第44話 宣戦布告

「先輩、昨日覗いたでしょ」

 図書館で空と海から声をかけられた。何か昨日から偶然が多すぎる。

 一緒に勉強するはずだったはずの萌が、英語の教師に呼ばれたことで、待ち時間ができた、それで図書館にいただけだったのだが。


「違うだろ、絶対に見せつけたよな」

「え、ばれました」

 あたりまえだ、おかげであとで萌にこっぴどく絞られたのだ。もちろんそれについては二人には話さない。何を絞られたかも。


「うれしくなかったですか」

「そりゃあ」

「うれしかったって、やっぱり変態さんだ」

 二人はユニゾンで言った。

 大きな星がプリントされたカッターシャツにから透けて見えるピンクのブラジャー。 今日も二人はお揃いだ。


「胸見てるし」

「私たちのことどう思います?」

「どうって」

「ほら付き合いたいなとか、やってみたいなとか」

 深は思わずむせかけた。


「あ、赤くなってる、かわいい」

「おまえらなぁ」

「あ、怒りました? だって先輩可愛いんだもの」

 可愛い? 何言ってんだこいつら。


「先輩、私たちなんで空手を始めたか知ってますか?」

「知らない、小学生からだよね」

「やっぱり覚えてないんだ」

「先輩、ここに引っ越してくる前に、神戸の方にいませんでした?」

 たしかにそうだ、小五で引っ越してくる前は灘にいた。


「小学生の女の子が、中学生にからかわれているのを助けたことありませんか、道場の帰りに」

 一気に昔のことを思い出した。中学生の男子と闘った覚えがあった、負けはしなかったけれど勝ちもしなかった。けがをしなかっただけ儲けもの、確かそんなことがあった。


「あの二人が」

「私たちです。カッコよくて一緒の道場に入ったら、先輩すぐ引っ越して、寂しかった」

「私たち去年、京都に引っ越してきて、空手部のある高校選んだら、先輩がいてびっくりしちゃった」

 すぐに気が付いたという。


「で、真子から話聞いて」

「真子って真田?」

「ええ、武勇伝と彼女の話と変態さんの話を聞いて、私たちも写真撮ってほしいなあって」


「ふうん、そういうことかあ、なるほどね」

「萌、速かったな」

「残念そうね」

 萌は空と海を見た。

「なるほど、惚れたのは私たちの方が先って言いたいわけね」


「はい、まあそういうことです」

 二人はユニゾンで言う。

「それって宣戦布告なわけ」

「どうとってもらっても」

「いいけど、私と深は」

「セックスしただけですよね、なら私たちだって可能性がないわけじゃないですよね」


「させるわけないでしょ」

「体で負けるのが怖いんですか?」

「はあ、何言ってんの。そんなぺちゃのくせに」

「引き締まってるって言ってもらえますか」


「分かった。受けて立とうじゃない。絶対に深は渡さない」

 おおーという声が周囲から上がった。気が付かなかったが、周りには暇人が集まって聞き耳を立てていた。


「服部モテモテだな」

「早川負けんな」

「負けた方を俺らが引き受けるぞ」

もう無茶苦茶だ。


「あーもう、なんであんたがそんなにもてるの?」

 大騒ぎの図書室から、やっとの想いで抜け出し、駅に向かう途中で萌が切れた。

「腹が立つのは、あんたが声をかけたわけじゃないってことだよね、いつも」

「俺のどこがいいかは萌に聞きたい。大丈夫だって、俺はずっと萌一筋だから。運命もそう言っているじゃない」


「うーんそれはどうなるかはわからんぞ、お前らがどれだけお互いを思うかだな、心配するな、まだまだ二人ともいろいろあるから」

 突然じいちゃんの声がした。

「二人ともってことは、私にも?」

 萌がびっくりしたように言う。


「当たり前だろう、お前もこれからいろんな人に出会うから」

「ちょっと待ってそれって、萌がほかの男と、だめだ、そんなことは許さん」

「それは自分勝手すぎないか」

 じいちゃんと萌が同時に言った。まあいわれりゃその通りだ。深は初めて不安に陥った。


二人の青春は始まったばかりだった。







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ヌードをとりたい。古いカメラに導かれて、写真もあれも ひぐらし なく @higurashinaku

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