山田家の家訓

島丘

山田家の家訓

 その一、鳩を撃ってはいけません

 その二、マヨネーズをシャンプー代わりにしてはいけません

 その三、人を食べてはいけません


 広くて立派な玄関の壁際に、一枚の額縁が飾られている。額縁が囲っているのは偉人の名言でも画家の絵でもなく、山田やまだ家の家訓だった。


「どうぞ、遠慮せずに入って」


 クラスメイトの山田さんが、ニコリと微笑み振り返る。長く艷やかな黒髪を耳にかけて小首をかしげるその姿の、なんとお上品なことか。


 我が校でも随一の人気を誇る山田さんの笑顔に、眼福眼福と喜ぶ愚かな私よ。違うだろう、今はそれどころじゃない。

 すべてスルーして家にあがりたい気持ちを押さえて、私はなんとか尋ねた。


「えっと、山田さん。これ、何かな?」


 人差し指の差す方向に狂気の家訓あり。こういうときのためにつくられたことわざである。

 山田さんは額縁を見ると、顎に手を添えこう言った。


「ふふ、我が家の家訓なの」


 何もわからなかった。


 もたもたしながら靴を脱いでいると、奥から山田さんのお母さまが現れた。白いエプロンがウエディングドレスと見間違えるほどの恐ろしき美貌だ。遺伝子の強さを思い知る。


「あらあら、陽菜ひなさん。お友達?」

「そうよ。昨日言ったでしょう」


 そうだったかしらと頬に手を添え小首をかしげるおばさまは、少女のようだ。


 私はおばさまにも額縁のことを尋ねてみた。目をついっと額縁の方に向けて、こちらに戻りニコリと答える。


「ふふ、我が家の家訓なの」


 遺伝子つよ〜い。


 私は大人しく家にあがった。気味が悪いし恐ろしくもある。

 だがそれ以上の好奇心と、ここで帰るなんてもったいないことをして溜まるか、という強い気持ちが、私を踏みとどまらせたのだった。


 だだっ広い玄関を抜けてチリ一つ見当たらない廊下を歩き、リビングへ。

 目眩がするほど白くて綺麗な部屋だ。奥には広いキッチンスペースがあり、反対側の大きすぎる窓硝子から日に照らされた庭が見渡せる。おいくら万円かも聞きづらいソファ、テーブル、テレビにその他諸々。床は当然のように大理石で、天井は吹き抜け。


 端っこにある階段で二階に上がると、私の部屋のいくつ分かもわからない自室へと案内された。全体的に白で統一されているのに、汚れ一つ見当たらない。汚れが目立つから白いスニーカーも買えない私とは大違いだ。


 部屋に通された私は、ふかふかのクッションにかっちこっちになって座った。

 鞄をどこに置いていいかもわからず膝に抱えていると、正面に座った山田さんが「適当に置いて」と優しく言ってくれた。


「でもあのほんと、鞄汚くて」

「ふふ、気にしないわ、そんなこと。成田なりたさんって面白いのね」


 ふわり、ふわり。それはまるでクッションに詰まった綿のような、いや、たんぽぽの綿毛のような、違うな、換毛期のポメラニアンのような……駄目だ、例えはやめよう。とにかく柔らかな笑顔だった。


 見惚れていると、山田さんは鞄からノートと教科書、ペンケースを取り出した。カチカチ。少し爪が伸びた指先でシャーペンをノックする。


「どこがわからないか教えて?」


 ことの発端は一人きりの補習だった。特進クラスのわかりやすい落ちこぼれ。周りからも馬鹿にされ教師からも見放された私に声をかけてくれたのが、山田さんだ。

 クラスで一番綺麗で優秀な山田陽菜さんは、なんと性格までよかったのだ。


 一人でうんうん悩んでいる私に寄り添い、勉強を教えてくれた。あろうことかその後、一緒に勉強をしましょうと誘ってくれたのだ。

 無理して入った進学校に、友達らしい友達がいなかった私にとっては、まさに青天の霹靂へきれき。夢オチかと疑ったが、LINEの友達欄に並ぶ山田陽菜の文字を見て現実だと実感した。それを四日ほど繰り返して訪れた今日。


