天使の落し物
この世は、なんとも生きづらい。それもそうだ。
ごく当たり前のことだ。だって、生きづらくなければ、修行にならない。
輪廻転生。
僕らは何十回、何百回と転生を繰り返し、魂を磨く修行をしているんだそうだ。
そうして1000回の生まれ変わりを果たした人間の魂は、天に還り、天使の器となる。
天使となった魂は、地獄を生きる現世の人々の魂磨きの修行を手助けするという。
そんな長い過程を終了し、エリート・天使になった僕、ソラ。
今日は、僕が人生の手助けをする女の子に、初めて会う予定!どんな子なんだろう。楽しみだなあ〜。
学校の休み時間、教室の隅の席で静かに本を読んでいる女子生徒。彼女はアキ。中学3年生だ。
教室の真ん中で、下ネタを叫ぶ男子。後ろの方では女子たちが固まって恋バナをしている。
そんな教室を眺め、アキはため息を吐く。
「はあ…。ほんとに、みんな子供だ。」
気を取り直して読書を続けるアキ。
しばらくそうしていると、休み時間終わりのチャイムがなり、授業が始まった。
「先週の期末テストを返すぞー。」
社会の先生がテストを順々に返していく。
テストの結果を見て一喜一憂する生徒たち。そんな生徒の中で唯一、淡々とテストを回収するアキ。
テストを返し終えた先生は、黒板に平均点と最高点を書いた。
平均点、54点。最高点、98点。
アキの隣に座っている男子生徒が、アキのテストを盗み見る。点数欄に書いてあるのは、最高点と同じ98点の文字。
「うわ、まじかよ。今回もアキがトップだってよ〜。」
男子生徒の声でざわつき始める、クラス内。
それを横目に、アキは深いため息をつくのだった。
社会の授業を終え、昼休みになった。
アキは弁当とテスト用紙を持って、チャイムの音と同時に、逃げるように教室を後にする。
そのまま屋上へと急いだ。
屋上の鍵は開いている。
老朽化して、キーッと嫌な音を立てながら、屋上への扉を開いた。誰もいない。アキの特等席のような場所。
屋上から、フェンス越しに校庭を眺める。
そして、先程返却された社会のテスト用紙を眺めた。テスト範囲は日本史。
「…こんなの、知ってて当然でしょ。」
そう言って、用紙をグチャグチャに丸め、乱暴にポケットに押し込んだ。
その時だった。
「あ!君、幸せじゃないって顔してる!」
突如、頭上からそんな声が響き、驚いて上を見上げると、白い翼が生えた少女が青空に浮いていた。
「なにこれ…。」
「え?僕が、見えるの?」
2人がお互い驚きで目を丸くさせていると、翼を生やした少女のお腹がぐぅ…と鳴り出した。
「あ…。」
「……弁当、食べる?」
「…いいの?」
そうして現在、屋上のベンチに腰掛け、翼が生えた少女がアキの弁当を貪り食っている。
「いやあ、まさか、僕の姿が見えてるなんて…。そんな人間はじめてだよ〜。」
「それで…あんた、何者?」
「うーん…天使?かな?」
「ああ、見た感じそのままって感じ…。天使?」
「そう。ご馳走様でした!
あのね僕、君を導くためにここまで来たんだ!」
「…は?」
「ごめんね、急で〜。
話すと長くなっちゃうんだけど…。いやさ、普通は、僕らの姿は見えないから、知らないままでよかったんだけどね!君が見えちゃうもんだから!いや、まさか…本当に僕のことが見える人間がいるなんて思わな…」
「早く話してくれる?」
「ああ、ごめんごめん!
君たちは、死んだら天国か地獄に行くもんだと思ってるよね…?」
「うん、まあ…。私は信じてないけど。」
「ふっふっふ…。だよね!
でも実は地獄はこの世そのものでした!って言ったら、ビックリする?」
「え?」
「この世は本当に生きづらい。だって、この世界は魂を磨くためのステージに過ぎないのだから。」
「何を言ってるの?」
「君たちが暮らしているこの世界が、地獄。と、僕らは呼んでる。
この地獄で1000回生まれ変わりを果たし、魂を磨ききった者たちが、天国に上る。
そして、天使になる。僕みたいにね!」
「はあ…。」
「天使の仕事は、君みたいな、魂の試練を受けている迷える子羊を導くこと。
つまり、君のこの人生での課題をクリアするために、僕がお手伝いをするってこと!
