第19話

冬のクリアな朝、教室は楽しげな雰囲気で満ち溢れていた。この日は二学期の終業式、明日から冬休みが始まる。クラス中の話題は皆のクリスマスの予定だった。


もちろん晴彦と美玲もクリスマスデートに向けて予定を立てるのに忙しい。


「晴彦、駅前に大きなクリスマスツリーが飾られるみたいよ。駅前のライトアップも素敵だろうね!」


美玲は目を輝かせて言った。


「あっ、それもいいけど、遊園地のライトアップも気にならない?」


晴彦が尋ねると、美玲は思考にふけりつつ応じた。


「うーん、どちらも素敵だけど、公園前にあるレストランの大きなチキンも食べてみたいな。」


美玲は、恋人向けのクリスマスデート特集が記載されたタウン誌を指さしながら、楽しげに次々とデート案を伝えてくる。晴彦は、そんな美玲を優しく見つめながら、彼女の各提案に対し一つ一つ真剣に自分の意見を伝えていた。


周囲の人々から見れば、そんな2人の会話のテンポはお互いの事を解りあっている様に見えた。そのため、新しく付き合い始めたカップルというよりは、むしろ熟年の夫婦のように感じられる時もあった。


晴彦は真実の鏡の呪いにより嘘がつけなくなった。しかし、その呪いが解けたかどうかは彼自身でもわからない。なぜなら、あれ以来、彼が美玲に一度も嘘をついたことがなかったからだ。


晴彦と美玲は、今後もお互いに正直に支え合って生きていくだろう。それは今回の件で、正直でいる事の大切さを誰よりも多く学んだからだ。


晴彦と美玲の微笑ましいやり取りを見て、周囲の男子生徒たちはうらやましく感じた。しかし、美玲が晴彦の事を好きという気持ちをしっているので、苦い気持ちでもあった。彼らの中には、美玲の満面の笑みが晴彦だけに向けられると理解しつつも、美玲に対する甘酸っぱい恋心を抑えきれない者もいた。晴彦と美玲が付き合い始めてから、美玲の可愛さが増し、より魅力的になっており、美玲の気持ちを理解していても、男子生徒たちは彼女に夢中になってしまっていた。


"晴彦が美玲と付き合えるのなら、自分たちも美玲と付き合える可能性がある"という思いが、男子生徒たちの心を勇気づける。その結果、美玲は以前よりも告白を受ける機会が増え、彼女自身もその度に戸惑いを隠せなかった。


晴彦は自分が美玲と釣り合わないと周囲から思われていることを理解しており、嫉妬の視線も感じ取っている。しかし、いじめを乗り越えた彼は、それに屈することなく堂々としていた。


大きな困難を乗り越えた自信と、いつでも自分の味方をしてくれる美玲の存在が晴彦を強くしていた。


「俺の美玲に近づくな!」


美玲にちょっかいをかける男に堂々と言い放つ晴彦の姿は凛々しく内面の成長が滲み出ていた。


最近の晴彦は、美玲と少しでも釣り合う様にと美容院に行ったり、美玲のアドバイスでオシャレに気を使ったり努力しており、以前より外見が良くなっていた。


何より、晴彦の美玲に対する優しい姿が好感を得ていた。その結果、女子たちの間で密かに晴彦人気が上がってきており、それにより、美玲が逆に嫉妬する姿も見られるようになってきた。


お互いの成長に伴い、子供の頃とは違う新しい関係性が見えてきた。だが、晴彦と美玲はその変化を受け入れ、一緒に進化していくことで、より深い絆と幸せな未来を築きあげていくだろう。




幸せいっぱいの晴彦と美玲の一方、優一は恨みがましく晴彦と美玲を見ていた。

鏡に照らされたあの日以来、優一は嘘がつけなくなってしまった。そして、晴彦へのいじめの数々を自ら暴露した優一の信用は地に落ちた。


また、美玲から女子達に優一が嘘をつけない呪いにかかった情報が女子生徒に拡散された為、翌日には優一は女子生徒達から数々の尋問を受けるのである。


そこで優一が女子生徒たちについて言っていた数々の嘘が発覚したのだが、それは酷いものだった。


優一の嘘はあまりにもひどいため詳細は省くが、その中には本命ではなかったとか、身体目当てで口説いていた、または可愛いと思っていなかったなどが含まれていた。


女子生徒たちは怒りに震えた。そして、自分の嘘をさらけ出してしまった優一は、彼女たちの怒りの強さを目のあたりにして、恐怖に顔を青ざめさせた。


クラスメイトから一斉に無視された優一は、以前の晴彦のような孤独な立場に立たされた。しかも、口を開けば言いたくない本音を話してしまう為、すっかり無口な人間になっている。これからは、誰とも会話する事のない寂しい高校生活を過ごすことになる。


優一は嘘がつけない呪いを解くために何か行動をするのではなく、以前の晴彦の様にただただ黙って耐える事を選択した様である。優一は嘘ばかりの人生で、正直に真心を持って人に接するという生き方が解らないのだろう。


晴彦はそんな優一を見て真実の鏡に出会わなかったら、晴彦が寂しい高校生活を過ごしていたんだなと考えた。美玲との幸せで温かい日常を手に入れた晴彦にとっては、以前の孤独に戻るのは耐え難いことであった。


晴彦は自分がいじめられて孤独でいる姿を想像すると、今の幸せな状況との対比で恐怖が背筋を這い上がり、ゾクゾクとした感覚に襲われた。

晴彦は安らぎを求めて思わず彼は美玲をぎゅっと抱き寄せた。彼女の暖かさに晴彦はいつも安堵するのだ。


「やだ、晴彦!何やってるの?みんなの前じゃ恥ずかしいよ!」


美玲は晴彦と抱き合っているのを友達に見られるのが恥ずかしく、彼の頭を叩いて抗議した。そして、晴彦は友達たちの前で美玲に頭を叩かれ、自身がやってしまったことに気づいて真っ赤な顔をして照れた。


「美玲!何いってるの?晴彦に抱きしめられて嬉しいくせに。解ってるよ?」


そんな微笑ましい2人のやり取りを見た友達達は、美玲を冷やかした後、みんな笑顔で笑い出してしまった。今日も晴彦と美玲の周りには暖かい空気が満ちていた。

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