第20話

年の瀬になって晴彦と美玲は晴彦の祖父のお墓参りに訪れていた。祖父が真実の鏡を持っていなかったら今の晴彦と美玲の関係はあり得なかった。そのため、2人で祖父にお礼を言いに来たのである。


「それにしても、おじいちゃんは何で真実の鏡を買ったのだろう?」


晴彦が思いを馳せた。


「晴彦のおじいさんのコレクションって絵とか壺だったよね。」


美玲は昔の記憶を思い出していた。


「まさか、300万円だなんて・・・。」


晴彦は改めてオークションの履歴から知った金額に対する驚きを美玲に伝えた。


「そんなにするのー!!あの鏡、どこか行っちゃったよ!!探さないと!!」


それを聞いた美玲は驚き、鏡が消えてしまったことに焦り始めた。


「美玲!300万は鏡の値段じゃなくて、江戸時代の有名な和尚さんが書いた鏡を封印するお札なんだよ。」


「よかったー。じゃあ、300万のお札はあるんだね!」


「いや、箱を開けるときに破れてた・・・」


「えっ・・・」


晴彦が事情を説明すると、美玲は一瞬ほっとしたものの、300万円の商品を破いてしまったと聞いて絶句した。


お墓参りに行く前に親戚から聞いた話によると、祖父のコレクションの中では真実の鏡を除けば、ほとんどのアイテムは高くても数万円程度の価値しかないとのことだった。そのため、晴彦が思っていた通り、祖父が集めていたもののほとんどはお小遣いで買える程度のものだった。


晴彦と美玲は祖父の不思議な行動について考えつつ、結論が出ぬままお墓の掃除に取り掛かった。


「晴彦!あれっ!」


「美玲!そっち!」


2人は阿吽の呼吸でテキパキと墓の掃除を行い、墓が綺麗になったのを見て満足げに見つめあった。


「晴彦。私のおばあちゃんが今年もお団子を沢山作ってくれたから、少しお供えしようと持ってきたんだー。」


晴彦がお花をお供えしていると、美玲が鞄から団子を取り出していた。


美玲は、実家のおばあちゃん自慢のお団子をお供えした。美玲の実家は昔は伝統ある人気の団子屋さんだったそうで、今でも年の瀬になるとお団子を沢山作って贈ってくれるらしい。


「おじいちゃん、鏡を買ってくれてありがとう!」


晴彦がお礼を述べた後、美玲も同じように祖父に感謝の言葉を捧げた。


「おじいさん、鏡を買ってくれてありがとう!」


2人は手を合わせて静かに祈った。




あの日以来、真実の鏡はどこにいったのか解らなかった。


最近世間では、俳優や芸人、アイドルから政治家まで、数多くの著名人が浮気や詐欺、過去の悪事を暴露し、大炎上していた。その一連の騒動により、世の中は大いに盛り上がっていた。


晴彦は、最近の有名人たちの暴露騒動の背後に真実の鏡の存在があると考えていた。晴彦は真実の鏡の封印を解いてしまったので、責任を感じる面もあった。


しかし、真実の鏡によって嘘をつけなくなったとしても、晴彦のように幸せに導かれる場合もあれば、優一のように破滅へと向かう場合もある。だから真実の鏡自体が善か悪かではなく、嘘をついていた人が善か悪かによって結末が変わるのだろう。


そう考えると、晴彦は真実の鏡は封印される事なく鏡の意思で動きまわれる方が良いと思った。そして、そのためには自分が封印を解いたのが正解だったとも感じていた。


お墓参りが終わり帰る前にもう一度お墓を見たときに美玲が何かに気がついた。


「ねえ、晴彦!お墓に書かれているこの家紋って真実の鏡の裏にあった家紋と似てない?」


「言われてみれば似てるな-。自分の家の家紋なんて気にしてなかったよ。」


晴彦は確かに似てると思った。もし、家紋が一緒なら晴彦は町娘を裏切った侍の血縁の可能性がある。そんな中で真実の鏡は自分を助けてくるだろうか?


もし、晴彦があの侍の血縁だったら、町娘はいかに深くあの侍を愛していたのだろうか?怪談では伝わってない物語があるのだろうか?晴彦は町娘の愛に思いを馳せた。


「そう言えば町娘も美玲の実家も団子屋さんだなー。まさかね!」


晴彦と美玲は様々な偶然の一致に驚いたが、真相は何も解らなかった。


1つだけ確かなのは晴彦と美玲の将来は幼い頃のままごと遊びの時に思い描いた通り、幸せあふれる毎日であったと言うことだ。




第20話をもって第1章が完結となります。この後、外伝として真実の鏡が生まれた町娘と侍の話しを書いたのちに第2章になります。しかし、ストックが無くなったので少しの期間お休みとなります。


ここまで読んでくれて、ありがとうごさいました。

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真実の呪い:嘘がつけなくなった日、静かに暮らしたいだけのモブ 旅晴 @mick789

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