呼び、妹を父の元へ届けるように伝え、俺はアビーの元へと向かう。今になって思えば、妹と一緒に行けばよかったのかも知れない。


妹に言われた部屋へ赴けば、アビーはちょこんとソファに座って待っていた。


思わずため息と、呆れた声が盛大に飛び出した。

ほんと、無事で良かったよ。


「気分が優れないのか?」


アビーの傍へ寄り顔を覗き見れば、なるほど。大勢の気にあてられたのか、顔色が悪い。


「ちょっと待ってな、お茶を煎れてやる」


部屋に備え付けの給湯室でお茶を沸かしている時、俺はふと思いついてしまった。

疲れているなら少し落ち着いた方が良いんじゃないか?って。


なので辺境の者なら持ち歩いている鎮静剤を少しお茶に入れた。

興奮を抑える薬液。

振りまけば魔物にも効くし、匂いも少ない安全なものだ。

多少眠くなるけど、今はそれで少し眠ってしまった方が良いか?


「飲めば落ち着くと思う…少し休んでも構わないよ」


そう言って差し出したお茶を彼女は喜んで、素直に口にした。

やがてアビーの小さな寝息が聞こえた。

彼女をベッドに運び、穏やかな顔で寝ているのを見て安堵もした。


次に浮かんだのは、先ほどの彼女の顔だ。

あれはダメだ。アビーの叶わない恋なんて見てられない…。

くぅくぅと音を立てて眠る彼女を見ていると、俺はいたたまれない気持ちになった。


諦めてもらわないとな…。

泣くだろうな…。

俺だったら別に何でもいいけどな…なんて考えていたらまた思いついてしまった。

俺が貰ってやれば良いのでは?って。


そこから頭がぐるぐると回った。

どうすればいい?

目覚めてから告げるか?

いや…もうそう言った状況を作ってしまえば…。


今になって思えばもっと冷静にゆっくりと考えるべきだった。

短慮な俺は、彼女が起きるまでに、何とかしないといけないと思ってしまった。

それと同時に脳裏に強く浮かんだのは、あいつと婚約者の仲睦まじい、あの日の光景だった。


俺は給湯室へ戻り、グラスに水を注いで一気にゴクゴクと飲み干した。

大きく息をついて、俺は覚悟を決めた。


クラバットを外し、襟を緩める。

ジャケットも脱いで、カフスボタンも外す。

調えた髪をわしゃわしゃと乱す。


はぁ…やるぞ。


部屋に戻り、静かにベッドに向かう。

ゆっくりと彼女の髪留めを外す。

解けた髪をゆっくりと撫でて、広げた。

胸元のリボンを少し解く。

出来るだけ触れないように細心の注意を払いながら、ドレスを乱す。

流石に下半身は触れないや…。


はぁ、とため息を付いてごめんな…と言いながら、つま先からタイツを引っ張っる。

プツンと言って少し脱げた。

彼女は気が付かない。くぅくぅとまだ寝ている。


だぁぁぁぁぁ~っ!

疲れた!

禿げるわ!

むしろ禿げたわ!