普通の人は、僕らを視認できないから、最後まで魂の試練とか、知らない。普通に人生を送っているだけだと思ってる。
でも実は、そういうことなんだよね〜。」
「で、試練ってなによ?」
「君の価値観で、1番幸せだと思う未来に、少しでも近づくことかな!
お金持ちになることが成功とも言えないし、結婚したからって幸せになるわけじゃない。そうでしょ?君が選んだ選択が、君の試練に知らず知らずのうちに直結している。って言えば…伝わるかな?
僕は君が間違えた選択をしないように、傍で見守るって感じ!」
「それ、いる意味あるの?」
「あるに決まってるだろ!?大事な役割なの!」
「あっそ…。」
「で?で? 君の幸せは何? どんなことをしたいとか、叶えたいことは無いの?」
「ちょっと、急すぎ…。いきなりそんなこと言われても…。」
その時に響くチャイムの音。
「あ、もう行かなきゃ。弁当、全部食べちゃってねー。」
「あ、ちょっと!まだ話は終わってないよ!」
「授業優先。」
そんなこんなで、謎の天使との会話は中断してしまった。
授業が終わって放課後、帰宅中のアキの周りを飛び回る天使の姿があった。
「ねえ、なんか叶えて欲しいことないの〜?何をしたら幸せなんだよ〜。」
「うるさい!」
そんな会話をしばらく続け、人気のない、河原まで来たところで、アキの足が止まった。
アキは川の流れを目で追いながら、小さく呟く。
「でも、輪廻転生は、信じるよ…。」
「え?」
「私、覚えてるの。多分、前世かもしれない思い出。」
夕焼けの中、河川敷に座り込み、話を続ける。
「小学生の頃に、私のものじゃない記憶が頭の中から溢れ出てきて…。
でもそれは鮮明で、実際に体験したことの様だった。
前世の私には親友がいて、でもその子は高校生の時にトラックに轢かれそうになった私を助けて、代わりに轢かれて死んじゃった…。
大人になった後の記憶もあるけど、高校時代までのその子との思い出がずっと忘れられないんだ。」
「なぁるほど…。」
「あの子に会いたい。もう一度…。
あの時はごめんね、ありがとう。って言いたい。
もっと一緒に居たかったって、毎日楽しかったよって伝えたい。
ずっとそう思って生きてきた。
でも、輪廻転生してるなら、彼女もきっと、この地獄にいるはずでしょ?」
「それが、君の幸せってこと?」
「…うん。」
「おっけい!任せて!天使の僕が、すぐに見つけてきてあげるよ!!」
そうして二人は、アキの記憶を辿りに、アキの前世の親友探しを始めた。
と言っても、世界は広い。
「天国天使サポートセンターに問い合わせてみたけど、返事が届くまで20年かかるらしい…。んもう!どんだけかかるんだよ!
『さすがにその情報だけだと特定には時間がかかってしまいます。』って、かかりすぎだろ!」
「…やっぱり、そう簡単に見つからないよね。」
「い、いいや!絶対見つける! 前世の出身地とか、覚えてない?」
「…記憶が、曖昧だから……。でも、日本だったのは確か。」
「そっか~…。」
二週間と、何も収穫の無い日々が続いた。
そうこうしている間に、アキの中学校は一学期を終業し、アキは夏休みに入った。
アキは毎年夏休み、一か月間、祖母の田舎へ泊りに行く。今年も例外ではなかった。
「それじゃあ、おばあちゃんによろしくね。」
「うん。」
母に見送られ、新幹線に乗り込む。いつもの夏休みと違うのは、天使とかいうよく分からない生き物がいるということだけだ。それが一番の問題なのだが。
「う~ん、駅弁美味しい~。」
「何で私よりエンジョイしてるんだよ。」
「えへへ、だって、お腹すいてるんだもん!」
「本当にこいつが、1000回の生まれ変わりをした魂なのか…?」
「美味し~」
「はあ…。」
新幹線で二時間、その後、ローカル列車に揺られて40分。
海と山と田んぼに囲まれた、アキの祖母の家までやって来た。
「空気が美味しい~!」
「ほんと呑気だね。」
そんな会話をしながら田んぼ道を歩いていると、向かい側から、白いワンピースを着た少女が走ってやって来た。
「アキちゃん!」
「え、誰!?」
