第8話
「会長、監察官の方が来られています。」
魔術協会での職務中、部下に声を掛けられロナルドは露骨に不快感を示し眉間に皺を寄せた。職務の内容によっては、監察官と連携する場合もある。そして、ロナルドを訪ねてくる監察官は一人しか居ない。不機嫌なロナルドの顔を見て部下は苦笑いを浮かべ、来客を案内してきた。
「ロナルド。急に済まない。」
「ロナルドさん、お邪魔してます~。」
堅い口調で頭を下げるのは、主任監察官で聖女の婚約者でもあるギルバート、呑気な調子で挨拶をしているのはギルバートの補佐官ジェフリーだ。二人と暫く職務の話をした後、ジェフリーが思い出したように話し出した。
「そういえばロナルドさん、最近話題ですよ?」
「私が?」
ジェフリーの言いたいことは予想がついていた。だがこう答える以外に道は無かった。
「奥さまのことを溺愛されているとか、奥さまと結婚するために魔術協会の会長になったとか。」
魔術協会の会長というエリートながら一切浮いた話が無かったロナルドの急な結婚話に、社交界では様々な推測が飛び交った。中には下世話な話もあったが(早くにリイナを妊娠させたロナルドの責任も多少あるが……。)ロナルドとリイナの結婚を美談に仕立て上げたのは、ロナルドが治療に携わった第二王子だ。そのおかげで、こうして揶揄い半分の話題が増えロナルドはうんざりしていた。
「ジェフリー。それくらいにしておけ。」
ロナルドの気持ちを察したギルバートがジェフリーを制止した。
「先輩も話題になってますもんね。鬼の監察官が婚約者を溺愛しているって。」
ぷぷぷとジェフリーが笑うとギルバートはぎろりとジェフリーを睨んだ。その恐ろしい形相にロナルドですら肝が冷えたがジェフリーは慣れっこでへらへらと笑っている。この鬼のような監察官は、ロナルドから見たらただのじゃじゃ馬娘の聖女アンを溺愛している様はこれまでも散々見せつけられてきた。その度に(このじゃじゃ馬娘のせいで俺とリイナの結婚話が進められないというのに。)とロナルドは内心苛立っていた。
ギルバートは小さく息を吐くとロナルドへ声を掛けた。
「ロナルド。来週の結婚式の出席、宜しく頼む。」
「ああ。ぜひ行かせていただきますよ。パーティーの方は妻も招待いただきありがとうございます。」
「奥方は体調第一で、無理のない範囲で参加してくれたら嬉しい。」
「今は安定期に入っていますので大丈夫かと思います。妻も楽しみにしていますよ。」
ロナルドはギルバートと聖女アンの結婚式に招待されていた。体調を考慮し、リイナは式の後の結婚パーティーにだけ招待されている。すっかり仲良くなったアンの晴れ舞台をリイナは心底楽しみにしている。
ギルバートは「宜しく頼む。」と頭を下げ、魔術協会を後にした。
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