第4話 佐藤みちる15歳、異世界に立つ

 佐藤みちる(さとう みちる)は常に不機嫌な少年だった。15歳になっても成長期はまだ訪れず、身長は150を少し過ぎたところで燻っている。佐藤は性別が曖昧な名前や、声変わりを経てもやや高めな声をしていることをネタにして揶揄ってくるクラスの人間たちを心底くだらないと見下している。教室でゲラゲラ笑う連中に何も面白くないと言ってやったら場が凍りつき、ノリが悪いと遠巻きにされた。向こうが悪いのに何故自分が腫れ物のように扱われなくてはならないのか、佐藤にはわからなかった。

 更に家に帰れば心配性の母親が大きな腹を抱えてあれやこれやと詮索してくる。その腹の中の子どものことだけを考えていればいいのに、もう大きな自分にどうしてもこうも干渉してくるのだ。忙しいが口癖だったのに、母親の腹が膨らむにつれて帰宅時間が早まっている父親のことも気に食わない。学校も家も、誰も佐藤のことを中心には動いてくれなくて、お前は物語の端役なのだと言われているようで気分が悪い。自分が何か特別だなんて思い上がったことを考えているわけではないが、それにしたって蔑ろにされすぎている。佐藤はもうずっと息苦しい気持ちを抱えて日々を送っていた。

 だからこれは運命なのだ。学校からの帰り道、きらきらと光る穴に落ちて眩しさに目を閉じると、そこには全く知らない世界が広がっていた。佐藤の前では小人たちが喜びを分かち合い、召喚が異世界がとワクワクするような言葉を叫び合っている。

 ――異世界召喚って本当にあるんだ!!

 手をグッと握り、開く。特別な力は感じないが、呼吸が楽になっている気がする。自分が着ているのはただの制服で、異世界に来たことで何か変わったところはないようだ。佐藤は大きく息を吸い込み、小人たちに自身の名を名乗った。

「俺は佐藤みちる、日本という国から来た!! 俺の役割はなんだ、勇者ってやつか!?」

 佐藤の大声に小人たちは飛び上がり、しんと静まり返った。長い髭を蓄えた老人の小人がおそるおそるといった様子で進み出て、佐藤の前で跪く。

「サトウ様、ようこそいらっしゃいました。他の村での召喚がどうなっているのかまだわからないので確定ではないのですが……おそらく、貴方様は勇者ではなく戦士であるかと存じます」

「戦士……?」

 小人の言葉に佐藤は首を傾げる。別段、筋力が上がっているような気もしないのだが、特別な強化魔法のようなものがあるのかもしれない。試しに腕を振ってみたり、ジャンプしてみたりしたがイマイチよくわからなかった。呪文とかが必要なのだろうか。

 佐藤はチラリと先ほどの長老風の小人とそのお付きを見た。黄色い帽子を被った彼らは佐藤から少し距離を取り、静かに佇んでいる。しばらく目が合ったままでいると、長老がこほんと咳払いをした。

「さて、ではサトウ様、貴方様を他の方々のところまでお連れいたします。他の村からは既に勇者と魔法使いの召喚に成功したとの伝令がありましたので」

 勇者、魔法使い、そして戦士。完全にファンタジーの世界観だ。佐藤はニヤついてしまいそうな口元を固く結んで腕を組み、では案内しろと小人たちに申しつけた。

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異世界に立つ 桐枝 @kirie_hinoe

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