「ゆきのちゃん。」
ゆきのちゃんと呼ばれた少女は、透明感のある長い黒髪を夏風になびかせながら、優しく微笑む。白いロングワンピースに、麦わら帽子がよく似合っている。
こんな田舎に似つかわしくない、肌の白い儚げな雰囲気を醸し出している。
「久しぶりだね、アキちゃん。」
「久しぶり。」
「おばあちゃんの所まで一緒に行こう。」
「うん。」
そう言って、ゆきのが来た道を一緒に歩いて帰る三人。
アキとゆきのは、一年越しの会話を楽しんだ。
「アキちゃん、受験どうするー?」
「まだ特に受けたいところ決まってないんだよね。近いとこでいいや。」
「私も高校は、東京の方に行こうかな…とか。そしたら、夏の間だけじゃなくても、私たち会えるでしょ?」
「いや無理でしょ。1人暮らしでしょ? ゆきのママ絶対反対する。」
「…そうだよね。 はあ、もっと家が近かったらよかったのに。」
「まあでも、たまにだから、ずっと仲良しでいられるのかもよ?」
「……そうだね。」
そんな会話をしていると、あっという間に祖母の家に到着した。
一年振りの祖母も、アキのことを温かく迎え入れてくれた。アキとゆきのは、その日の祖母の夕飯を一緒に食べた。その後、少し談笑した後、ゆきのは自宅へ帰って行った。
アキはその後も祖母の手伝いやら何やらして、自室に戻って布団の上に寝転がった。
祖母の家独特の、優しいような、フワフワしたような匂いがする。
今日一日の疲れを癒していると、天使が声をかけてきた。
「ねえねえ、さっきご飯作ってくれたのが、おばあちゃんでしょ?
え、じゃあさ、あの、ゆきのって子は、何者??」
「ああ、私のいとこ。こっちに住んでるの。」
「ああ、なるほどお。」
「そ、だから私がこっちに来た時しか会えないんだ。」
「そうなのかあ。」
「聞いといて興味なさそうなのなんなの?」
「ごめんごめん、怒らないで~!
とにかく、明日からもアキの親友探し、頑張るぞ!!」
「う、うん。」
次の日からまた、親友探しが始まった。
「日本のどんな場所だったかとか、本当に覚えてないの〜?」
「え、うーん…。」
「というか、何時代だったの!?江戸時代??」
「現代だったよ!」
「だったら思い出せるでしょ!」
「うーん…当時遊んでたのは、何となく、覚えてるかも…。」
「お!ほんと!」
「うん。よく、ゲーム機とか持って遊びに行ってたの。」
「うんうん。」
「2人で通信して同じゲームで遊んだり…。
あとは、ゲームじゃないけど…。アクセサリー作ったりとか、してたかな…。
あ、あとこれ…!参考になるか分からないけど…。」
「しおり?」
「うん。私が前世の記憶を思い出したのが、この栞を見てからなの。
古本屋で買った本に着いてきて…。」
「なるほどなるほど!…それだけ?」
「あと、場所が特定できるか分からないけど…私と親友は同じ団地に住んでたの。多分…。公園も近くにあった!」
「何県とかは…。」
「分からない…。」
「うあああああ。」
「ぜんっぜん役に立たない記憶だね!」
「失礼な!」
1週間経ってもそんな調子で、アキの記憶を辿っても、なかなか親友に結びつかなかった。
しかし、ある時、2人に転機が訪れる。
1週間ぶりに、ゆきのがアキの元を訪れた。
「アキちゃん、久し…ぶり?」
「1週間ぶりだね?」
「うん、夏期講習とか、色々あって…。」
縁側に腰掛け、風鈴の音を聞きながら、スイカを食べるアキとゆきの。
他愛もない話をしては、沈黙。話しては沈黙。というような気まずい時間がしばらく続いたあと、ゆきのが急に声を大きくして話し始めた。
「あ、あのね!!」
「え!…なに?」
「アキちゃん、私、思い出したの。」
「…なにが?」
「アキちゃんと私、遠い昔に、会ったことがあったんだよね。」
「え?」
「私たちが生まれる前、前世で…。
私たち、親友だった。ずっと、一緒に遊んでたよね。」
「え、まさか…。本当に…?」
「私も思い出したばかりで、よく分からないけど…。
でも、前世で関わりのあった人が、現世でも近しい間柄になるって、言うでしょ?」
「た、確かに…。そうなの?
