第49話

それは次の週の月曜日に起きた。


いつも通りに放課後に集まった時から、アヤナの様子はいつもと違っていた。


「実は、次の標的は私だったみたい…」

「え……」


アヤナの話によると、朝学校に来て下駄箱で上履きに履き替えようとしたら、中に画鋲が入っていたらしい。幸い、履く前に気付き、怪我などは無いそうだ。


「初めてこういうのされたけど、結構恐怖だね。まだ心臓ドキドキしてる」


私は聞いた途端、ハラワタが煮えくり返る思いがした。怒りが全身を駆け巡って、止められそうにない。

横を見ると、おそらく私と同じ顔をしているだろう新井さんが居た。


「どうして…約束したのに」

「新井さん、あんな事言ったばかりで悪いんだけど、犯人の名前教えてもらえる?」

「美和ちん…でもまだ美和ちんと同じ犯人って決まったわけじゃないよ」

「そうだけど!でも一つの可能性としては高いよね!やっぱり黙ってられないよ!」

美和は語気が荒くなった。

「藤枝さん…お願い、もう一度だけチャンスくれないかな。犯人と話しさせてくれる?」

「新井さん…」

「もし、これで犯人が彼女なら、私は二人に誰が犯人かちゃんと話す」

新井はキッパリと言った。

これには美和も引き下がるを得なかった。

「分かった。約束してね」

「約束する。チャンスをくれてありがとう」


美和は犯人の気持ちが、自分の時より理解出来なかった。誰にでも好かれるようなアヤナちゃんがなぜ…?


しかし、犯人の真意は、三人の思いもよらないところにあったのだった。




新井がチャンスが欲しいと言って、一週間が経った。


「もう!悩みすぎてハゲそう!」

アヤナが吠えた。

「アヤナちゃん…そうだよね、辛いよね」

「嫌がらせされた事への傷はもうだいぶ落ち着いたの。でも今は、ハッキリしたい気持ちが大きい」

「分かるよ」

美和はため息を吐いた。

新井さんにチャンスを与えると約束したくせに、何もできない自分が歯痒い。アヤナちゃんもこんな気持ちだったのだろうか。私が嫌がらせを受けている時、こんな気持ちで隣に居てくれたのだろうか。

「ありがとう」

「へ!?急に何!?」

アヤナは焦った。

「私が嫌がらせを受けてる間、隣に居てくれて。一緒に怒ってくれて。ありがとう」

「なになになにー!?そんなの当たり前のことでしょー!?」

アヤナは頬を微かに染めながら首を横に振った。



私はいつも、皆んなに助けられている…こんな私なのに。

あの事が起こる前だったら、ううんあの事が無かった事に出来たらと、何度願ったか分からない。

私はアヤナちゃんにも一生言えない秘密を抱えている。



その時、バタバタと廊下を走る音がした。

「新井さん…かな?」

「まさか。だって新井さんが廊下走るわけないもん」

ところがどっこい、扉を開ける音と同時に飛び込んできたのは、息を切らせた新井さんだった。

「二人共!遅れてごめん!」

「新井さん…今廊下走った?」

「あ、つい…慌てて走っちゃった…」

新井は悪戯がバレた子供のような顔をした。

「そ、それより!二人に話があるの」

新井は息を整えながら言った。

「犯人が分かったの?」

「犯人は…藤枝さんに嫌がらせした人と同じ人だった。でも、理由が…」

「理由?」

「とにかく、ここに呼んでくるから彼女から話を聞いてあげて欲しい」

「〝彼女〟は、いったい誰なの」

美和から当然の質問が飛んできた。新井はそれには答えなかった。

「…今、呼んでくる」

新井は一旦、二人の元を離れた。美和とアヤナは顔を見合わせた。

「何だか知るのが怖い気がする」

美和は顔を曇らせた。

「大丈夫!私がついてるよ」

アヤナは美和の手をギュッと握った。その手はとても暖かかった。

アヤナちゃんだって心細いはずなのに…。


再び新井が二人の元を訪れた時、美和は目を見開いた。

〝彼女〟は、美和が口も聞いた事が無い子だった。


「か、川崎優奈です…」

彼女の声は今にも泣きそうで震えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る