第48話
「へー!新井さんと。それは良かったですね!意外なメンバーですけど」
昼休み、昨日の話を笹倉に話して聞かせた。
「そうでしょ?でもね、話すと凄くいい人なの、新井さん。表面だけだとちょっと分かりづらいかもしれないけど」
「そうですね、ちょっと近寄りがたいオーラもありますし」
「きっと、真面目すぎるだけなんだよ」
「それじゃあ、これから三人で帰りますか?」
「うーん、そうだなぁ。篠倉君が用事がある時は」
「それが…すみません!僕、体育祭の委員になっちゃって…これから放課後に集まる事がふえそうなんです」
「そうなの?昨日先生に呼び出されてたのはその為?」
「そうです…この間、クラスで誰も手を挙げなかったじゃないですか?だから頼まれてしまって…」
「そっかぁ、じゃあ新井さんとアヤナちゃん誘ってみようかな」
「そうしてくれますか?すみません」
「全然大丈夫!委員会頑張ってね」
「ありがとうございます」
そして放課後、美和は荒井を誘った。
「いいけど…アヤナさんも誘うの?」
「うん、誘おうと思ってる?…ダメかな?」
「別に。何も問題ないわ」
これは新井の歓迎の言葉だと受け止めた美和は、アヤナのクラスに行った。
「じゃあ三人で帰ろっか」
アヤナは了承し、三人は昇降口に向かった。
「せっかくだから、三人でどこか行かない?」
アヤナの提案に、美和は喜んで乗った。
「学校帰りにどこか寄るのは校則違反よ」
新井はやはりつっけんどんに言った。
「まーまー、固いこと言わずに。学校帰りがダメなら土曜日か日曜日に行こうよ」
新井の態度にも、アヤナは全く気にしてない様子だ。
「…それなら良いけど…」
「じゃあ決まり!来週でいい?土曜と日曜どっちにする?」
「私はどっちでも…新井さんは?」
「私もどっちも空いてるわ」
「じゃあ土曜日にしよっか。どこ行くー?渋谷とか行っちゃう?」
「私…渋谷とか何年も行ってない」
と、美和。
「私は行った事無いわ」
と、新井。
「んマジで!?じゃあ絶対行かないと。って言ってもやる事そんな変わらないけど」
「でも三人で行ったら絶対楽しいよ」
美和が言うと、アヤナは嬉しそうに頷いた。
「…そうね」
「!?美和ちん、新井さんが肯定したよ!」
「ほんとだ!嬉しい!」
「…ちょっとやめてよ。赤子が初めて話した時みたいに喜ぶのは」
「あははっ何その例え…新井さんって面白い」
アヤナが声に出して笑った。同じく美和も笑った。
「…そんなに笑う程面白くないでしょ」
新井は照れたように言った。
「いや面白いよ!じゃあ土曜日何時にする?」
「11時くらい?着いてからお昼食べよっか」
美和の提案に、二人も了解を出したので、土曜日のプランはそれで決まった。
「楽しみだなーっ」
「ね、すっごい楽しみ」
「…まぁね」
「またまたーっ本当は楽しみなくせに」
アヤナが新井さんをいじった。新井さんは「別に」と言った時の口角が緩んでいた。
美和は久しぶりに清々しい気持ちで居た。
それから放課後以外の普段でも、自然と新井さんと話す時間が増えた。
新井さんは仏頂面も多かったが所々漏れる表情で、美和は新井の感情が分かるようになっていった。
篠倉は言葉通り放課後は忙しくなり、アヤナが居ない時は二人で一緒に帰ったりもした。
新井は口数は少なくとも、こちらの話は一つ一つ真剣に聞いてくれているのが伝わってきた。
三人でいるのが居心地が良くなって来た頃、約束していた土曜日になった。
「おっはよーぅ!あ、美和ちんあの白いワンピース着てきてくれたんだ!?」
「うん、この間選んでくれたやつね、着てきちゃった」
「やっぱり似合うよー!リュックにもスニーカーにも合うしね」
「ありがとう。アヤナちゃんも今日の格好可愛い」
今日のアヤナのファッションは、大人っぽいシースルートップスにミニスカートだった。
「えへへ、ちょっと大人になろうと思って」
「似合ってるよ」
「ありがと!あ、あれ新井さんじゃない?」
遠くから新井がやってきたのが見えて、美和とアヤナは手を振った。
それを見付けた新井は、二人に駆け寄ってきた。
「待たせちゃった?」
新井は、少し息が上がっていた。
「全然!二人とも今来たとこ!それにまだ11時5分前だしね」
アヤナが言うと、新井はホッとした顔をした。
「それにしてもすごい人ね。いつもこうなの?」
「今日は土曜日だから余計かな。でも渋谷はいつもこんな感じで人多いよ」
アヤナが言った。
「私も何年振りかの渋谷だけど、こんな人多かったっけ?って思った」
と、美和。
「私達も今日は渋谷を楽しもーう!」
アヤナが二人の背中を押した。
三人はファストフードでご飯を食べた後、109に向かった。
