第23話 作戦会議

 今回は、両校とも四人が出場し、一人につき四百字を二十分で書くルールだ。


 書く人は学校ごとに用意された別室に移って書く。そして残りのメンバーは、森晶先生の講義を受けながら出番を待つ。そんなやり方で進められる。

  

 大会議室の前方には二つの電子黒板が置かれた。別室で書く人の様子が映るのだ。すでに一人目が準備中だった。


 電子黒板の電源が入る。画面のひとつに、サトちゃんが手を振っている姿が映った。

  

「サトちゃん!」

「サト!」

「みんなー、やっほー。映ってるー?」

  

「映ってる映ってる!」

「おーい!」

  

 ひぐらし小のメンバーは大騒ぎだ。報道席のエマも手を振り、声をはりあげている。

  

 司会のお姉さんがマイクで話した。

「皆さまにお伝えします。ひぐらし小のメンバーのひとりは現在入院されていますので、病院からオンラインで参加します」

 その説明に、観客から歓声が上がった。

  

 わたしは最初、会場が区立文化会館なので、サトちゃんは参加できないと思っていた。


 ソーサクくんに指摘され、事務局に問い合わせると、別室で書くやり方だったこともあり、オンライン参加が認められた。

  

 問題は、サトちゃんに、やる気があるかどうかだ。


 わたしはカナ先生と一緒に、病院を訪れた。サトちゃんのママと、主治医の先生もまじえて、相談したのだ。


「わたし、出てみたい」

 サトちゃんは、はっきりそう言った。

  

「サトちゃん、今回は対戦だから、正直、プレッシャーがあるかも」

「わたし、みんなの役にたちたい。頼ってくれて、うれしいよ」


「ほんとに大丈夫?」

「うん。部活の試合にも、あこがれていたから。ちゃんと書けるかは不安だけど」

「内容なんて気にしないで。迷ったら、無言のセリフ『……』でつないでいいから」

 わたしは笑いながら言った。

 サトちゃんも笑った。

「あはは。それ、いいね」

  

 そんなやりとりがあって、サトちゃんの出場が決まったのだ。


 もうひとつの電子黒板には、文林小の一人目の女子が映っていた。両校のメンバー表は以下の通り。

  

 文林学院小学部文芸部

 ① 泉飛鳥(いずみ・あすか)

 ② 石川京介(いしかわ・きょうすけ)

 ③ 志賀晴人(しが・はると)

 ④ 武者小路唯(むしゃこうじ・ゆい)

  

 区立ひぐらし小学校リレー小説部

 ① 太宰里(だざい・さと)

 ② 谷崎新(たにざき・あらた)

 ③ 森創作(もり・そうさく)

 ④ 夏目夢(なつめ・ゆめ)

  

 文林小が、ユイはわたしと、志賀センパイはソーサクくんと、それぞれ同じ順番がいいと言ってきた。だからメンバー表は先に書いて渡した。

  

 司会のお姉さんが宣言する。

「それではリレー小説を四人制の対戦でとりおこないます。最初に、今回のお題を発表します。お題は——」


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎


  わたしは三日前の放課後に開いた「作戦会議」を思い出していた。


 大学病院の談話室に集まり、サトちゃんも一緒に作戦を練ったのだ。

  

「やるからには勝つ! そうだよな、みんな」

 アラタが力をこめて宣言する。

 サトちゃんがまぶしそうに拍手したが、エマは微妙な表情だ。

  

 エマがアラタに言う。

「アラタ、おまえが一番の不安材料だよ」

「なんでだよ。エマはおれの活躍をちゃんと取材しろよ」

「いまからでも遅くない。わたしと交代しよう」

「何言ってんだよ。おれは絶対に出るぞ」

  

 わたしはソーサクくんに言った。

「わたしも、やるからには勝ちたい。森晶先生に、少しでも認めてもらいたいから」

 ソーサクくんがうなずく。

「ぼくも勝つつもりでやる。このメンバーならチャンスはあると、ぼくは思っている」

  

 ソーサクくんがそう言うと、なんだか自信がわいてくるから、不思議だ。


 わたしはたずねる。

「ねぇ、リレー小説の必勝法ってないの?」

「やり方はいろいろあるよ。教えられることは教えよう」

  

 エマがそこで聞いた。

「前から思っていたんだけどさ。事前に書く内容を決めておいたらいいんじゃないの?」

 わたしは首をふった。

「そんなの、おもしろくないよ。出たとこ勝負で書くのが楽しいのに」

「ユメっちって、おとなしそうな顔しているのに、けっこう勝負師だよね」

「えー。なにそれ」

  

 ソーサクくんが言う。

「大会では、事前に決めた内容を書くチームも多いよ。ただし、お題は直前に発表される。今回は順番が自由だけど、通常は順番もわからない。決めた内容にしばられすぎると、よい結果にならないことが多いね」

  

 エマが質問する。

「お題って、どんなの?」

「いろいろあるよ。いまの時期なら、例えば『梅雨晴れ』とか。抽象的なものなら『大切なたからもの』とか」

「そんなお題なら何とかなりそう」

  

「みんなが知っている物語がお題の場合もある。『桃太郎』とかね」

「桃太郎なんて、書くこと決まってるじゃん」

「そのまま書いたらつまらないから、アレンジするんだよ」

「へぇ、面白そう。三匹の仲間が、猫とスズメとミツバチだったり?」

「そうそう。舞台が現代だったり」


 ソーサクくんがみんなに言う。

「後は、ぶれない軸を決めておく手がある」

「ぶれない軸って何?」

「これだけは外せない決まり、みたいなものだよ」

  

 わたしはサトちゃんに聞いた。

「サトちゃんなら、どんな話が読みたい?」

「わたしだったら、ハッピーエンドだね。なんといっても」

 サトちゃんは笑顔でそう答えた。


  ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

  

 会場が一瞬、静まり返った。

 司会の人が言葉を続けた。

  

「——今回のお題を発表します。お題は、シンデレラです」

  

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