ああ、今日よ

 ややあって、星はきれいになる。

 麦が吸収するはずだった栄養は菌によって変質され、粉粒は大地に沈殿して土になじみ、溶けていく。麦は枯れていく。


 俺が地に落ちて一週間もなかった。

 人々は壁から解放され、麦を知り、踏みつぶした。

 なんとまあ、俺たちは無関係なんだなと思った。


 大地に黒い柱が立つ。それはささやかで、今回は昇っていくものだ。麦どもは次の星へ赴く。


「リョド=ロン博士の見解を聞きたい」

「俺の見解なんてないさ。俺はもう、なるたけ善くあろうとも思わんのだから。

 どうせ、もっと複雑なものに圧殺されるんだろうよ」


 俺は虫博士なんて呼ばれている。






 老爺はこげ茶になった麦の平野に背をあずけ、集中をもって脱力した。

 伏した左手で粉々の麦穂をつかむ。しゃらり、あげてはしゃらり、落とす。


「おまえたちも……こんなに弱々しいのになぁ」

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この黒い海の底で 和菓子辞典 @WagashiJiten

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