第18話

赤い光に包まれた優一は呆然としたが、直ぐに気持ちを切り替えた。今まさに優一は美玲を手に入れようとしているのだ。呆けている暇はない。


優一は美玲との未来を想像した。体育祭や文化祭、これからの学校行事は美玲と一緒なら最高の思い出が出来るだろうと。そして、季節はクリスマス。それこそアメリカでのクリスマスなんて最高だろ!


「実は美玲さんに晴彦と一緒にいるのが辛いって、ずっと相談されていたんだ。」


優一は再び美玲を手に入れるために、晴彦を貶める嘘をつこうとした。しかし、優一の口から出た言葉は考えていた嘘ではなく、何故か真実だった。


「晴彦と美玲さんは幼なじみでずっと仲が良かった。」


優一は自分が考えていた言葉と異なる言葉を発してしまった事に慌てた。


<なんだ!どうして僕はこんな事を言ってしまったのだ?一番言ってはいけない事だろう!>


優一は何とか軌道修正する為に必死に嘘をつこうとした。優一は全神経を集中させて慎重に言葉を紡いだ。しかし、優一思いとは裏腹に、嘘は全て真実の言葉に変換されたのだった。


「僕はそれに嫉妬して中学時代にも晴彦をいじめたんだ。」


「晴彦の悪評は全部嘘だ。僕が考えたんだ。」


「僕は美玲さんの心も壊して洗脳するつもりだった。美玲さんは僕のそばないるのが1番幸せになれるのだ。」


鏡の呪いによって滝の様に自分の罪を吐き続ける優一に集まった男子生徒達は呆然とした。その衝撃的な告白に、男子生徒達は一瞬、呆然とした。しかし、次第にその驚きは軽蔑へと変わり、一人ひとりが冷たい目で優一を見つめ始めた。


男子生徒達はしばらく茫然として動こうとはしなかったが、意を決した様に1人の生徒が口を開いた。


「すまん。俺たちが間違っていた。」


1人が謝罪すると、他の男子生徒達も続々と謝罪の言葉を口にした。


そして、1人1人と晴彦と美玲に頭を下げたのち、落胆した様子で教室を後にした。


晴彦と美玲は呆然と立ち尽くす優一を見つつも、2人で目をあわせた後、無言で家に向かって歩きだした。晴彦と美玲は優一にはいろいろと言いたい事があったが、今は2人の時間が大切だった。




帰宅途中で公園立ち寄った2人は、子供達の遊ぶ平和な風景にほっとして、崩れる様にベンチに座り込んだ。


しばらく無言で呆然していた2人だったが、美玲がようやく頭の整理ができたのか、晴彦に声をかけた。


「晴彦!やったね!!これで問題解決だね!」


晴彦は公園のベンチから立ち上がると美玲を正面から真っすぐ見つめた。


「そうだね!美玲ありがとう!全部、美玲のおかげだよ!美玲がいなかったら、絶対に解決できなかったよ。」


その言葉とともに、晴彦は自信に満ちた笑顔を浮かべた。日差しの下で彼の笑顔は一段と輝き、以前には見せなかった男らしい強さが感じられた。その変貌ぶりに、美玲はほんのりと頬を染め、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。


今までにない晴彦の一面を見て美玲はドキドキしていた。そして、晴彦があんなに勇気を出して優一に立ち向かったのだから、自分も勇気を出そうと決意した。


美玲は晴彦がもはや嘘をつけないと知ったからこそ、これまで怖くて聞けなかったことがあった。今こそ勇気を出して、それを聞くときだと彼女は思った。


美玲も公園のベンチから勢いよく立ち上がった。


「晴彦!」


しかし、美玲は晴彦の名を呼んだものの、顔を赤らめ、もじもじとして次の言葉が出てこなかった。


「美玲?どうしたの?」


晴彦は不思議そうに尋ね、そんな美玲を愛おしそうに見つめた。


美玲は小さな声で晴彦に語った。


「晴彦にずっと聞きたかった事があるの・・・。。でも、私・・・。勇気がなくて聞けなくて・・・。でも、優一さんに勇気を出して立ち向かう晴彦を見てね、私も勇気を出さないとって思ったんだ。」