「すごい…なんかパチンコ屋さんみたいな賑わい」
109の中を流れる爆音や人の声に、新井が呆気に取られていた。
「あははっまた変な例え…ほんと面白い!」
アヤナは笑ったが、美和もほとんど同じ事を考えていた。
「新井さんはどんな服が好きなの?」
美和が聞くと、
「私は…どんなの着たらいいか分からなくて、無難なのばっかり」
「わかるー!」
「でも藤枝さんのワンピース、可愛いの着てるじゃない」
「これ?これはアヤナちゃんが選んでくれたんだ」
「アヤナさんが?…センス良いのね」
「アヤナちゃんはオシャレだから…新井さんもアヤナちゃんに選んでもらってみれば?」
「そうねぇ…」
「私でよければ選ぶよっ!新井さんに似合う服、ここにいっぱいあるよ」
アヤナは自信満々に言った。
そこで美和と新井の二人は、アヤナについて行く事にした。
「新井さんはねー、ハッキリした色も似合うと思う。」
アヤナが持ってきたのは、パキッとした色のサマーニットだ。
「こういうの、着た事ないわ」
「じゃあ着てみようよ!」
それからも散々服を試着し、やっと新井さんのお眼鏡に見合う服が見つかった。
「これなら、うん、チャレンジしやすいかも」
新井が選んだのは、黒のフレンチスリーブトップスだった。
「これならボトムスは何でも合うよ」
アヤナのお墨付きだ。
会計を済ませ、109を後にした時だった。
新井さんの顔色が悪いのに、美和は気付いた。
「新井さん、大丈夫?」
「どうしたの?具合悪い?」
アヤナも気付いて駆け寄った。
「ごめん、人酔いしたみたい」
「大丈夫?渋谷人多いから、渋谷から離れて休もっか」
「でも…せっかく三人で来たのに…」
「何言ってるの、またいつでも来れるじゃない」
「そうだよ、無理しないで」
「……ありがとう」
三人は渋谷の喧騒から離れたカフェで休む事にした。
冷たい飲み物をのんで、少しスッキリした様子の新井が言った。
「二人は優しいんだね」
「え、普通じゃない?」
「具合の悪い人がいたら普通に休ませるでしょ?」
アヤナと美和は声を合わせた。
「…今回の事だけじゃなくて。二人は犯人の事、私に一切聞かないじゃない」
「あぁ、その事か…」
美和はハッキリと答えた。
「私は無理して聞く気もないし、犯人の事と、新井さんと仲良くしたい事とは別だから」
アヤナは少し考えてから答えを出した。
「正直言って、私が新井さんと仲良くしたのは、美和ちんが仲良くしたがってたからだった。あとは、新井さんが犯人じゃないと確かめる為。でも今は違うよ。新井さんの事を知ってく内に、今は心から仲良くなりたいって思ってる」
「ありがとう」
新井は照れたように俯いた後、顔を上げて言った。
「犯人の事、言えなくてごめん。でもこれは犯人と約束した事なの。誰にも言わない代わりに、嫌がらせをやめるって。」
「そんな約束してたんだ…でも、それならそれでいいよ。さっきも言ったけど、犯人の事と新井さんは関係ないもん」
と、美和は言った。
「うん、ごめん…」
新井はまた俯いてしまった。
「私こそ、私の為に悩ませてごめん」
美和は謝った。
「謝らないでよ、私が悪いんだから」
「ううん、そもそもは私が嫌がらせ受けた事から始まったから…」
「違うわよ、私が犯人と変な約束なんかしちゃったから」
二人が言い合っていると、アヤナが突然大きな声で言った。
「ちーがーう!!二人とも、それは違うよ!そもそも、悪いのは嫌がらせなんてする犯人じゃん!!なのに二人がそんな事で悩むなんて!それこそ犯人の思う壺だよ!」
「そ、そうだよね」
美和と新井、二人は驚きながら同意した。
「…うん、私、もう犯人の事は考えない。今は新井さんのお陰です嫌がらせも止んだし、考えても仕方ない。だから、新井さんも忘れよう?」
美和は決意したように言った。
「…分かったわ。もう私も考えないようにする」
新井も顔を上げて言った。
「エヘヘっアヤナ、良い事言ったね」
アヤナが得意げに言った。
「そうね」
新井が素直に認めたので、アヤナは驚いた。
「びっかりした!新井さんが褒めてくれた!」
「何で驚くのよ。私、結構素直に人を褒めるタイプよ?」
「そうなんだ……新井さんって暇な時何してるの?」
アヤナが聞いた。
「私?私は、お笑い動画見てる事が多いわね」
「お笑い!?めちゃくちゃ意外なんだけど。あ、でも例えが秀逸だったか」
「私なんて秀逸でも何でもないわよ。お笑いの人達に失礼よ」
「ガチ勢だ!」
アヤナと新井が戯れあってるのを見て、美和は笑った。
そして、今日三人で出かけて良かったと心から思った。
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