第4話 世界に慣れろ (2)

「…」

森の葉擦れ音だけが聞こえる

少し開けた、訂正拓いた場所で、切り株の上に紐で止められた丸太と一人座った男が居る

呼吸のテンポとやり方を変え、ゆっくりと遠くの動物音を耳に入れる

ザワザワとした葉々の中に身を落としていくような…

「…ふう、休憩終わり」

メリハリをつけるのに声出しは有効だよなやっぱり

丸太に向き直り

「剣」

稽古を再開する

拾われてからおよそ半年?一年?始めの頃次第に生前の肉体に近づいていっていた身体はさらに戦闘用に姿を変え、体を動かす感覚も元に戻ったと言って良いだろう

もうここでの生活も慣れ、前の世界がずいぶん昔に感じる

魔力に関しても、いくつかのことを学んだ


───


「魔力についてはわかってきた?」

「ああ、はい、まあ…元々持ってなかったものを得たのだからそれを異物として感じて認識する…ほぼできました」

体の中や外の魔力を認識できるようになった、情報量が単純に増えてるからやりにくいとは思うけど、便利だ

「うんうん、放出は?得意そうにしてたけど」

「そっちも、はい」

落としや勁に合わせれば同じような感覚でできるし、使い道も同じようなものだったから体に合わせる訓練ですぐに出来るようになれた

「じゃ、次は循環をやろっか」

「循環」

呼吸法や血流促進なんかはわかるが、魔力だろうな

「魔力は体外魔力マナ体内魔力オドもあるけど、ちょーっと変わるんだ」

「なるほど?」

意訳してくれるの本当にありがたいな、きっとここも固有名詞かなにかだっただろう

「まあ大差があるわけじゃないし、今はいいよ。で、マナで魔術や放出を使うことはできるけど、オドで使う方が使いやすい。そこでオドを切らしたくないわけだ。方法は複数あるけど今回は、体内に貯蔵し、貯蔵した魔力が劣化…まあ劣化か、しないように体内を循環させよう!って話」

なるほど、"気"や、"息"と似たようなものかな?まああれらはそれっぽくすることで他に作用して結果的に体に影響が出るってだけだけども

「ちなみに他の方法は?」

そう聞くと少し考えている

「んー、…オドのキャパを上げたり、生成や変換量や効率を高めたり、かな~。ちなみに私はマナがそのまんまオドだよ、イコールイコール」

ニパっと笑いながら答えて

「じゃ、やってみせて」

「はい」

……よし、聞いた感じ近いのはそっちだから合わせてみよう、息を落として、丹に保持し、吐く…いや吐くだとダメなのか、じゃあこうじゃないな…

「あーうんうん、惜しくはあるかな?」

集中する、一旦魔力は忘れよう、指先、足先、周りの空間…は行かないくらいで、集中。すれば、体を流れる血の脈を節々で、多方で感じ取れ、ここに魔力を合わせてみよう…結局が実でなく感覚の問題なら…