 人生のよいことトップ5に入らんばかりの素敵な出来事に、私は浮かれていた。

 浮かれる度に、玄関の不吉な家訓がちらちらと頭を過る。


 山田さんの教え方は凄く丁寧でわかりやすかったし、顔は可愛いし、綺麗だし、あと可愛いし。本来ならば天にも昇る気持ちであるはずが、どうしても素直に喜ぶことができない。


 どうにか家訓のことを聞きたい。けれど人様の家の事情を詳しく聞くのは失礼だ。相反する二つの感情。


 そんなときだ。控えめなノックの音が聞こえてきた。


 山田さんが扉を開けると、トレイにケーキとティーカップを乗せたおばさまが立っていた。湯気の立つお紅茶と、ツヤツヤのチョコレートケーキが机に並べられる。


「チョコレート、苦手じゃないかしら?」

「あ、はい、大丈夫です。よく食べます」


 わけのわからぬ返事にも嫌な顔一つしない。

 これまたツヤツヤなフォークをどのように使えば崩さずに食べられるかと思案していると、おばさまが少し不安げに話し始めた。


「お友達がいるときに申し訳ないんだけどね、陽菜さん。今日、お父さまが帰ってこれないみたいなの」


 頬に手を当て眉を下げ、見るからに困った顔をする。


「そんな、兄さんは?」

陽希はるきさんも急には帰ってこれないって」

「困ったわね。二人だとできないわ」


 二人してううんと首をかしげている。何が何やら。変に聞いてもまずいかと黙っていると、突然山田さんが提案した。


「そうだわ、成田さん。家族会議に参加してくださらない?」

「はい?」


 家族会議?


