第27話

〝学校で噂されませんように〟そう願いながら学校に向かったが、クラスメイトの連中はそう簡単に忘れてはくれないらしい。

美和が教室に着いた途端、ヒソヒソ声でコチラをチラチラ見ながら話すグループ、直接的に揶揄ってくる男子まで居た。美和はウンザリして適当にあしらった。

無理もない。今までクラスで浮いていて独りぼっちだった者同士がまさかの付き合ってる疑惑なのだ。

「陰キャカップルじゃん」と、わざわざ聞こえるように言ってくるクラスメイトも居る始末。

先に来ていた篠倉君も、大体同じ目に遭ったらしいのが、顔を見てすぐに分かった。


〝藤枝さんて何考えてるか分からないよね〟よく言われるセリフだが、今こそ同じセリフを返したい。

よく知らない人の噂話をよってたかってして、何が楽しいのか。


その時、担任の村松先生が教室に入ってきて、クラスの皆んなは散り散りに自分の席へと戻って行った。

「はい、おはよーございます!今日は進路希望のプリントを配るぞー。これを元に今度の個人面談で話すから、真面目に書けよ」


進路希望…以前なら入れそうな大学名を適当に書いていた所だが、今は違う。






「私、美大に行く!」

「は、はい!」

篠倉は美和の大きな声に驚いた様子で返事をした。あまりに驚きすぎて、お弁当を落とす所だった。

「でもそれ、この間も言ってましたよね」

「覚えてくれてた?でも新たに宣言したい気分だったの」

「今日進路希望の手紙が配られたからですか?」

「うん、それもある」

「僕も虫に関する研究をしている大学を選ぼうと思います」

「うん、お互い頑張ろう」

美和は清々しい気分で返事をした。

夏の風が頬を掠めた。

「今日は裏庭にして正解でしたね」

「うん、丁度日陰になってて暑すぎなくて気持ちいいね」

「はい」

二人は心地の良い昼休みを過ごした。

教室に戻る帰り道で、篠倉がこんな事を言った。

「予備校を見に行こうと思うんです」

その一言で、今日の帰りは学校の最寄り駅に二人で行く事になった。



待ち合わせは駅にした。最寄りの駅まではバスに乗らなくてはならないが、時間を見てこれも別れて乗った。

これ以上噂が長引いては困るからだ。と言っても、学校の最寄駅なので見られる可能性もあるにはあるのだが…

付き合ってないのになぁ…美和は切ない思いで心の中で呟いた。


「篠倉君、お待たせ」

美和が篠倉を見つけて駆け寄ると、

「全然待ってないです」

篠倉が微笑んだ。


「どこの予備校に行くか、大体目星付いてるの?」

「はい、本命は自分の家の最寄駅なんですが、こっちの予備校も見ておきたくって」

「そうだね。たくさん見た方がいいよね。」

「すみません、付き合ってもらっちゃって」

「ううん、私も予備校行こうと思ってるから、参考になるよ」


二人は話しながら、篠倉が目星をつけていた予備校に向かった。

そこで15分ほど話を聞き、パンフレットを貰って出てきた。

「もう用事済んじゃったね」

「せっかくだからブラブラしませんか?」

「いいね。私、この辺歩いた事無かったの」

「僕もです」


二人で歩いていると、小さなゲームセンターを見つけた。

「ちょっと入ってみようよ」

美和の提案で、二人でゲームセンターに入った。

中はゲームの音が爆音で響いていて、鼓膜に響くようだった。

「あそこにプリクラあるよ!」

「プリクラってあのプリクラですか?」

「うん!行ってみよう」

美和は喜び勇んで駆け出した。


美和の後に着いていくと、女の子がポーズを決めた大きな写真で囲まれた機械が置いてあった。

「これがプリクラですか」

「篠倉君、撮った事無いの?」

「無いです無いです!」

「じゃ、撮ろうよ」

「えー!なんか恥ずかしいです!」

「大丈夫大丈夫!」

二人はお金を入れて、プリクラの機械が指示するままにポーズを取った。

「篠倉君、笑ってー」

「無理です無理です!恥ずかしいです!」

お陰で篠倉の写真は真顔でピースをするという、なんとも奇妙な写真となった。

それを見て、美和は大笑いした。

「すみません…うまく撮れなくて」

「これはこれで面白いからオッケー」

美和は笑いすぎて出てきた涙を拭いた。

こんなに笑ったのはいつぶりだろう。そうだ、

「いつだったか、篠倉君の描いた絵を見た時も大笑いしたっけな」

「そんな事もありましたね」

篠倉君はいつも私を笑顔にしてくれる。


「ね、お腹空かない?」

美和が言った。


ゲームセンターを出て、二人で近くのファストフード店に入った。

美和はメロンソーダとポテトを、篠倉はハンバーガーセットを頼んだ。

「美和さん、それだけですか?」

「うん、コレで充分だよ」

「最近、お昼も購買で買ったパンばかりですし、ちゃんと食べてますか?」

話しながら、二人は窓際の席に座った。

「朝、自分で作る時間無くて…でも朝ご飯と夕飯はお兄ちゃんが作ってくれてるから大丈夫だよ」

「お兄さん、料理上手なんですね」

「お兄ちゃんは何でもできるの」

美和はポテトを一つ取って口に運ぼうとして気付いた。

「学校で食べる時はなんとも思わないけど、外でこうして二人で食べるのは恥ずかしいな」

美和は下を向いてポテトを食べた。

「そうですか?そう言われてみれば、そんな気もしてきました」

そう言うと篠倉も俯いた。照れているのだろう。


「………」

「………」



「…無言はやめよう。せっかくだから会話しながら食べよう」

美和が言うまで、暫く二人して無言だった。

「そ、そうですよね。せっかく二人で外で食べてるんですから」











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