第三十七話

 すると翔真しょうま君は、答えた。

「まだまだ、これからだよ。確かに学会がっかいで発表できたけど、ねらいどおりに行くか分からないから。

 だから他に地球の温暖化を止める方法を調べて、もう一本、論文ろんぶんを書こうと思っているんだ。それにしても大海たいかい……。ここはちょっと、なつかしいなあ……」


 それを聞いて、私はげた。

「何よ、それ。二カ月前まで、ここにいたじゃん。そういえば論文を一カ月で書いちゃったのもすごいけど、まずは東京大学に入学しちゃったのに私は一番、驚いちゃった。すごいよね!」


 翔真君は、「萌乃もえの先生や宗一郎そういちろう、そして春花はるかちゃんが、数学すうがく以外のことも僕に教えてくれたからだよ。感謝かんしゃしてるよ」と少しれながら答えて、軽く頭を下げた。


 私は、両手をった。

「いやいや! やっぱり翔真君、本人ほんにんが一番がんばったからだよ!」


 そして、翔真君に教えてあげた。

「あ。そういえば先週、宗一郎君がきたよ!」


 私は先週、大海にひょっこりきた宗一郎君を思い出した。宗一郎君は慶応義塾大学に入学して、困っている人を助けたいと言って弁護士べんごし目指めざしている。


 更に萌乃先生は現在、数年前からニートや引きこもり問題のフリージャーナリストになっているたちばなさんと、付き合っている。橘さんは自分がニートだったので、その問題を解決したいそうだ。


 すると翔真君は、しみじみとつぶやいた。

「宗一郎か……。何だか、なつかしいよ……」

「だーかーらー、二カ月前まで一緒いっしょにいたじゃん!」

「そうだけど、何だかなつかしいよ……。大海には、きたえられたからなあ……。特に夏休みの自由研究じゆうけんきゅう!」

「うん、そうそう! 宗一郎君は、毎年ぼやいてたもんねえ。これは自由研究じゃない! 自由研究だって言って!」


「ははっ、そうそう。そうだったね、ははっ」と翔真君が、小さく笑った。その表情は、八年前を思い出させた。


 そのなつかしい表情に背中をされて、私は勇気を出した。

「あ、あのね、翔真君。私、今日、誕生日なんだ。十九歳になったんだ。それでね、えっとね、髪もショートカットのままなんだ。それでね……」


 すると私の言葉を、翔真君はさえぎった。

「うん、知ってる。だから今日、ここにきたんだ」

「え?」

「春花ちゃん、お願いがあるんだけど……」

「え? 何?」


 翔真君は、ものすごく緊張きんちょうした表情で告白こくはくした。

「うん。ぼ、僕と、つ、付き合ってくれないかな?」


 私は、八年分の笑顔で答えた。

「はい、よろこんで!」




   完結

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結済】小学五年生 中條春花。 久坂裕介 @cbrate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