 持つか持つまいか迷ったフォークは置いたままに温ねると、おばさまも「それはいいわ!」と両手を合わせた。


「成田さん、よろしいかしら?」

「いや、えっ? か、家族会議? だ、駄目でしょうそんな、私家族じゃありませんし」


 至極もっともな意見のはずだ。なのに二人はきょとんとした後、揃ってクスクス笑い始めた。


「うふふ、そうね。説明が足りなかったわ」

「ごめんなさい、成田さん。家族会議といっても、たいしたものじゃないの。ただ三人必要というだけで、成田さんにしてもらわないといけないことはないわ」


 なおさら意味がわからない。だが聞き返すことなどできず、「それならまぁ」などと無責任に答えてしまった。


 後悔とき既に遅し。あれよあれよと時間は過ぎ、気付けば夕方。私は山田家の夕食に招かれていた。ここで家族会議をするらしい。

 おばさまはかなりの料理上手らしい。洒落ていることしかわからない色とりどりの料理が、ズラリと食卓に並んでいた。

 ナイフとフォークを駆使して口に運ぶ。緊張と庶民舌のせいでいまいち味がよくわからない。


「そろそろ会議を始めようかしら」


 食後のコーヒーを提供された直後、ついにおばさまが言った。

 姿勢を正して唾を飲み込む。おばさまは音も立てずコーヒーを一口すすってから、話し始めた。


「そう緊張しないで、成田さん。会議と言っても、これは形式的なものなの」

「そうよ、決まり事を一つ減らすだけなの」

「決まり事?」


 どういう意味だろうか。たずねると、山田さんは立ち上がり、玄関に飾られていた額縁を持ってきた。机の上に乗せられたそれには、例の不気味な三箇条が並んでいる。


「この三つが我が家の家訓、決まり事なの。けれど三つは多いから、そろそろ二つにしようという話になって」

「そう、そうなの。三つは多いわ。成田さんもそう思うでしょう?」

「はい?」


 疑問符をつけた返事は肯定の意と捉えられ、二人は満足そうに微笑んだ。


「よかった。成田さんに頼んで正解だったわ」


 山田さんに両手をとられて、上へ下へと揺らされる。


「あの、すいません。そもそもこれって何なんですか? 鳩とかマヨネーズとか、いろいろよくわからなくて」


 これでも「我が家の家訓なの」と押し切られたら、無理矢理にでも逃げるつもりであった。しかし幸か不幸か、山田さんは私の疑問にきちんと答えてくれた。


「そうね、きちんと説明すべきだわ。けれどどうかこのことは、他言無用にしてほしいの。とても恥ずかしくて、他所様に知られてはいけないことだから」


 私も他所様だが。口を挟む前に、山田さんは話し始める。


「まず、一つ目の家訓。これはね、兄さんが原因なの」


『その一、鳩を撃ってはいけません』


 山田さんの細い指先が、一つ目を指した。


 兄さんとは、先ほど話題に出ていた、陽希という人だろう。山田さんの兄でおばさまの息子となれば、アイドル顔負けの美男子に違いない。


「兄さんは昔、誕生日にいただいたエアガンで、遊び半分に鳩を撃ったことがあるの」

「お恥ずかしい話だわ。もちろん、主人と私できちんと叱りました。陽希も大変反省して、それきり動物をいじめるようなこともなくなりました。けれど私達にはトラウマで、以来、鳩を撃ってはいけないという家訓を定めたんです」


 そうだったのか。いや、確かに物騒な話だが、遊び半分で動物をいじめるというのは、わからない話ではない。もちろんあってはならないことだが、悪ふざけや過ぎた遊びの一つとして、納得できる類いではある。


 もしや私の考えすぎなだけで、他の二つも納得できる理由があるのではないか。そんな風に思えてきた。


「二つ目は、ふふ、この子が原因なの」


『その二、マヨネーズをシャンプー代わりにしてはいけません』


 二つ目の家訓を指差しながら、おばさまが山田さんに目を向ける。山田さんは恥ずかしそうに俯いていた。


「昔の陽菜さんはイタズラっ子だったの。ある日、シャンプーの空のボトルにマヨネーズを入れたことがあってね。それはもう大変だったわ。主人は悲鳴をあげて、私はお風呂場に飛んでいって。陽菜さんったら、ケラケラと笑っていたのよ」


 そんなイタズラ好きだったのか。今の山田さんからは想像もできないことだ。

 本人は「昔のことだわ」と唇を尖らせて、不満そうにこちらを見ている。


「あのね、もちろん今はそんなことしないのよ。成田さんも、信じてちょうだいね」


 顔を赤くして懇願する美少女に、私は一も二もなく頷いた。


 ここまで聞いて、私はなんだか気が抜けていた。やはり考えすぎだったのだ。どれもが理由あってのこと。一度の過ち、一度のイタズラ。そう身構える必要はない。そこまで考えて気が付く。


 一度は、やってしまったこと?


 私は額縁に目をやった。一つ目、二つ目、そして三つ目の家訓を見る。


『その三、人を食べてはいけません』


「我が家はね、家政婦さんを雇っていないの。家のことはすべてお母さまがしてくださっているわ。お弁当もね、毎日つくってもらっているの」

「あら、陽菜さん。あなただって手伝ってくれているわ。助かっているのよ」

「だって、お母さまにばかり負担をかけてはいけないわ」


 何の話だろうか。唐突に始まった世間話のような何かに、ついていけない。


「あんなことがあってから、お母さまはずっと一人で頑張ってくださったじゃない」

「仕方がないわ。あんなことがあったんだもの。私はね、家族のためならちっとも辛くはないのよ、陽菜さん」


 あんなこと、と繰り返されるその言葉が、どこか白々しく聞こえる。まるで「何があったんですか?」と、私に言わせたいみたいだ。

 急に不安になってきて、私は恐る恐る言った。


「あの、すみません。そろそろ帰ります」

「昔はね、家政婦さんを雇っていたの」


 私の声が聞こえていないみたいに、山田さんは話し始めた。その声はどこかイキイキと弾んでいる。


佐山さやまさんという方で、とても良い人だったわ。働き者で優しくて料理もお上手。私も兄さんもお母さまもお父さまも、みんな信頼していたわ。けれどある日、お母さまの宝石を盗んでいるのを見かけてしまったの」


