ブルーアイズ

Eternal-Heart

「教室で恋に落ちた瞬間まで」「チョーク」

 タイヤの側の路面に、チョークで書き込まれている。

フロントガラスに違反ステッカーを貼ろうとする男に声をかけた。



「仕事で停めていたんだ。見逃してもらえないか」

振り返った眼鏡の奥からは、何の感情も うかがえなかった。


「判断を下すのは行政で、私はその基準に従ってるだけだ」

取り付く島もない男だ。



「60ドルの反則金を振込んで、指定の講習を一週間以内に受けたまえ」

ポケットから出したリーフレットを、俺に突き出した。




 比較的、簡単な仕事だった。

元夫からのストーキング。


「探偵ではなく、警察に依頼すべきではありませんか?」


警察は深刻度の高い事件を優先し、後回しにされてしまうから

探偵の私に依頼したのだと、彼女は言った。



 数日、彼女の家で張り込みをした。

元夫が現れ、不法侵入の現行犯で逮捕した。

彼女には似つかわしくない、小太りの中年男だった。




 クライアントとの関係は、依頼を解決したら、それで終わりだ。

リピーターが付く業種ではない。


 柔らかくウェーブがかったブロンド。

大きく潤んだブルーアイズ。

俺と同年代だが、どこか少女のような可憐さが残る依頼人だった。


 うんざりするような都会で、偶然出会う事など無い。

だから探偵という稼業があるのだ。





 90分の法定講習を、受ける羽目になった。

テーブルの付いたパイプ椅子に座ると、ハイスクールを思い出す。


 予定時間が過ぎた。

指先でペンを回し、ガムを口に放り込む。

さっさと初めてもらいたいものだ。



 講師がドアを開けた。

目が合う。

大きく潤んだブルーアイズ。


 警察に依頼しなかったのは " その内情を知ってる側 “ だったからなのか。


 俺に微笑んだ。

言葉を交わす必要はない。




 テーブルの下で、なじみの中華ヌーベルシノワの予約を取った。

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