第37話 シュート馬鹿
現在の状況は、やや
「いつまでも燻ってんなよ、
お前の積み上げた事実は、誰にも負けてねぇはずだ。
・ ・ ・ ・ ・
シュート技以外持っていない彼は、今この場において最も不必要な人間だった。ボールと向き合い続けて18年。生まれた瞬間からボールと戯れていた彼は、今日初めてボールを追うことを諦めた。
自分以外の全員が、微力ながらも戦いに貢献している。無能力の
その事実についてぐるぐる考えているうちに、脳みそが疲れきってしまった。疲れた脳は、思考を止め、身体に電気信号を送ることだけに専念するようになった。視界から情報が溶けていき、人の区別をつけることができなくなる。ただ、その代わりにボールを正確に目で追えるようになった。そして、視覚、触覚、聴覚、本来機能しないはずの嗅覚や味覚までもが、動き回るボールを受け取るべきベストポジションを示した。唾液が溢れそうなほどの芳醇な獲物へ飛びついた
・ ・ ・ ・ ・
話は、大国天原戦の1日前へと遡る。
もはや日課となった
「ふ~~~む。」
そう唸りながら
「今度は何考えてんだ?」
「いやぁ~なんかぁ~このぉ~言葉にしようとするとぉ~あのぉ~。」
「あぁあぁ悪かった悪かった。つい気になっちまってよ。」
「気になる……。そう!それだよ。もし俺が
「あ~、例のあれか。」
「例のあれだ。」
「
「そうなんだけど……、なんか別の視点でもあればもっとうまく発想できるんじゃないかと思ってさ。」
「別の視点ねぇ……。」
「なんか引っかかるか?」
「いやぁ、理屈っぽく説明することはできねぇんだけどよ。あいつはそういうんじゃねぇんじゃねぇかなぁ。」
「……俺も、若干そんな気はしてた……。」
「
と、
「俺は別に、できるんならドリブルもできるようにはなりたいぜ?」
「え、そうなの?」
とても驚いたという顔を
「てっきり、シュート一本で勝負してんのかと。」
「それができるに越したことはねぇけど、やっぱ勝つためにはいろいろできるようなっときたいだろ。」
「……そう、か。」
歯切れの悪い相槌をうつ
「
「え?」
「全員が満身創痍で、誰一人として前線に上がってなんかいなかったのに、
「どうって言われてもなぁ……。」
正直な話、なんとなくとしか言いようがない。全神経が、そこに飛び込めと叫んだから飛び込んだだけのことだ。
「なんでまた急にそんなこをを。」
「さっき
「……なるほどなぁ。」
「本当にただ、最高のシュートが打てそうな場所に身体が勝手に反応したってだけなんだよなぁ。」
「……その瞬間、他のことは考えなかったのか?」
「他のことって?」
「さっき言ってたみたいないろいろなことだよ。それこそドリブルとか、パス、敵の位置、味方の位置、技を進化させるためにはなどなど、たくさん考えることはあったんじゃねぇの?」
「……たしかに。」
そう言われてみれば、あの瞬間考慮すべきことなんざ無限に存在してた気がする。でも……
「シュートのことしか考えてなかったなぁ……。」
その俺の答えに、
「やっぱ
「悪かったなぁシュート馬鹿でよ。」
「なんも悪くなんかないだろ。そりゃ、理屈で考えればシュート以外もできたほうが良いだろうし、シュートしかできないやつがシュート馬鹿って笑われんのも理解はできる。けどさぁ、それでもシュート一本貫くってんなら……」
「すげぇかっけぇじゃんか。」
心臓がドクンと高鳴った。一瞬だけ、全部の歯車がかみ合ったような気がした。そして、すぐにその賛辞に応えるためのシュート技を考えようとして、歯車が狂った。
自分の中でギラリと牙を剥く鋭いシュートへの誇りと初めて相対した気分だった。どれだけ理屈こねて捨てようとしても捨てれない、本物の自分みたいなものをその日見た。ただ、それはまだ俺に力を貸そうとはしなかった。
・ ・ ・ ・ ・
目を覚ますと、チームの奴らがそこにいた。
どうやら、剛速球によって一瞬だけ気を失っていたらしい。30秒ほど試合が中断されてたとのことだ。審判が調子を尋ねてくるので問題ないと答える。そして、あの瞬間あの速度のパスを出せる奴のほうへ目を向ける。
「やってやるよ…。」
小さく覚悟を現実に吐き出す。誰の手も借りずに飛び起き、
「もう一本!!」
もう、何も迷わねぇ。
群像ファンタジスタ 武 @idakisime
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