アンタの後ろ姿、眩しすぎて目を開けてられない。
「『ナッカ』ってもしかして、俳優、やってる?」
私の一つの質問に、彼は僅かに目を見開いた。それから、少しずつ、大切な宝物を取り出すときのような期待を頬に湛え、コクリと頷いた。
……ああ、その顔。私が手に入れることのない、キラキラ輝く人間の顔だ。
正直、彼と芸能界は、結びつけることが非常に難しかった。確かに、彼は人に囲まれることが多いけれど、決して、自分から輪の中に入ろうとしているようには見えなかったからだ。
用意された場所のどこかに、ひっそりと存在していたい。そこで、顔を合わせた人たちと、共に話をしていたい。それくらいの認識をしているのだろうと思っていた。
けれど、違った。彼は端から、用意された場所なんて望んじゃいなかった。自分が理想とする場所を、作ろうとしていく、作ろうとしていける、そんな人だったのだ。
「……本当だったんだ。勘違いかもって、ちょっと思ってたんだ。スカウト?」
「いいや、オーディション。受けたんだ。」
私が、今まで見ていた『ナッカ』は、一体何だったんだろう。とんでもないほどの野心家で、とんでもないほどの勇者じゃないか。
私は、そんな『ナッカ』に「凄い……」と呟くことしかできなかった。
私は、さして芸能人に詳しいわけではない。けれど、ネットで彼の名前を調べるまで、何かに出ていたと知ることは無かった。つまり、あまり芸能人として、特別に名が売れている訳では無いのだろう。
でも、そんなことはどうでもよかった。それよりも、前に進もうとしている、その行動力に、私は驚いたのだ。
『行動力』。それは、私が昔、両手に抱えきれなくて、捨てたものだったと思う。
もう、きっと、二度と拾えないものだとも思う。
「映画と、ドラマ?出演作品はあるんだね。」
「一応ね。名前も無いような役が殆どだけど。今は受験生だから、仕事はストップしてるんだ。」
気が付くと、夕日の主張も落ち着いて、一番星が見えてきた。『ナッカ』は、その一番星に手をかざし、スッと息を吸った。
「僕は、特別誇れるものなんて何もなかった。だから、今、光を探しているんだ。」
他人が他人を褒めても、結局は、自分が認めないと、承認欲求は満たされない。私もきっと、自分で認めていないから、ずっと化け物のままなんだ。
……でも、『ナッカ』に、誇れるものが何もないなんて、信じられない。
「__っねぇ、アンタの光は……。」
私は、一瞬、声を張り上げた。その声に振り向く『ナッカ』に、続きを言おうと、一歩前に足を出す。
でも、私は、そこで言葉を止めた。その代わり、『ナッカ』に向けて、笑って見せた。
「……なんでもない。」
小さく首を傾げた『ナッカ』に、私は、意味もなく、頷いた。
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