力尽きた俺は、そのままソファにぐだっと深く落ち込んだ。

これ、当分動けそうにないわ。


再び大きくため息を付けば、少し冷静になった。

賽は投げられた。

俺はこのまま彼女の目が覚めるか、誰かがここに来るまで待つ事にした。



部屋へ来てから20分程経っただろうか。

彼女が目を覚ましたようだ。

ハッと息を呑む音が聞こえる。


俺は出来るだけ笑って彼女に声をかけようとした。


「君が次の辺境伯夫人だ、悪くないだろう?」


満足そうに微笑んでみたが、きっと引きつっていたと思う。

上手く笑えなかった。



その日の夜、彼女は帰って来なかった。

それでも大事にならなかったのは、王子の婚約者であるヴィヴィアン様が直接連絡を寄こして下さったからだと思う。

田舎令嬢がヴィヴィアン様と仲良くなるなんて、アビーは凄いな…なんて親父たちは呑気に言っていたが…。


翌日、王子に呼び出された。

殴られるかもなぁ…仕方ないな…。なんて思いながら部屋で待っていた。


目の前に座った王子の顔を見たら、怒っているというより、辛く悲しそうだった。

あ、俺やっちまったな…って咄嗟に分かった。

気が付いたら言い訳をしていた。


「手は出してない!」

「はっ?」


当然だ、あんな状況。信じられないだろう。

でも信じて欲しかった。


「だから、彼女には手を出していない」


口の中に苦いものがこみ上げる。


「そんな言い分が通用するものか」

「少し…そう。少し勘違いさせて外堀を埋めただけだ」


もうだめだ。友人を失った絶望感からだろう、俺は淡々とそう答えていた。


「…例えそうであっても…これはいくら何でもひど過ぎる」


そうだよな、そうなんだよ。

短慮のせいでこんな事になってしまった。


「…あとはこちらの話なので。出来れば放っておいてくれませんか?」


そう言って素直に頭を下げた。


「辺境には辺境のやり方がある…」


きっと俺は王都には居られない…。

友人を失ったまま、辺境のどこかに閉じ込められるか、はたまた魔物の餌か。



*****



あれから直ぐに俺は辺境の地へ戻された。

そこから約2ケ月。謹慎だとか何とかでずっと地下牢に入れられた。

もちろん親父にボッコボコにされた後だ。


はぁ、何やってんの俺。

情けなくて泣いた。

でも、やっちまった事は覆らない。

領主は弟が継げばいいか…俺は死ぬまでここでも良いか…ってちょっぴり開き直っても居た。

図太いんだよな俺…。


「謹慎を解くのは話し合ってからだ」


久し振りに地下牢にやって来た親父にそう言われて、2か月振りに外に出る事が許された。身ぎれいにされた俺は着替えさせられて応接室へと案内された。


話し合いって…親父の部屋じゃないのか?って少し疑問に思ったけど、もしかしたらどこかへ養子に出されるかも知れないな…なんてどこかで冷静に考えていた。



案内された扉の向こうには、涙と鼻水でぐずぐずになった婚約者がいた。


「貴方は本当に、本物のバカですわ!!」


打たれた頬がジンジンと熱を持つ。


ぐちゃぐちゃな顔でも美人だな…なんて思っていたら、彼女の碧眼の奥にある熱に、自然と何かが零れ落ちてきた。


「…すまない…」


俺は…本当に、本物のバカだったんだな。

フローラ、お前、俺の事が本当に好きだったんだな。


そんなフローラを見ている俺もずっとお前の事が好きだったんだな。

当たり前のようにそばに居たから、目の前にある大切なものがずっと見えていなかったんだな。



数日後、俺はまた応接室へ通された。


「待っていなさい」


そう言われて一人にされた。


はぁ…どうなるかな…。

いや、俺の事はどうでも良い。

アビー。アビーは大丈夫なのか?

フローラは?フローラはどうなるんだ?


ぐるぐると考えていたら、目の前に青年が座った。


「あ…」


それは数か月前に辛そうに、悲しそうに俺を見ていた王子だった。


「婚約を申し込んだ」

「…は?」


一瞬何を言われたか意味が分からなかった。


「アビー…アビゲイル嬢に求愛した。彼女と添い遂げる」

「はぁぁ?なんだそれ⁉」」


俺は思わず立ちあがってしまった。


「クックック、それが地のほうか?」


王子が笑いながら聞いてくる。


「は、いや…その…」


俺は静かに席についた。


「お前、拗らせ過ぎじゃないか?」

「…」


額にジトっとした汗が出る。


「何か決める前は、婚約者に相談する方が良いな…」

「…」


婚約者のバカと言う声が聞こえる。

王子は、ふぅと小さく息を吐いた。


「まぁ、あれだ。アビーはこの地の風が似合う。時折尋ねにくるつもりだから、その時は領主としてフローラ夫人と盛大に持て成してくれ」

「…っ!」


そう言った王子の顔をゆっくり見上げると、目の前の瞳は、フローラと同じ碧い色だった事に初めて気が付いた。




*****




あれから20年。

辺境の短い夏が始まった。


「今年はどうだろう」


秋の乾いた風が好きだと言っていた陛下は今年はこられるだろうか。


「今年は来られると思うわ」

「うん。お前の瞳はいつ見ても美しいな」

「はぁ?何言ってんの!バカじゃないの!」


年を重ねても彼女は変わらない。


「そうそう。俺はバカなんだ」

「はぁ、知ってます…」

「だからフローラしか無理だ」

「っ!」


そう言って彼女を抱きしめてフローラの肩で頭をぐりぐりと押しつける。


「止めなさいって!」


慌てる彼女の顔を、あははと笑ってのぞき込めば、その瞳は真っすぐに俺を映していた。


「愛してるぞ!」


大きな声でそう叫べば、いつものように乾いた風が髪を頬を駆け抜ける。

何度見ても、沈む夕日の逆光の中でも、彼女の目は、俺の心を捉えて離さない。


いつ見ても彼女の碧の眼は真っすぐで熱くて、そして美しい。


























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