第9話



 アンとギルバートの結婚式当日。



「リイナ。」



 先に式に出席しパーティー会場に着いていたロナルドが馬車までリイナを迎えに来てくれる。ロナルドの手を借り、馬車を降りると会場まで向かう。ロナルドはリイナのペースに合わせゆっくりと足を進めた。



「ロナルド様。」



「何だ?」



「ドレスの感想、何か無いんですか?」



 小声ではあるが不満そうに口を尖らせるリイナに、ロナルドは怒ったように顔を顰めた。今日のリイナはマタニティ用のふんわりしたドレスではあるが、リイナの可愛らしさがよく表現されている。ただでさえ魔術協会の会長の結婚相手だと注目されるリイナだが、その可愛らしさから更に他の招待客の視線を集めていた。




 ロナルドはリイナの頬を掴んだ。また抓られると思わずぎゅっと目を閉じたリイナにロナルドは口づけを落とした。



「ちょっ、ちょっと!ロナルド様!」



 顔を真っ赤にし詰め寄るリイナに「まだ夫のことを様付けで呼んでいるようなお前にはこれだけで十分だ。」とロナルドは鼻を鳴らした。そっぽを向くロナルドの耳が薄っすら赤くなっていることに気付いたリイナは(自分だって恥ずかしいんじゃない)と、こっそり微笑んだ。





◇◇◇◇




「ふふふ。素敵な式でしたね。」



 結婚式の帰り道、馬車の中でもリイナは上機嫌だった。アンは美しく着飾られ、幸せな笑顔を終始浮かべていた。並べられた料理の中には、アンの作ったパンもあり招待客に大人気でリイナは時折ロナルドに呆れられながらもパンをたくさん食べたほどだ。アンとギルバートらしい素敵な結婚式にリイナはうっとりしていた。



「リイナ。」



 隣に座るロナルドがリイナのお腹に手を添えた。



「子どもが生まれて落ち着いたら式を挙げよう。」



「え、良いんですか?」



 ロナルドは頷いた。バタバタと籍を入れ、式も出来なかったことにロナルドはずっと引っかかっていたのだ。



「ありがとう……ロナルド。」



 学生時代ぶりの呼び方にロナルドは目を見開いた後、「魔術協会の会長が、結婚式も挙げていないと言われたら敵わないからな。」といつもの憎まれ口を叩いた。



「ふふふ。」



「何だ?」



「ロナルドの憎まれ口は私だけが聞けるんだなぁって嬉しくて。」



「何だと?」



 怒ったようにまた頬に手を添えられる。次に何をされるかは勿論分かっていた。








<お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。:完>




 最後までお読みいただきありがとうございました!


 アンとギルバートのお話『堅物監察官は、転生聖女に振り回される。』も宜しければぜひお楽しみください!

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お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。 たまこ @tamako25

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