第23話
町を追い立てられた時に、一晩だけ二人で過ごしたアーセタの祖父の丸太小屋。
アーセタはケーニワベレの行くべき場所とは、絶対にここだと思っていた。彼なら最後にここにきてくれると根拠のない自信があった。
しかし、アーセタの思いを断ち切るように、丸太小屋を隅々まで探したが、彼がここを訪れた痕跡は見つけられなかった。
「自惚れだったのかな?」
丸太小屋の入り口に腰掛けて深く溜め息を吐いた。所詮自分などその程度の存在だ。
前髪を掻き上げて立ち上がると、ゆっくりと立ち上がった。
久々に気持ちを落ち着かせるために丘へ向かった。嫌なことがある度に来ていたあの丘だ。
あの日、ケーニワベレと並んで立ち、いいところだと気に入ってもらった場所。
丘へ向かって行き、アーセタは瞳を見開いた。そこにケーニワベレが立っていたのだ。
「ケーニワベレ!」
アーセタが名を叫んで駆け寄ると、ケーニワベレが振り返って微笑んだ。
だがアーセタが近付くに連れて、ケーニワベレの姿はどんどん透けていき、最後は透明になって消えてしまった。
そして、そこには、一本の樹木が立っていた。
その枝にはあの日、町で買ったお揃いのネックレスが樹皮から生えるように、挟まっていた。
「ケーニワベレ?」
アーセタは樹木に近付いてそっと触れた。樹木が微かに金の光を放って周りを浄化している。
『僕が守るよ。例え抱き締めることも話すことも見つめることさえ出来なくても』
別れ際に言ったケーニワベレの言葉が脳裏に蘇った。
アーセタは胸の奥から熱い衝動が込み上げてきて、瞳から留まることのない涙を溢れさせて樹木に抱きついた。
「約束……守ってくれたんだね……」
アーセタは樹木を力一杯で抱き締めると、嗚咽混じりに言葉を洩らした。
優しい光がアーセタを包み込んで、ケーニワベレに頭を撫でられているような気がした。
セイント ふんわり塩風味 @peruse
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