「うん、えーと、ズレてるかな、少し」

「あ、そうですか」

…やり方を変えないとかな

「うんうんやっぱり、これまでが早いしここも惜しいとこまで行ったしすぐ自然といけるかなって思ったけど、初心者どころか初めてだもんね。支えるよ」

その声を聞いて、直、自分の体のさっきまで感じてたのとは少しズレてる…うん確かにズレている場所を流れる大きななにかを感じる

これとこれの周りを意識して…動かす、巡らせる、加速させる…

「お、できたね、じゃあ離すよ」

大きな感覚は無くなったが、一度掴んで離さないようにしていたのだ、見失いはしない。あとはそのまま続けて、感覚を得るまで繰り返すだけだ

「ありがとうございます、自分でもわかりました」

「じゃ、続けなね~」


───


「そろそろさ、実戦入れてみるべきだと思うんだよね」

ある朝食時、言われたのを覚えている

「実戦…」

「そ、まあ対人は用意できないけど、この森歩くのを許可するよ」

森…多くの獣が住まう、深い森だ、所々開けた場所はあるが

「…獣狩り?」

「うん、やってきな」

この人のこともなんとなくわかる部分は増えた

こういう、やろうと決めたら即行動というか、そうしない奴のことは普通に置いていくタイプの人間

だから、こうなった以上やるしかない

「ごちそうさまでした、じゃあ行ってきます」

「はーいがんばれ~」


森に出て、獣を探す、とはいえ探してもなかなか出会えないもので…待つことにした

「よいしょ…と」

座りこみ、静かに待ち、気づける距離に来たら向かって狩る、それを何日も何週間も繰り返していた

まあ、大型は避けていたのだが…

なんとなくいける気がしたので、挑むことにしたんだ


おそらく、イノシシ

高さ約3m長さ約6m、巨体

これまではパスパルトゥーを無視することもあった大型の獣を前に、彼は殺意を向ける

すれば、それは彼を見た

「は…やるか」

彼がそう思った束の間、初手の突進

50mは距離が取られていたが、数瞬で詰まる

それを、ただの突進ではなく壁そのものがを、彼は汗もかかず見つめ、体重移動と一歩の魔力放出で避けた

そして右に避けたそのままに、勢いを乗せ軽く跳び、蹴る、右足

側頭部に的中したそれは、骨に響かせた感覚と共に、ほぼ無傷の頭部という結果で終わり、イノシシもまた頭を、首を、体も使い大きく動かす

その長さも長く、それでいて、前の世界のそれと異なり鋭さすら得た牙を振り抜く

避けはする、が、避け切れない、それを理解した彼の体は自然と肘で始まり前腕を使い防御を行った

前までや、普通なら、骨も肉もまとめて削がれ抉られそのまま体まで切り裂かれていたそれは、彼の編み上げた魔力の皮に防がれる

「これなら…いける!」

その勢いを使い、後ろに跳び、そして

「剣」

手に出現させた剣を、握りしめ

「…飛魚」

踏みしめ、地蹴りから、魔力放出を連鎖させ、加速し

横一文字に両手で構えた剣、そして衝突の瞬に入れる大と言える魔力放出により正面からイノシシの牙と頭蓋を砕くに届く

つまり、勝利、イノシシは時間をかけながらフラつき、そして崩れた

それを前に彼もまた

「うお…フラつくな…」

魔力消費の多さと魔力や技を利用した初めてのレベルの肉体酷使により、疲労感と貧血の症状のようなものに見回れていた、そんな中でありながら巨大な獣の地抜きと内臓削ぎを行って、紐とシートで家へ運ぶのだった


───


思い返せば変化や転機のような出来事は結構多かった、来てまだ浅いからというのが一番大きいだろうけど、勇者である以上できる限り強くならないといけない

そんなこんなで今日も修行を…

「…うん?」

足音がする、いや、大きいわけではないが、森の中を走る音がする

あの人は走らないから…別の人、家に向かっている

…見に行くか


音は近づいている、こちらは音をなるべく立てないように、かつ速く動き、よし、家につくまえに間に合える

「誰だ?」

顔を出しそう聞く、それとほぼ同時だろうか

「え!?…敵め!」

驚いた声と、すぐに切り替わった目から、少なくとも自分にとって無害であろうとはしてないことがわかった

そして詠唱を始めてる…魔術相手は…あの人と練習はしてるけどまだ慣れないんだよな

である以上、速攻しかない

「…剣」

剣を抜き切りかかる

それに驚いたのかなんなのか

「ッ…インメア!」

おそらく壁、透明なものが彼女を覆う、ああおそらく女性だ

しかし小さくではあったが魔力放出は乗せたし速度は前の世界での自分以上にはなっているけれど、防がれる

しかし複数回攻撃すれば割れるという感覚…みえなくはあるがヒビを入れれた感覚があるんだ、それはあった

「対人剣」

…待て、詠唱が変わった?

「うそ、…パリアスノーブムhロンダータ!」

四角い、半透明な壁が、今度は視認できる壁が彼女を包み覆った

対人剣と名乗った重なる剣戟の全てが防がれてしまう

「これじゃ傷も…」

いや、魔力を削れている、魔力感覚を高めていたからわかる、濃度が確実に落ちている、元よりムラがあった、即興かなにかだったのだろう、そこをつけば…

「それまで!!!」

…横からあの人、ライゼンリットさんの声がして、お互いに動きが止まる

そして止まる直前の入力、その剣が壁を砕くだけしたところで、戦闘は終わった


「急に来るなって言ってたよね」

机を三人で囲んでおり、ライゼンリットさんが言葉を発する

「いや…だってぇ…見せたいものが…」

さっき数秒戦っていた女性、身長は…165…強くらい?赤褐色の髪色、目も同じく。整ってはなさそうな髪で、ショート。スポーツウェアのような下に…上は着飾っているように見えて、チグハグに思える服装だった

「えーと、誰なんですか?この人」

そう聞くと、困ったような顔をする

「…えーと」

「一番弟子です!!」

「平研究員だ」

「えぇなんでですかぁぁぁ成果だって他の雑多に比べて出しるしこんなにも慕ってるのにぃぃぃ」

なんとなく…わかった気がする

「で…誰ですかその男」

「匿って魔術や戦闘を教えてる」

「は~~~?????許せない、許せねぇよ」

「ははは…部屋戻りますね」

見せたいものがあるとか言ってたしまだ話すだろう、自分は多分要らないし部屋に帰ろう、うん

「ちょっと待てー!」

…なんだろう、と思いながら振り向く

「一番弟子は私だ!つまりお前は!ライゼンリット様の弟子なのだとして!弟弟子!そのつもりで分をわきまえ」

「コラ」

「いっっったい」

…部屋に戻ろう、うん

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何代目かの勇者活動 カノン @Kanon0920

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