第43話

ーそして日曜日



「美和ちん、おっはよーぉ」

待ち合わせ場所には、アヤナが立っていた。

Tシャツにショートパンツという格好は、スラッとした長い足を持つアヤナによく似合っていた。

「おはようアヤナちゃん」

「今日はお付き合いありがとう」

「何か見たい映画があるんでしょ?」

「そーなの!アニメなんだけど、初めての人も楽しめると思う」

「アヤナちゃんがアニメ好きなんて意外だった」

「えへへー。でしょ?美和ちんにもハマるといいな」

二人で映画館に向かう道中、何人もの人がアヤナを振り返って見ていた。

アヤナはそれに気づく事無く、一生懸命美和にアニメの話をしてくれていた。

美和はこんなに可愛いくてスタイル良い子が自分の友達だなんて…と、改めて不思議な気分になっていた。

美和は誇らしいような照れくさいような、くすぐったいような気持ちになった。


その時、美和はまた視線を感じた。

その感じた事のある視線に、美和は振り返った。


「?美和ちん、どうしたの?」

「なんか、知って人に見られてる気がして…でも気のせいだったみたい」

「そういう気のせいってあるよね」

アヤナちゃんの場合は沢山の人が実際に見てるから、気のせいとはちょっと違う気がする…

そう思いつつ、美和は「うん」と短い返事をした。


映画館に着いてチケットを発行したり、ポップコーンに並んだり、ポスターの前に立つアヤナを撮影してあげたりしている間に、あっという間に上映時間になった。


「楽しみぃー」

アヤナは上機嫌だ。


美和は久しぶりの映画館にドキドキしていた。

映画館なんて何年ぶりだろう…

映画館の照明が暗くなって、美和はスクリーンに没頭する事にした。




映画の内容は、一言で言って最高だった。


横に居るアヤナはエンドロールが終わっても涙が止まらず、涙をおさえているティッシュがすぐにびしょびしょになる程だった。


「初めて見たけどすっごく良かった!」

美和が言うと、アヤナはパァッと顔が輝いた。

「でしょ!?よかったー!そう言ってもらえて!」

「アニメでこんな感動したの初めてかも」

「うんうん!このシリーズはいつも泣けるんだよ」

「シリーズあるんだ、見てみたいな」

「じゃあ今度うちに来て!Blu-rayあるから一緒に見ようよ」

「見てみたーい!」

二人でキャッキャはしゃぎながら、映画館を後にした。


お腹が空いたので、アヤナの好きだと言うカフェに入った。


「おしゃれなカフェだね、こういう所知ってるのすごいな」

「実はカフェ巡りも好きなんだー、美和ちんとも一緒に巡りたいな」

「是非。私もおしゃれなお店沢山知りたいな」

「デートにも使えるしね」

アヤナはニヤリと笑った。

「そ、そういうつもりじゃ…」

美和は顔を赤くした。

「うそうそ。もー、美和ちん可愛いなぁ」

「からかわないでー」


さっき視線を感じた事などすっかり忘れ、二人はおしゃべりに夢中だ。

この視線が、新たな波乱を呼ぶとは知らずに…


「この後どうしよっか?」

美和が聞くと、

「洋服見たい!新しい洋服欲しいんだ、付き合ってくれる?」

「いいよ、もちろん」


アヤナは、美和が入った事も無いような商業施設に入って行った。

初めてのお店ばかりで、美和はついて行くので精一杯だ。


「すごい、ギャルがいっぱいだ…」

美和は口を開けたままキョロキョロと周りを見回した。

「緊張しないで、ただの洋服屋さんだよ」

アヤナは美和を気遣った。


同じギャルというくくりでも、様々なジャンルの服屋さんがある事を美和は知った。

露出が激しい服、レースやリボンを使った可愛い服、HIPHOPミュージシャンが着てそうな服まで、多種多様だ。


「あ!見て!美和ちんに似合いそう!」

アヤナは白いノースリーブワンピースを指差した。

「可愛い…」

「でしょ?試着してみない?」

「えっいいよいいよ、私は。こんな可愛いの似合わない」

「えー!絶対似合うよー!これ着たら篠倉君も惚れ直すよぉ」

その後もアヤナに煽られ、のせられて、なんと試着する運びになった。


狭い試着室で着替えて、全身鏡で自分を見ると、似合っているのか似合っていないのか分からない。

ただ、ひどく場違いな気がした。


「美和ちん、どう?着替えられた?」

カーテンの向こうから、アヤナの声がする。

美和はカーテンを恐々開けて、アヤナにワンピース姿を披露した。


「すっごい!めっちゃ似合うー!うん、可愛い!」

想像以上に喜んでくれた美和のテンションに、美和は先程場違いだと思ってしまった事が、逆に恥ずかしくなった。

そうだ、自分で自分を肯定してあげなくてどうするんだ。

「スタイルも良いからお似合いですよ」

横から店員さんがにこやかに話しかけて来た。

もう一度鏡を見ると、さっきよりも似合ってる気がした。

こういう冒険もアリかもしれない。


「これ、買います」

美和はまさに清水の舞台から飛び降りる程の勇気を出して言った。



「美和ちんがお気に入り見つけられて、なんか私まで嬉しいな!」

アヤナは満面の笑みで言った。

あぁ、この子は人の事を自分の事のように喜べる子なんだなぁ…。


「アヤナちゃんは買わなくていいの?」

「実は狙ってたのがあったんだけど、さっき見たら売り切れだったの」

「そっかー、悲しいね」

「うん、すごいショック。でもいいんだー、美和ちんと買い物できたから」

アヤナはすこぶる嬉しそうだ。つられて美和も笑顔になった。


「ねねね、プリクラ撮ろう!」


二人はその後、笑いながらプリクラを撮り、またカフェに行ってお喋りした。

アヤナとは、全然話が尽きる事が無い。


夜8時ごろ、二人は惜しみながら別れた。


「またLINEするねー!」

アヤナは最後まで笑顔だった。



なんだろう、直接励まされたわけじゃないのに、背中を押された気分…

もっと私も頑張らなくちゃ。うん、明日からもっと色々頑張ろう。


美和は決意を胸に秘めた。

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