え、本当に…? あなたが、私の、前世の…。」
「うん、はっきり、アキちゃんが前世の親友って、分かるよ。もっと早く気づけばよかったな…。」
「ゆきのちゃん!!」
アキは力いっぱい、ゆきのを抱きしめた。
涙が溢れてくる。
「あなたに、伝えたいことがあるの。
今までも、いつも、ありがとう。ずっとそばに居てくれて…。
私がトラックに近づいたからあなたは…。もっと一緒にいたかったのに…。
馬鹿な私のせいで、本当にごめん…。ごめんね…。」
「……泣かないで。またこうやって会えたんだから。」
そんな2人を部屋の端から見つめる、天使。
「よかった。これで、アキは幸せになれた…!
これで、僕は…!!…あれ? 嘘…。」
夕方、ゆきのを送り届けたアキは、嬉しそうに帰ってきた。
アキはそのまま、天使の元へ走った。
「ねえ!会えた!前世の親友!!すぐ近くにいたの!ゆきのちゃんだった!!」
「……。」
「…どうしたの?いつもみたいな元気ないじゃん。」
「アキ。ゆきのは、アキの前世の親友じゃないかもしれない。」
「え…?」
「アキ、僕はね、アキが幸せになれたのかどうか、確認することが出来る。
アキの願いが叶ったなら、幸せになれてるはず。でも、それがない。」
「え、そうなの…?でも、ゆきのちゃんは、私たち前世の記憶を持ってたよ?」
「そう、だけどそれは何かの間違いで…。」
「そんなこと有り得るの?違う人の前世の記憶が分かるとか…。」
「でも!天国のシステムにエラーとかはないはずだよ!ゆきのは、アキの親友じゃない。」
「…親友かどうかは、私が決めることでしょ。
天国のシステムって何? そんなので私たちの魂が測れるの?」
「で、でも!本当なんだって!このままだと、アキは不幸になるかもしれない。そしたら僕は、今度こそ…!」
「今度こそ、なに?」
「あ…。えっと…。」
「言ってよ。今度こそ、なに?」
「…天使には、灯りと呼ばれるポイントがある。
1000回転生し終わった時点で、1000個。
そこから天使の成績しだいで増えたり減ったりする。
地獄の担当者を幸せにできれば、幸せにした数だけ灯りが増えて、逆に不幸にすれば減る。
この灯りが全て無くなれば、僕の魂は0からやり直し。と言われた。
今までの1000回も、天使としてしてきたことも、全部なかったことになるんだって。
でも前例がないから、まずそんなことにはならないだろうって言われた…。
けど僕の灯りは残り1つだ。もう後がない。
僕は今まで、たくさんの人を不幸にしてきた。幸せにしてあげたかったけど、無理だった。
だから僕は…、君を幸せに…。」
「それってつまりさ、自分が消えたくないから、何とかして私を幸せにしなきゃいけないってことでしょ?」
「え…?」
「結局は自分第一なんじゃん。1000回生まれ変わりをしても、そんな保身でしか行動できないような人にしかならなかったんだね。」
「違う、僕はアキに…」
「私は、今のままで幸せだから。ありがとね。
私、おばあちゃんのご飯の手伝いしないと…。」
「アキ!話を聞いて!」
足早に部屋を後にするアキ。追いかけたくても追いかけようという気になれなくて、天使はその場に膝をつく。
その時、アキの布団、枕元の横にあるアキの本に目がいった。その本を手に取り、パラパラとページをめくると、あの時アキが言っていた、ボロボロになった栞があった。
それを優しく手に取る。その瞬間、走馬灯のような記憶の山が天使の脳を駆け巡った。
この栞を、覚えてる。いや、思い出した。
この栞は、前世で親友が、自分に贈ってくれたものだ。
手作りで、押し花をして作ったんだ。って、照れくさそうに笑いながら、親友が手渡してくれた。
2人で沢山遊んだ。お互いゲーム機を持ち寄って通信して遊んだり、アクセサリーを作ったりもした。
同じ団地に住んでて、高校生のころ、2人で下校してた時、親友がトラックに轢かれそうになったところを、庇って、自分が代わりに轢かれた。そこまで覚えている。
「アキの親友って、もしかして…僕?」