 声のトーンはそのままに話し始めるものだから、一瞬理解が遅れてしまった。

 そういえば、雇われた家政婦が物やお金を盗むという話は、どこかで聞いたことがある。山田さん達も被害にあったわけだ。


 と、そこまで考えついてしまったところで、この話のオチが想像できてしまった。

 いやいやまさか、漫画や小説じゃあるまいし。頭ではわかっていても、どうしてもその考えがこびりついて離れない。


 つまり、そう。自分達を裏切った不届き者を、山田さん達は……。


「佐山さんは凄く反省してね、だから最初は私達も許したのよ。けれどまた同じことが起きて」


 続きはおばさまが話し始めた。こちらもまた声のトーンが均一で、いっそ感情がこもっていないようにすら聞こえる。


「三度、四度と続いてね。だから私達は、彼女を解雇したわ」


 最後にわざとらしいため息を吐いて、話は終わった。そう、終わったのだ。それきり続く言葉はない。


「えっ、あの、終りですか?」

「そうよ? この話はおしまい。だから今は家政婦さんを雇っていないの」

「あの、三つ目の家訓は? 人を食べてはいけないっていう」


 言いながら、しまったと後悔した。こんな直球に聞くつもりではなかったのだ。

 けれど山田さんとおばさまは顔を見合わせて、ついでに声も「ああ」と揃えてこう言った。


「昔、犬を飼っていたの。マロンって言うんだけれど」

「その子がね、どこからか腕をくわえて帰ってきたことがあって。それはもうとんだ大騒ぎになったわ。ほら、少し前に、女性のバラバラ遺体が発見されたって事件があったでしょう?」

「マロンがその内の一つを持って帰ってきたの。だからそれ以来、人を食べてはいけませんって決まり事をつくったの」

「けれどマロンは、一ヶ月前にいなくなってね。だからもう、三つ目の家訓は不要というわけ」


 何が何だかわからなかったが、とりあえず相槌を返す。

 つまり山田家の家訓とは、長男、長女、ペットによって定められたものだという。

 最後の話を聞いて、一気に体の力が抜けた。よかった。物騒ではあるけれど、思っていたようなことはなかったのだ。


 背中を背もたれに預けて、ほっとため息を吐く。安心からか、妙に力が抜けた。


「そういうことだったんですね。私はてっきり、人でも殺して食べていたんじゃないかとばかり」

「あらやだ。そんな物騒なことしないわ」


 二人は驚いて目を丸くしている。ですよねぇと頬をかき、自らの考えを恥じた。


「じゃあ、なくすのは三つ目って決まっていたんですね。どうして会議を、というか、どうして私を呼んだんですか?」

「三つの家訓には三つの人間が必要だもの」

「そうそう。四つの家訓には四つの人間が、五つの家訓には五つの人間が。私達はずっとそうしてきたわ」

「ずっと?」


 なんだか視界がぼやけてきた。なぜだろう。眠くて仕方ない。声も段々遠くなっている。山田さんの顔が、おばさまの顔が、酷く歪んで見えた。


「そうよ。六つの家訓には六つの人間が、七つの家訓には七つの人間が、八つの家訓には八つの人間が。そうして一つ減らすたびに一人減らさなくちゃならないの」

「姉さんも、二つ上の兄さんも、双子の弟も八つ離れた妹も、おばあさまもおじいさまも、マロンも、そうしていなくなったわ。今年は誰がいなくなるかとばかり思っていたけれど、あなたが来てくれてよかった」

