冒険者コンパニオンの生きる道

ちびまるフォイ

これは仕事ですか?

「ここは冒険者ギルドです。どんな依頼をお探しですか?」


「いえ、私えりごのみとかしないんで、私にできそうなやつをください」


「そうですねぇ……」


ギルド受付は手元の資料をざっと見て、にこやかに答えた。



「ないですね☆」



「いや、ないってことないでしょう?

 私これでも魔法検定準1級の腕の立つ魔法士ですよ!?」


「ええ、それだけ優秀だからかえって依頼がないんです」


「え……?」


「魔王軍のモンスターで埋め尽くされたこの地域。

 冒険者が今なにを求めているかご存知ですか?」


「世界を救うとか、魔物から町を守るとかでしょう」


「いえ、ただ魔物を狩りたいだけです」

「なんで!?」


「魔物を狩って、お金にして日がな一日を平和に過ごす。

 それが今冒険者の求める日々の過ごし方なんですよ。

 

 平和になったらどうなりますか?

 魔物狩りというエキサイティングスポーツで生計を立てられず

 慣れない農作業に駆り出されるのがオチでしょう」


「ぜんぜん冒険してない……」


「なので、あなたのような腕の立つ冒険者がいたら

 それこそ魔物を駆逐しまいかねないから依頼がお出しできないんです」


「そんな……」





「と、普通のギルドなら言うでしょう」


「え」


「実は、あなたのようなキレイ系の女性冒険者にだけ紹介する

 特別な依頼があるんですよ」


「依頼の特性上、ちょっと表立って掲示板には貼れないんですけどね。受けますか?」


「受けます。私は明日のご飯もままならないんですから」


「ではこちらへ」


その後、ギルドの受付から細かい指示を受けた。

そうして冒険者パーティに合流して冒険へと出かける手はずとなった。


ダンジョンへ向かうと、スライムが冒険者パーティの前に立ちふさがる!


冒険者の筆頭。

勇者の男は待ってましたと背中の剣を抜いた。


「かかってこい魔物め! やっつけてやる!!」


ふにゃふにゃの太刀筋の腰の入っていない剣先!

それでもスライムは一刀両断された!!


ここで、はじめて仕事がやってくる。



「「 勇者さま!! かっこいい~~!! 」」



自分と同じ依頼を受けている女冒険者とタイミングを合わせて黄色い歓声を上げた。

勇者は満足げに「たいしたことはない」と流してみせた。


それでもどうにも口元のニヤケは止まらないらしい。


思わず同行する他の冒険者に声をかけた。


「これなんなの……?」


「盛り上げ役よ。わかってて来たんじゃないの?」


「わかってはいるけど……意味あるのこれ」


「男なんて異性に褒められるのが勲章みたいなもの。

 だから高い報酬を払って、あたし達みたいな"観客"を雇うんでしょう」


「その感覚がまったくわからないのよね……」


「いいのよそれで。私達はただ冒険に同行して要所で歓声をあげる。

 それで冒険者は気持ちよく冒険できる。持ちつ持たれつ、よ」


冒険は続く。

勇者を始め、男の冒険者が魔物を倒せば歓声を上げる。


ときには自分から危険な場にわざと躍り出てピンチを演出。


「大丈夫か! 僕が守ってあげる!!」


「勇者さま……(はあと」


このような茶番をしかけては、頭の中で報酬の上乗せになるかを計算。


一生懸命に魔法を勉強して、修行して準一級魔法師になったのに。

才能を生かした仕事よりも、こんな軽い内容のほうが稼げてしまうのが皮肉だった。


「なに暗い顔してるのよ。アタシたちはマスコット。

 常に笑顔でなくっちゃ報酬が低くなるよ」


「そ、そうね」


「さあ行きましょう。次のダンジョンで最後……きゃ!」


同行していたコンパニオン冒険者のひとりが巨大な魔物にぶつかる。


「と、トロール!? どうしてこんな低階層に!?」


上級魔物のトロールを見るなり、勇者を初め冒険者たちは顔を青ざめた。

なにせ雑魚を狩るだけの戦闘力しかない。


こんなマジモンの魔物に戦うことすらできない。


「あ……あ……」


ただ恐怖して立ち尽くすばかり。

動けるのは私だけだった。


ギルドからは厳重に注意されていた。

自分の本来の力を使わないようにと。


それでもーー。


「ノヴァ・プロミネンスーー!!」


私の杖から放たれた強力な炎はトロールの巨体を一瞬で包み込み、次の瞬間には灰にした。

男の冒険者たちは圧倒的な力の差に驚愕している。


「うそ……めっちゃ強い……」

「それなのに、さっきまで"すごーーい"とか言ってたの?」

「えええ、萎えるわあ。本当は心の中で笑ってたんだ」


「うるさいな! あんたら何もできなかったくせに!

 本物の冒険者なら助けなさいよ!」


「いや、俺らそこまでガチ冒険者じゃないし……」


「楽しく冒険できればそれでいいっていうか……」


「つか、お金払ってるのこっちなんだし、もっと俺たちを持ち上げてくれよ」



「うるさい!! 燃やす!!」


「うわああーー! 逃げろーー!!」


助けられた同行冒険者の女の子にはいたく感謝されたが、

せっかく掴んだチャンスも手放してしまった。


ギルドに戻ると案の定、ちょっぴりな報酬しか渡されなかった。


「き、金額に納得はいかないかもしれませんが、その……」


「いえ……まあ、私がまいた種ですから……。

 もう同じような仕事ってない、ですよね……?」


「ええ、さすがにあれだけ強いのを高々と見せてしまったら

 逆に褒めても嫌味っぽく聞こえちゃいますしね」


「ああもうどうしよう~~! これじゃ明日から生活していけないよぉ~~!!」


ギルドのカウンターに泣きついていると、受付は肩にぽんと手をおいた。


「ここだけの話しですよ、じつは特別な依頼があるんです。

 タイミングを合わせて声を出すだけの簡単な仕事です」


「私のような魔法師でも……?」


「むしろ、優れた人にこそふさわしい依頼ですよ」


「受けます!!」


ギルドの受付から専用の衣装を受け取り、依頼の場所へと向かった。


依頼の場所は松明で照らされているだけの薄暗い城。

きわどめの衣装を着込んで玉座の横に立つ。


やがて演説がはじまった。



「聞け! 魔王軍どもよ!!

 貴様ら静かになるまで3分かかった!この意味がわかるか!

 

 わしの若い頃はもっとガツガツしていた!

 今の魔王軍にはハングリー精神が足りない!

 

 それでそれでーー」


ひとしきり魔王の演説が終わると、タイミングを合わせて声を出した。


「魔王軍に栄光あれーー!!」


魔王は雇われたコンパニオンの配下たちに囲まれて満足げだった

私がギルドに戻ると、待っていたのは受付からのお説教だった。



「なんで魔王倒して平和にしちゃったんですか!

 せっかくのお得意様だったのにーー!!」



やっぱり満足げな魔王を後ろから不意打ちで燃やしたのは問題だったらしい。

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