でも今更、何て言えばいいんだ。
自分が本当の親友なんだって、どうやって伝えろというんだ。信じてもらえるわけがない。
アキは、前世の親友をゆきのだと思い込んでる。
信じてる。自分の入る隙間なんか残ってない。
天使は項垂れた。
それから天使は、アキの前から姿を消した。
アキは天使のことは気にしないようにし、ゆきのとの時間を過ごして、絆を深めた。
アキとゆきのの距離は今まで以上に縮まり…。
そして、アキが自宅に帰る日がやってきた。
1時間に1本来るか来ないか…という田舎駅に立つ、アキ。その横にはゆきのがいた。
「ありがとう、見送りに来てくれて。」
「当たり前でしょ?親友だもん。」
「そろそろ電車が来ちゃう…。」
「…今度は、私がそっちに行くね。」
「うん。」
「……あのね、私ね。」
「何?」
「私、アキが…」
そう、ゆきのが言いかけた時、2人の間を切り裂くように、キジバトが飛んできた。
キジバトはアキの頭の真上を通り抜けていく。
その結果、後ずさりしたアキは、点字ブロックに躓き、線路に落ちてしまった。
「うわっ!」
「アキちゃん!大丈夫!?」
「うん…あ…。」
立ち上がろうとしたアキの目の前には、こちらに向かってくる電車が。
轢かれる。怖くて、腰が抜けて動けないアキを誰かが押し退けた。
「え!何!?」
そう叫ぶのと同時に、鈍い音が響き渡る。
しかし特別何かが起こることも無く、車掌が
「何だ?」
と出てきて確認しても、何かを轢いたという感じはしなかった。確かに、音はしたのに。
アキとゆきのが驚いている間に、電車は発車してしまった。
電車がいなくなったあと、アキにだけは見えた。線路に横たわっている天使の姿が。
「え…。嘘…。ねえ!何で!?」
天使に駆け寄るアキ。
「アキに死なれたら、仕事がなくなっちゃうからね。」
「私…あなたに酷いこと言ったのに…。」
「いいよ、そんなこと。」
「……ねえ、もしかして、ソラ……?」
「え…?」
「あなたが、私の、前世の親友…? ソラ、なの…?」
「……あの栞、君が僕にくれたものだったよね。」
「……そうだった…。あなたは私を、2回も助けてくれたんだね…。ごめんなさい、ありがとう、ありがとう。」
ゆきのはいつの間にか、駅から姿を消していた。
1人先に帰っていたのだ。田んぼ道を、歩きながら饒舌につぶやく。
「バレた…?私が嘘をついてたこと。
せっかくアキちゃんと、距離が近づいて来たと思ったのに…!
誰に向かって話してたのよ…線路に落ちて、おかしくなっちゃったの…!!
このまま嘘がバレたらどうしよう!私は、アキちゃんと仲良くなりたいだけなのに…!」
しかし、その足が止まって、俯いたまま動かなくなった。
「私……何やってるんだろう…。
こんな嘘までついて、アキちゃんとお近付きになろうなんて…。
アキちゃんが私に冷たいの、何となく分かってたし…嘘で繋ぎ止めても、意味ないって分かってるはずなのに…。
………やめよう、もう…。」
それから、半年、1年、10年、50年と経ち、やがてアキの人生が終わる時がやってきた。
隣にはずっと、天使のソラがいた。
あの時電車に轢かれた?いつから天使が電車に轢かれて死ぬと、錯覚していたんだ!
あの後普通にピンピンと生きていたソラは、その後もアキの人生が終わるまで、彼女を幸せにするために、奮闘してきた。
そうしていくうちに、ソラの残り1つだった灯りは、アキが幸せを感じるごとに増えて行った。
いつしかソラは崖っぷちの天使から、脱却していた。
そしてアキが死ぬ間際、2人は約束した。
「今度は私が1000回生まれ変わって、天使になる。そしたら、天国でまた会おう。それまで待っててね。」
「うん、アキ。また会おう!」
そしてアキは寿命を全うして、幸せな人生を終えたのだった。
全然意味のない話集 小山 夢生(こやま ゆな) @koyama_yuna
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