月光照らす部屋

カミシモ峠

第1話

 月明かりがマンションの一室に差し込んでいる。

 全開の窓から吹き込む風がカーテンを揺らす。

 卓上ライトが安物なのか弱々しく光っている。

 若い男の顔がライトで照らされる。目を閉じ、静かに頭を勉強机に鎮座させている。寝ているのだろうか。全く動かない。

 ピチャピチャと机上から液体が垂れ続けている。暗いおかげで液体が何かは分からない。

 月光が床をほのかに照らす。

 本か何かが整頓されて積んである。


 部屋に差し込む月光が強くなる。

 若い男の顔が先程より強く照らされる。

 男はまだ高校生だった。頭に鉢巻を巻いている。

 頭の下には文字が描き殴られたノートが一冊。その横には参考書(暗くてよく分からない)がある。

 今は一月の深夜。受験シーズン真っ只中であり、睡魔という名の強敵が襲いかかる時だ。眠たいのも仕方がない。

 寝ている時にぶつかったのだろうか。

 机の上のコップが倒れ、中からコーヒーが溢れ出ている。それは机の下に水溜まりを作っている。


 月明かりがさらに強くなる。

 男の背後に誰か立っている。

 体格からして、女性だろうか?

 手には毛布。彼女はそれを男に被せる。丁度体を覆う。温かそうだ。

 彼女はリモコンを取り、暖房を付ける。

 さらに部屋が暖まる。一月の冷風が絶え間なく吹き込んでいた部屋だ。部屋の主である男は風邪をひく心配がなくなり、さぞかし助かるだろう。

 そういえばこの部屋は寒いだけでなく、独特な臭いがする。近しい臭いは血だろう。

 最後に彼女は全開になっていた窓を閉め、部屋を立ち去る。と、同時に玄関のドアが開く。

「ただいまー」

 野太い男の声が聞こえる。

 このマンションの一室に住む家族の大黒柱が仕事から帰ってきたようだ。

「あ、母さんまたリビングで爆睡してるじゃないか。風邪ひくぞ」

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