美玲の言葉に晴彦は笑い出した。今回の件で美玲には返しても返しきれないくらい世話になっていた。そんな美玲が遠慮がちに言ってくるのが晴彦には可笑しかったのだ。


「俺と美玲の間に遠慮なんていらないよ。なんでも聞いてよ。」


晴彦は一息つき、真剣な表情で美玲を見つめた。


「俺は美玲に2度と嘘をつかないって決めたんだ。ちゃんと答えるよ。」


晴彦の言葉に美玲は大きく頷くと、ようやく意を決し、本題を話し始めた。しかし、その声は緊張から震えて、視線も下を向いて定まらず、晴彦の視線を避けていた。


「私ね・・・、はっ、晴彦の事がね、ず、ずっと好きなの!幼なじみじゃなくて、こ、恋人になりたいなーなんて思ってるんだけど、はっ、晴彦はどう思う?」


真っ赤な顔してしどろもどろに話す美玲は可愛かった。さっき、あれだけの男子生徒に囲まれた時に堂々と話していた姿とのギャップが凄いだけに晴彦は余計にそう感じた。


「えっ!」


晴彦は美玲の言葉が予想外で驚いた。恋愛に鈍感な彼はこの雰囲気で告白されるとは1欠片も想像していなかったのだ。


美玲の告白に、晴彦の顔が驚きとともに赤く染まった。今までの彼なら美玲からの告白に喜びつつも、自分とは釣り合わないとの思いから告白を受け入れるか悩みに悩んだ事だろう。しかし、成長した晴彦は違った。


<また、美玲から手を差し伸べてもらった。俺から言わないといけないのに。>


晴彦は心の中で反省して、自分の思いをしっかりと伝える決意をした。晴彦は、真っ赤な顔をしながらも、真っすぐに美玲を見つめ、ゆっくりと美玲に心からの思いを語った。


「俺も美玲の事が大好きだ!俺の恋人になって欲しい。」


晴彦は心からの本音を堂々と伝えた。もう、嘘をついて美玲を遠ざけようとする情けない晴彦はどこにもいないのだった。


晴彦の答えに結果を恐れて晴彦の顔が見れなかった美玲はゆっくりと顔をあげた。そして、嬉しさで涙目になりながら晴彦と見つめあった。


しばらく見つめあった後、感極まった晴彦と美玲は抱き合いお互いの温もりを感じあった。ベンチに置いていた鏡は、2人の絆を確認するかのように2人の姿を優しく映し出していた。


晴彦と美玲がそっと離れると、鏡が突然に光を放ち始めた。その輝きは夕暮れの街を照らす太陽の様に美しく、眩く、何より温かかった。そして、鏡の光は2人を包みこむと、2人以外のものが全て消えていく様に感じた。そして、不思議と公園内の騒めきも消えた。


晴彦と美玲が不思議そうに周囲を見渡していると、静寂を破って町娘の声が聞こえた。


「良かったね。私の分も幸せになって。」


光の中で町娘の声が響き渡った。その声は優しく慈愛にあふれており、晴彦と美玲の心を満たした。2人には真実の鏡は呪いの鏡であるという恐怖は無く、神々しさすら感じていた。


光が収まると、鏡はベンチから消えていた。あたりには再び子供たちの遊ぶ声が聞こえてきた。美玲と晴彦は手をつなぎ、微笑みながら公園を後にした。


「美玲!美玲から告白させてごめんな。俺もっと美玲に相応しい男になれる様に頑張るよ!」


「私に相応しいとか何言っているの?私は今の晴彦が大好きだよ。」


晴彦と美玲の微笑ましい会話を見守る様に、どこからともなく爽やかな風が吹いた。彼らが座っていたベンチの鏡が置かれていた場所には、一輪の美しい花が風に乗って舞い落ちていた。その花はまるで鏡からの祝福のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る