第12話 参加してみようよ

 エマとアラタとソーサクくんが戻ってきた。ペットボトルのお茶を人数分、買ってきてくれた。

  

「サトちゃん、麦茶でいい?」

「いいよー」

「よかった。じゃあ、ティータイムにしよう」

  

 みんなが丸テーブルに集まる。

 わたしはさりげなくソーサクくんに話しかけた。


「ソーサクくん。病院の場所、すぐわかった?」

「うん」

「来たことあったの?」

「あったよ」

「そうなんだ。お見舞いとか?」

「まあね」

  

 会話が続かない。まあねって何だよ、と言いたくなる。でも聞きにくいので、これであきらめた。


 ソーサクくんは、小説に関してはそれなりに話してくれるけど、自分のことはあまり話さないから。

  

 カバンの中には、森晶先生のイベントのチラシが入っている。でも、いま話題にするのはやめた。もうちょっと打ちとけてからの方がよさそうだ。

  

 それから、わたしはリレー小説部を結成したことをサトちゃんに話した。

「リレー小説部って、何それ!」

「ふっふっふ。聞いて聞いて」

  

 活動内容を説明し、それからこのまえ四人で書いた「まぼろしのタコ焼き」をサトちゃんに読ませた。

 ちゃんと一話ずつ順番に読んでもらった。サトちゃんは読むたびに大笑いした。


「あははは。これ、面白すぎる!」

「面白いでしょ。アラタの三話目なんて、大ウケ」

「悪かったな。大ウケで」

「アラタくん。とってもいいよ。ザンシンだよ」

「サトもそう思うだろ? エマとユメはわかってくれないんだ」


 それから、いまここで「リレー小説をやろう」ということになった。


「サトちゃんもやろうよ。五人で順番に書く?」

「わたしは、今回はいいや」

「そうなの? おもしろいよ」

「ううん。とりあえず、みんなが書くのを見てるから」

 サトちゃんが参加を辞退したので、残りの四人でやることにした。

  

 順番は、じゃんけんをして、アラタ、ソーサクくん、わたし、エマ、となった。

「きょうは制限時間を設けよう」というソーサクくんの提案で、ひとり五分で次にまわす。

 書く人は、となりのテーブルで書く。待っている間、ほかのみんなはウノをして遊ぶのだ。

  

「アラタ、わたしはタラア先生の話が読みたいなぁ」

「エマ、その手にはのらないからな」

「えー、シリーズにしようよ。タラア先生の事件簿じけんぼ

「話がまたタコ焼きになっちゃうよ」

「あはは」

  

 結局、アラタは今日のサッカーの試合について、日記みたいな話を書いた。

 そこからソーサク君とわたしが話をふくらませて、エマがその流れをぶった切るような、あっけにとられるオチを書いた。


 コピー機がないので、テーブルに置いた紙をみんなで顔をよせて読み、大笑いした。

「これ、ひどい出来だよね」

「話の流れが、さすがにめちゃくちゃだよね」

 サトちゃんは笑いすぎて涙を流している。わたしも息がつまりそうだった。

  

 続いて、もう一回やることにした。

  

 サトちゃんはやはり参加を遠慮した。

「わたし、見ているから、いいよ」

「サトちゃん、試しに参加してみようよ。面白いよ」

 声をかけたが、サトちゃんは首をふる。

「サト。ぜったいおれよりもうまく書けるって」

 アラタも誘ったが、サトちゃんはかたくなだ。

 アラタの前だから、はずかしいのかもしれない。わたしはそう思い、それ以上誘うのをやめた。

  

 再びじゃんけんをして、エマ、わたし、ソーサクくん、アラタの順番になった。


 エマは一話目に、タラア先生を登場させた。

 アラタが声をあげる。

「エマ、人のキャラクターをパクりやがったな」

「うししし」

 続いて、わたし、それからソーサクくんが、話をふくらませる。

 さぁ、アラタがどうオチをつけるのか。みんなが期待したが、結果はなんと「時間切れ」だった。


「みんな、ごめん。オチを五分で考えて書くのは難しいわ」

「アラタ、ドンマイ」

「わたしだったらどう書いたかなぁ」

 オチがつかず残念だったけど、書きかけの作品について意見を言い合うのも面白かった。

  

 そのとき、サトちゃんがポツリと言った。  

「みんな、すごいなぁ」

「全然すごくないよ」

「ううん、すごいよ。わたし、文章を書くのって、苦手なんだ」

「そうなの?」

「うん、宿題の日記も、ずっと病院にいるから書くことがなくて困っちゃうし」

 

 あぁ、そうか。

 だから参加しなかったのか。わたしは、「しまった」と思った。


 もとはサトちゃんを喜ばせたいというのが出発点だった。でも、書くことが好きでないなら、話は別だ。

  

「そうだったんだね。ごめんね」

「あっ、違うの。あやまらないで。みんなが書いたのを読むのは、すごく楽しいよ」

  

 そのとき、ソーサクくんがつぶやいた。

「書くことって、自由なんだ」


 みんながソーサクくんに注目する。


 ソーサクくんは、わたしを見て、それから、サトちゃんを見ると、言葉を続けた。


「大変な状況のきみに、こんなことを言って、的はずれだったら、ごめん。でも、言っておきたくて。空想することも、書くことも、すごく自由なんだ」

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