「ええ、陽菜ちゃんがお友達を連れてきてくれてよかった」

「よかったわ」

「よかった、よかった」


 私は意識を手放した。




 時刻は午前七時半。朝日が眩しい。雲一つない、いい天気だ。

 いつもより早くも学校に着いた私は、予習のためノートと教科書を広げていた。まだ教室には誰もいない、一番乗りだ。

 時間が経つにつれ、教室は騒がしくなっていた。私は肩を丸めて一心不乱にノートとにらめっこをする。


「おはよう」


 自分が話しかけられたとは思えなくて無視していると、とんとんと肩を叩かれた。顔を上げると視線が合い、ニコリと微笑まれる。私はぎこちなく会釈を返した。


「予習? 頑張り屋さんね。私も負けてられないわ」


 時刻はチャイムが鳴る五分前。彼女がこんな時間に登校するのは珍しい。というか、なんで話しかけられたんだ。

 いろんなことを考えていると、結果的に無視したような形になってしまった。気まずくて、ぼそぼそと答える。


「いや、そんな。て、ていうか珍しいね。いつももっと早いのに」

「ああ」


 彼女は私の前の席に座って、背中を向けたまま答えた。


「お弁当、今日から自分で入れなきゃいけなくて」


 おや、と思った。だって山田さんのお母さまは料理上手で、お弁当も毎日欠かさずつくってくれていると言っていたのに……いや、待て。どこで聞いた話だ?

 私は山田さんと話したことなんて、ほとんどなかったはずなのに。


「どうかしたの、成田さん?」


 いつのまにか、山田さんが心配そうに顔を覗き込んでいた。近くで見るとますます綺麗で、お母さまにそっくりだ。いや違う。待て。私は山田さんの母親の顔なんて見たことがない。


 なんだか頭がこんがらがってきた。勉強のしすぎでおかしくなってしまったんだろうか。


 山田さんはまだ心配そうにこちらを窺っていて、ひとりごとのようにポソリと呟いた。


「もしかして昨日の後遺症かしら……」

「え?」


 どういう意味だろうか。聞き直すと、山田さんは「なんでもないのよ」と苦笑した。


「ほら、家族じゃない人を巻き込んだのは初めてだったから」


 ますます意味がわからなかったが、山田さんはまたもやなんでもないと繰り返す。どう考えてもなんでもあるに決まっているだろうに。

 けれどなんだかこちらとしても、知りたいような知りたくないような不思議な感じで、確認するのを躊躇ってしまった。たぶん、知らないほうがいいような気がする。


 結局私はそれ以上は何も聞かないことにした。けれどクラス一の美少女に話しかけられたことは素直に嬉しい。なんとか話題を続かせようと、先ほど山田さんが言っていた弁当について、私も話をした。


 私も毎日つくってる、と話すと、山田さんは大袈裟なくらい驚いて、褒めてくれた。

 すごいね、偉いね、と何度も言われる。こうなると調子に乗ってしまうのが私という生き物だ。えへえへと頭をかき、そんなことないよ〜と鼻の穴を膨らませる。


「私はお母さまのお手伝いを少ししていただけで、恥ずかしながら、お弁当も初めてつくったの」

「そうなんだ。そういえば、山田さんのお弁当っていつも豪華で美味しそうだったよね」


 言ってから、お前なに覗き見してんだよ案件だということに気付く。気持ち悪がられるかとも思ったが、山田さんは「ありがとう」とくすぐったそうに笑った。


「でも、今日からは私がつくらないといけないから」

「そういう約束をしたの?」

「ううん、いなくなっちゃったから」

「そっか。まぁでも仕方ないもんね。三人は多かったし」

「そう、仕方ないのよ。二人じゃないといけなかったから」


 チャイムが鳴り、山田さんは自分の席へ行った。私もまた一時間目の現国の教科書とノートを机から出す。

 シャーペンを無意味にカチカチ押しながら、入ってきた教師のツルピカ頭を見る。


 なんか、なんかおかしかった気がするな。よくわかんないけど、なんかおかしくなかった? どう思う? なに、やっぱりおかしい?


 まぁでも、仕方ないよ。家訓だしなぁ。

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山田家の家訓 島丘 @AmAiKarAi

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